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第5章 35歳にして、愛について知る

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汗で濡れた体を洗い流すため、蓮さんはシャワーを浴びに浴室へ行った。
そして残された僕らはリビングのテーブルに向かい合わせになって座り、僕は事の経緯を説明した。

「……つまり、体調が悪いけど家に帰れない彼を気遣ってここに連れて帰った、というわけだね」
「はい……」
「そしてベッドに寝かせたら、寝ぼけた彼に引っ張り込まれて身動きが取れずそのまま寝てしまった」
「全くもってその通りです……」

晴仁は難しい顔をしながら僕の要領の得ない話をまとめてくれた。
普段見ないその難しい表情に、僕は思わず敬語で返した。
そのことに気づいた晴仁は、僕を安心させるように微笑んだ。

「こーすけ、なんでそんなに恐がってるの? 敬語なんて使って」
「いや、なんか怒っているような気がして……」

笑っているけれど目は全然笑っていないような気がしてならない。
家主に無許可で他人をあげたとなれば怒られて当然だけれども……。
晴仁はにっこりと笑みを深めた。

「うん、そうだね。ものすごーく、怒ってる」

ひぃぃぃ!
普段温厚な人間が怒るのはーーしかも笑顔でーー、相当な破壊力がある。
僕は勢いよく頭を下げた。

「ご、ごめん、本当にごめんなさいっ。そうだよね、普通自分の家に勝手に人をあげられたら怒るよね。その上ベッドまで使わせてもらって……」

考えてみれば僕の行動はあまりにも非常識だ。
僕は晴仁の優しさに甘えすぎていた。
優しい晴仁なら事情を話せば許してくれると思っていた。
申し訳ない気持ちでいっぱいで顔を上げられないでいると、不意にぽんぽんと頭を撫でられた。
顔を上げると、そこには目もちゃんと笑っている晴仁の笑みがあった。

「ごめん、ちょっと意地悪しすぎちゃったね。大丈夫だよ。そんなに気にしなくていいよ」
「晴仁……っ」

僕を気遣った優しい言葉に、滅多に見ない晴仁の怒りを見た後もあって、安堵の涙がうるっと目尻に滲んだ。
その顔があまりにも間抜けだったのだろう、晴仁はくすっと笑って、僕の頬に手を添え、その親指で目元をさすった。

「でも、いくら事情があっても、もうこの家に他人を上げないようにしてね」
「あ、うん、それは絶対しないよ!」

力強く何度も頷く僕に、晴仁の目元がほころんだ。

「僕のわがままをきいてくれてありがとう。神経質と思われるかもしれないけど、僕は自分の家に他人を入れるのが実はすごく嫌なんだ」
「え! そうなんだ!」

長年親友をしてきたけれど、温厚で誰にでも優しく気さくな彼に、そういった面があるとは知らなかった。
でもそういう優しい人だからこそ、家くらいでは誰にも気を遣わず自由でいたいのかもしれない。

「そうだよね、晴仁は気遣いするタイプだから家くらいではゆっくりくつろぎたいよね」
「んー、ちょっとそれは違うかな」
「え、違うの?」

驚いて思わず目を瞬かせる。
そんな僕に少し困ったように笑いながら、晴仁は言った。
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