【R18】メンヘラ製造機アイドルと囚われお姫様

クロキ芽愛

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第一話

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 シャキという音が浴室に響く度、髪がパラパラと床に落ちていく。本職と遜色ない手さばきは見事と言う他ない。後ろから聞こえてくる鼻歌は質の良いBGMのようだ。

 ご機嫌で彼女の髪を切っている彼、池田いけだ まさるを他所に川上かわかみ かなえは考え事をしていた。
 もし今、彼のファンに「代わってあげるから、いくらくれる?」と聞いたら一体いくら払ってくれるのだろうかと、真剣に予想を立てていた。

「終わったよ」

 彼の声に顔を上げる。鏡の中の自分と目が合った。自分ではどこが変わったか全くわからないが、彼が満足そうにしているので「ありがとう」と返す。

「どういたしまして。それじゃあ……ん!」

 くるりと振り向かされ、優が唇を突き出してきた。いつものオネダリに仕方がないと背伸びをして唇を重ねる。お決まりの展開に今日こそは口付けコレだけで済まそうと胸板に添えた手に力を入れた。
 そんな叶の思考はお見通しとばかりに優が叶の後頭部に片手を回し、逃がすまいと引き寄せた。開いた唇の隙間から舌をねじ込む。
 浴室内に生々しい水音が響いた。ねっとりと口内を犯され、身体の奥で熱が燻り始める。うっすらと目を開くと、優と目が合った。彼はいつもそうだ。一時も叶の表情を見逃したくないと口付けの最中でも目を閉じようとしない。叶はそれが嫌で堪らなかった。羞恥心で死にそうになる。
 けれど、優にとっては叶のその感情すら興奮に繋がった。もっと、もっとと貪欲に求めてしまう。
 口付けだけで腰を砕かされ、浴室に座り込んでしまった叶を満足気に優が見つめる。
 優が叶の着ている服に手をかけた。慌ててその手を掴んで止める。

「今日は、ダメ」
「って、叶はいつも言うけど、結局流されちゃうよね」

 そこが可愛いとばかりに微笑む彼に言い返せず、黙り込む。

「このままお風呂、入っちゃおうか」

 叶が返事をする間も与えず、優は服を脱ぎ始める。均整の取れた身体が惜しげも無く叶の前に晒された。悔しいが見惚れてしまう。思わず上から下まで見て……身体を翻した。
 浴室の戸に手をかけたところで、後ろから抱きつかれた。
 グリッと腰あたりにかたくなったものが当たる。
 耳元で囁かれた。

「ダーメ。逃がさないよ」

 そのまま耳に舌が差し込まれた。与えられる快感から逃れようとする間に一枚、また一枚と服が脱がされていく。全部脱がされた叶はもう抵抗する気力も残っていなかった。

「すごっもう準備万端だね」

 長い指が濡れそぼった秘部をなぞる。つぷり、と指が差し込まれた。
 中はトロトロになって解れている。このまま挿入してしまってもいいが、もう少し叶を感じさせたい。優は叶を壁にもたれかけさせると片足を持ち上げた。抵抗される前にと、敏感な場所に舌を這わせる。

「あ、あ、ソコダメっや……優っお願っ」
「ダーメ…。…俺の舌でイッてよ」

 ジュルルルと激しい音をたてて吸い上げられ、叶は激しく身体を逸らして達した。

「はぁ……はぁ……え、?」
「次は一緒にね」

 頬を紅潮させぐったりしている叶を見て我慢出来なくなった優は、己のモノを奥まで一気に挿入した。叶が嬌声を上げ、ぎゅうぎゅうに優を締め付ける。この感覚が自分を求めてくれているようで堪らない。優はペロリと己の唇を舐めると、恍惚とした表情を浮かべた。

 最初は身体を労わってゆっくりと、慣れてきたら遠慮なく突き上げる。

 普段滅多に表情を変えない叶がこの時ばかりは別人のように乱れる。自分しか知らない顔。自分だけの特権。

 優は叶がギブアップを告げるまで抱き続けた。


 ――――――――


「もう、お風呂場でするの禁止」

 ドライヤーをかけてもらい、優がカチリと電源を切った瞬間を狙って叶は呟いた。

「え、なんで? 叶、気持ちよさそうにしてたよね?」
「……お風呂場は風邪引く」
「俺の事心配してくれてるの? もう……可愛いなぁー。大丈夫だよ、ありがとう」

 後ろから抱きしめて頭にチュッチュッと口付ける。そうじゃない、と言える雰囲気ではなかった。
 そういえば、と話さないといけないことを思い出し、とんとんと優の腕を叩く。

「ん? なぁに?」
「週刊誌、見たよ」

 一瞬の無言。

「そっかぁ……見ちゃったのかー。でも、安心してね? ちゃんと処理済だから」
「……付き合ってたんじゃないの?」
「そんなわけないでしょ。俺の恋人は後にも先にも叶だけだから」
「キス、してた」
「それは……ゴメン。避けきれなかった」

 抱きしめた腕に力を込めて、叶の肩に額をつけて呟く。

「少しも揺れなかったの?」

 のお相手は某有名女優だ。優が惹かれてしまったとしても仕方がない。
 叶の発言にバッと身体を離すと、向き合うように座り直す。
 真っ直ぐに見つめて優は断言した。

「一ミリもなかった! むしろ0どころかマイナスだ! 知ってるでしょ? 俺には叶しかいないって」
「……うん」
「でも、不安にさせたのは、ごめん」
「別に……」
「大丈夫! もう、アレと顔をあわせることは絶対ないから」 

 ね?と笑う優に、叶の顔が青ざめる。優が絶対と言うならばなのだろう。

「叶」
「な、何?」
「不安にさせたお詫び、させて?」
「え、いや、いいよ。大丈夫……その、優のこと信じてたから」

 だから、お詫びはいらない。と続けたかったのに何故か上機嫌になった優に抱きかかえられた。マズイと思ったがこうなった優を止める手段は無い。
 叶を抱えて優は寝室のドアを開ける。
 パタンと扉が閉まり、部屋の中からは数時間もの間叶の喘ぎ声が漏れ続けた。


 ―――――――――



 まだ日が昇っていない早朝、優は叶の枕元に腰掛けていた。
 恋人の可愛い寝顔には疲労感が浮かんで見える。
 昨晩は叶のあまりの可愛さに理性が負けて好きなだけ貪ってしまった。今日は確かバイトが無いから一日ベッドの住人のようになって過ごすのだろう。
 申し訳ないとは思うが、叶が可愛すぎるせいでもあるので許して欲しい。

「叶、愛してるよ。いってきます」

 少しかさついた唇に己の唇を重ねる。存分に堪能していたらギリギリになってしまう。名残惜しいが優は叶から離れ、音を立てないように気をつけて寝室を出ていった。



 玄関の鍵が閉まる音が聞こえて、ようやく叶は目を開いた。
 サイドテーブルで充電していたスマホを手に取る。
 電話帳を開くと一件連絡先を削除した。

「……今度こそと思っていたんだけど、ダメだったか」

 ポイッと八つ当たりするようにスマホを放る。
 どこで自分は間違ってしまったのだろうかと今日もまた自問自答する。
 答えは決まっているのに。
 あの時の自分に教えてあげたい。

ヤンデレソイツと付き合うのだけは止めておけ』と。
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