S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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神の名を冠する国

第六百五十二話 候補者の行方

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地下水路の激闘の他には翼竜厩舎ではニーナがレオニルと共闘しており、土の塔ではレインとマリンがリオンとユリウスの戦闘を見守っている。

「妙に静かですわね」

外の喧騒とは対照的なミリア神殿内部。
少し前には地響きが起きており、サナとカレンによる魔法【彲】が空へと駆けて行った音なのだということをエレナは知る由もない。

「それにしても、これほどの広さ」

そのミリア神殿の廊下の角、エレナが辺りを見回す。散開した仲間達がパルストーンの至る所で行動を起こしていることを未だに知らない。窓の外にはいくつもの煙が上がっており、明らかに戦火が広がっていた。

「みんなは無事ですの?」

逸る気持ちを抑えて冷静さを保つ。

「これは、何かが起こっていますわね」

明らかに事態が切迫しているのだと。仲間達の無事を祈りながら、とにかくエレナには今できることを行うのみ。

「――……あれは確か」

そうした中、ふと遠くを歩く姿に見覚えがあった。煌めく程の白の鎧。光の聖女アスラ・リリー・ライラックの聖騎士。

「第一聖騎士、リンガード・ハートフィリア」

数えるほどしか目にしていないが、あれほどの鎧を身に付ける者など見間違えるはずがない。

「どこにいきますの?」

チラと街の方に目を送り思案する。
考えるのはどうして街がこれほどの事態に陥っているにも関わらず聖騎士が神殿内にいるのか。内部の人がほとんど出払っているのは恐らく街の騒動の収拾に向かっているため。それだというのに真っ先に出向かなければいけない聖騎士が中に残っている。

「…………」

気にはなるのだが、今は誰かと合流することが先決。リンガード・ハートフィリアに背を向け、一歩足を踏み出すのだが思い直して踵を返す。

「やはりもう少し調べてからにしますわ」

深入りするつもりはないのだが、上手くいけば何らかの思惑が掴めるかもしれない。
そうしてエレナは聖騎士の後を尾けることにした。





『あなたは、本当に私が風の聖女に相応しいと思っているのですか?』
『えぇ。もちろんですともぉ。少しでいいので考えて頂ければ助かりますわぁ』

問い掛けるのはナナシーであり、笑みを浮かべながら言葉を返すのは土の聖女ベラル・マリア・アストロス。

(そんなこと、できるわけないじゃない)

現在ミリア神殿内の土の塔。その最上階にある一室で待機させられている。

(それにしても、いつまで待てばいいのかしら?)

右手でくるくると毛先を巻いて暇を持て余していた。左手の指先から伸びるのは魔力の糸。限界まで薄く伸ばしたその魔力感知をする蔦。

「あれ? この魔力って」

塔の下に伸ばしたところ、感じ取ったのは良く知る魔力反応。

「マリンさんとレイン? それにしても……――」

明らかにおかしな感覚を得た。

「――……もしかして、何かと戦っている?」

魔力の浮き沈みの激しさ。伴って攻撃的な意思を宿している。

「どこにいきなさる?」

立ち上がり、ドアの取っ手に手を掛けたところ、先に開けられた。
目の前にはドアを塞ぎきる巨体。土の第三聖騎士ゴズ・スカル。

「あー、いや、あはは。ちょっとだけ」

指先をちょこんと摘まむナナシー。

「なりませんな」
「いたっ」

グッと肩を掴まれる。

「あなたはベラル様の指示通り、ここで過ごして頂かないと」
「それって、私に出ていかれると何か困る理由でもあるの?」
「……何故そう思われますかな?」
「あー、いや、だっていくらなんでもちょーっと自由がないかなぁって」
「それは勿論あれだけのことをしでかしたのですから仕方ありませんな。さ、お座りください」
「だったら、どうしてその私が風の聖女候補に祭り上げられるかしら? 仮にも聖女裁判で問題を起こした人の仲間である私を」
「…………」

ギロリと睨みつけられる視線に不快感を示すナナシー。

「余計なことを勘繰る必要はありませんな」
「……へぇ」
「それと、余計なこともされぬように」

ゴズ・スカルは背後に腕を振り、手の中に植物を掴む。

「あっ、気付かれちゃったのね」
「なんのつもりですかな?」

ブチッと引き千切るゴズ。すぐさま萎れる植物。

「植物も生きているのよ? 丁寧に扱ってもらいたいわね」
「ならばこのようにコソコソとするのは如何なものかな」
「へぇ。だったら正面からいくわ。それならいいのよね?」
「……ふぅ。これはとんだお転婆ですな。ベラル様の指導が入るよりも先に、オレがその根性を叩きのめしてやろう」

背中に腕を回すゴズ。手に持つのは巨大な棍棒。

「叩き直すのじゃなくて叩きのめすのね」

軽く言葉を返してみたのだが、冗談が全く通じていない。

「はぁぁ。それがあなたの本性ってわけね」
「痛い目に遭って泣き喚くなよ小娘」
「さーて、泣き喚くのはどっちの方かな?」
「なに?」
「油断していると足下をすくわれるとはよくいうけど」

指を下向き、床を差す。指の動きに目線を釣られるゴズ。

「何が言いたい?」
「そんな大したことではないわ。視野は広くしておかないと。背中以外もね」
「なにっ?」

そのままゆっくりと上に向けた。ゴズが見上げるとそこには天井を這う蔓。

「がっ!?」

シュルリと首にまとわりつく蔓。

「上も見ておかないとダメよ?」

片目を瞑り、ニコリと微笑む。

「が、が、がっ」

首に手を送り、ゴズは苦悶の表情を浮かべた。

「ごめんなさいねぇ。ちょーっとだけ眠っててもらうわ」
「ぐぅっ……」

背を向け、手を振り部屋を出ようとするナナシー。

「!?」

直後、不意に背後から明確な殺意を得る。

「キサマ、許さんぞッ!」
「あら? あなた、ちょっと感じが変わった?」

口ではそう言うものの、ナナシーの目に映る聖騎士はとても聖騎士と呼べたものではない。

「どうやら、魔族が入り込んでいたみたいね」

肌を黒く変色させ、鋭く爪を伸ばしているその異形の姿。
予めその可能性は考えていた。そして実際にその目にして遠慮はいらないのだと。

「おかしいと思っていたのよね。私を聖女にだなんて」
「フッ。ソレに関しては間違いはない。キサマを我等の操り人形に仕立て上げる予定なのだからな」
「へぇ。だったらその陰謀、全てを私が――いえ、私たちがぶっ潰してあげるわ」

蔓を束ねて、まるで刺突剣の如く作り上げた。そのまま異形の聖騎士へと向ける。

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