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ずっと×一緒に=儚い望み 4
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腹を抱えて笑う架と市太。なぜ二人に笑われているのかわからない一玖が怪訝そうな顔をする。
「はは、はあ~・・・。一玖お前、ズル賢いの純粋なの、どっちなんだよ」
市太が言うと「どういう意味ですか」と一玖が聞き返す。
「『宝物』は、いらなくなったら捨てるつもりか? 捨てられたら誰かに拾われてもいいんだな?」
「そんなのダメですよ!架が誰かに・・・絶対許せない」
一玖の言葉が嬉しい反面、だったらどうして、と架は思う。しかし口にしてしまえば一玖に縋る気持ちが溢れそうで、黙ったままで唇を噛んだ。
「許嫁と架、両方手に入れるつもりか?お坊ちゃんは何でも自分のものにできるって親に教わって来たんだな」
「違う!そりゃ大抵のものは努力しなくても与えられたし手に入った。でも架は・・・」
架は違う。自分から欲しいと望んで、どうやったら手に入るか頭をフル回転させて。何かを、誰かを手に入れるために悩んだり行動したりしたことなんて、架以外に一度も無いし、きっとこれから先もありえない。
「架、俺と一緒に来て」
一玖が架の前に手を差し出す。
その手を見つめながら、架は複雑な気持ちになる。
「どこへ」
この手を取ったら、限られた一玖との時間を「それでいい」と認めることになる。俺は、いつか別れなきゃいけないとわかってて、それでもやっぱり一玖が好きで一緒にいたい。
「どこでもいい。架と一緒にいたい」
数年後の一玖の気持ちはわからない。でも今は俺と同じ気持ちでいてくれてる。すげぇ嬉しい。
架は差し出された一玖の手を握り返す。
「コンビニ付き合って」
「へ? コンビニ・・・?」
「玉子買って来いって言われてんだ、俺」
「また玉子っ!? 架んち、玉子食い過ぎ!」
「しょうがねぇだろ。妹が玉子ばっか食うんだって」
「もー、わかったよ。付き合う」
架と一玖のやり取りを見ていた市太は疎外感にも似た寂しさを感じる。それでも架の笑顔を見れば幸せな気持ちにもなり、一玖への苛立ちもいつの間にか消えていた。
「玉子、俺が買って持ってくよ。お前らは好きなとこ行ってこい」
もし架がこんな風に笑えなくなる日がいつか必ず来てしまうなら、今は少しでも長く笑ってて欲しい。
ムカつくけど、それを叶えてやれるのは一玖だけだから。
架と一玖の背中を押して、市太はフッと笑って片手をヒラヒラと振る。
「ありがと」と言って一玖と手を繋いだまま歩いて行く架の後ろ姿を見て、親ってこんな気持ちなのか・・・、と しみじみ思うのだった。
一玖に手を引かれ電車に乗り、架が連れてこられたのは降りた駅に直結する30階を超えるラグジュアリーな雰囲気のホテルの前。
「架はチェックインのサインだけしてくれればいいから」
「チェックイン・・・」
って!! なに?ここ入んの!?
「いいい一玖!俺そんな金持ってねぇから!」
「大丈夫だよ。兄貴から小遣い貰ったし心配しないで。ここのオーナーとウチの親父 従兄弟だし、最悪コネ使うから安心して」
出た!クソ金持ちのコネ乱用!
戸惑いつつも自分の名前で勝手に予約されたホテルのフロントでサインを済ませ、架は挙動不審になりながらも上階の部屋へ。
「おおおお前、なんでそんなシレッとしてんだよ!」
慣れた様子の一玖に比べ、オドオドした自分が恥ずかしくなる架。
「ウチの旅館もこんなもんでしょ。外装や内装は違うけど、宿泊代はそんなに変わんないよ。この部屋は安い方だし週末に空いてたの奇跡だよ。つーか俺達があっちで滞在してた部屋、一人一泊8万超えてるからね?」
そうなの!? 一玖と一緒にバイトしに行ってなかったら一生泊まんない部屋じゃん!
「わざわざこんなホテル予約してなんなんだよ。一緒にいれるならどこでもいいって・・・」
「恋人がいるのに、他の女と同じ部屋で寝れるわけないでしょ。それに、どこの誰のかもわかんないザーメンの臭いが染み付いたホテルで、架を抱くわけにいかないよ」
羽織っていたジャケットを脱いでシングルソファに投げ掛ける一玖の仕草がどことなく大人びて見え胸が高鳴る架。なぜか気恥ずかしくもなり、近付いて来る一玖を直視できない。
そんなイケメン発言したって、高校生のくせに。小遣いでこんなホテルに連れて来るくせに。
なのに、なんでこんなにも一玖がカッコ良く見えるんだよ、俺!ラブフィルターかかり過ぎだろ、俺!!
一玖の手が頬に触れ、架は反射的に身構える。
「顔、冷たい。ごめん、俺 気が利かないね。・・・上着、架に掛けてあげればよかった。クソ、カッコ悪・・・」
はあ、と一玖の大きな溜息。
そんな彼が今度は可愛らしくて堪らなくなり、架は自分から一玖の首に巻き付くように腕を回す。
「いいよ、そんなの気にしなくて。一玖、俺から遠くなんないで。住む世界が違うって、思い知らせんなよ。今はまだ一玖の近くにいたいよ俺」
一玖の家のこと、許嫁のこと・・・椅子に投げたあのジャケットだって、俺がひと夏必死でバイトしてやっと買える値段のものだ。きっと俺なんかじゃ一玖には釣り合わない。その前に、男の俺じゃ釣り合う以前の問題だっつーの。
「架、好きだよ。俺やっぱり架を手離したくない。ずっと」
架との別れがまだ先のことでも、いつかカスミと結婚しなきゃいけない運命でも、架を失うくらいなら俺は・・・
「うん。俺も」
一玖の言葉がいつか嘘になるとわかっていても、架はそう答える。
いつか来る別れは今じゃない。それだけで俺は幸せだ。
架は瞼を伏せ、ゆっくりと重なる一玖の唇を受け止めた。
「はは、はあ~・・・。一玖お前、ズル賢いの純粋なの、どっちなんだよ」
市太が言うと「どういう意味ですか」と一玖が聞き返す。
「『宝物』は、いらなくなったら捨てるつもりか? 捨てられたら誰かに拾われてもいいんだな?」
「そんなのダメですよ!架が誰かに・・・絶対許せない」
一玖の言葉が嬉しい反面、だったらどうして、と架は思う。しかし口にしてしまえば一玖に縋る気持ちが溢れそうで、黙ったままで唇を噛んだ。
「許嫁と架、両方手に入れるつもりか?お坊ちゃんは何でも自分のものにできるって親に教わって来たんだな」
「違う!そりゃ大抵のものは努力しなくても与えられたし手に入った。でも架は・・・」
架は違う。自分から欲しいと望んで、どうやったら手に入るか頭をフル回転させて。何かを、誰かを手に入れるために悩んだり行動したりしたことなんて、架以外に一度も無いし、きっとこれから先もありえない。
「架、俺と一緒に来て」
一玖が架の前に手を差し出す。
その手を見つめながら、架は複雑な気持ちになる。
「どこへ」
この手を取ったら、限られた一玖との時間を「それでいい」と認めることになる。俺は、いつか別れなきゃいけないとわかってて、それでもやっぱり一玖が好きで一緒にいたい。
「どこでもいい。架と一緒にいたい」
数年後の一玖の気持ちはわからない。でも今は俺と同じ気持ちでいてくれてる。すげぇ嬉しい。
架は差し出された一玖の手を握り返す。
「コンビニ付き合って」
「へ? コンビニ・・・?」
「玉子買って来いって言われてんだ、俺」
「また玉子っ!? 架んち、玉子食い過ぎ!」
「しょうがねぇだろ。妹が玉子ばっか食うんだって」
「もー、わかったよ。付き合う」
架と一玖のやり取りを見ていた市太は疎外感にも似た寂しさを感じる。それでも架の笑顔を見れば幸せな気持ちにもなり、一玖への苛立ちもいつの間にか消えていた。
「玉子、俺が買って持ってくよ。お前らは好きなとこ行ってこい」
もし架がこんな風に笑えなくなる日がいつか必ず来てしまうなら、今は少しでも長く笑ってて欲しい。
ムカつくけど、それを叶えてやれるのは一玖だけだから。
架と一玖の背中を押して、市太はフッと笑って片手をヒラヒラと振る。
「ありがと」と言って一玖と手を繋いだまま歩いて行く架の後ろ姿を見て、親ってこんな気持ちなのか・・・、と しみじみ思うのだった。
一玖に手を引かれ電車に乗り、架が連れてこられたのは降りた駅に直結する30階を超えるラグジュアリーな雰囲気のホテルの前。
「架はチェックインのサインだけしてくれればいいから」
「チェックイン・・・」
って!! なに?ここ入んの!?
「いいい一玖!俺そんな金持ってねぇから!」
「大丈夫だよ。兄貴から小遣い貰ったし心配しないで。ここのオーナーとウチの親父 従兄弟だし、最悪コネ使うから安心して」
出た!クソ金持ちのコネ乱用!
戸惑いつつも自分の名前で勝手に予約されたホテルのフロントでサインを済ませ、架は挙動不審になりながらも上階の部屋へ。
「おおおお前、なんでそんなシレッとしてんだよ!」
慣れた様子の一玖に比べ、オドオドした自分が恥ずかしくなる架。
「ウチの旅館もこんなもんでしょ。外装や内装は違うけど、宿泊代はそんなに変わんないよ。この部屋は安い方だし週末に空いてたの奇跡だよ。つーか俺達があっちで滞在してた部屋、一人一泊8万超えてるからね?」
そうなの!? 一玖と一緒にバイトしに行ってなかったら一生泊まんない部屋じゃん!
「わざわざこんなホテル予約してなんなんだよ。一緒にいれるならどこでもいいって・・・」
「恋人がいるのに、他の女と同じ部屋で寝れるわけないでしょ。それに、どこの誰のかもわかんないザーメンの臭いが染み付いたホテルで、架を抱くわけにいかないよ」
羽織っていたジャケットを脱いでシングルソファに投げ掛ける一玖の仕草がどことなく大人びて見え胸が高鳴る架。なぜか気恥ずかしくもなり、近付いて来る一玖を直視できない。
そんなイケメン発言したって、高校生のくせに。小遣いでこんなホテルに連れて来るくせに。
なのに、なんでこんなにも一玖がカッコ良く見えるんだよ、俺!ラブフィルターかかり過ぎだろ、俺!!
一玖の手が頬に触れ、架は反射的に身構える。
「顔、冷たい。ごめん、俺 気が利かないね。・・・上着、架に掛けてあげればよかった。クソ、カッコ悪・・・」
はあ、と一玖の大きな溜息。
そんな彼が今度は可愛らしくて堪らなくなり、架は自分から一玖の首に巻き付くように腕を回す。
「いいよ、そんなの気にしなくて。一玖、俺から遠くなんないで。住む世界が違うって、思い知らせんなよ。今はまだ一玖の近くにいたいよ俺」
一玖の家のこと、許嫁のこと・・・椅子に投げたあのジャケットだって、俺がひと夏必死でバイトしてやっと買える値段のものだ。きっと俺なんかじゃ一玖には釣り合わない。その前に、男の俺じゃ釣り合う以前の問題だっつーの。
「架、好きだよ。俺やっぱり架を手離したくない。ずっと」
架との別れがまだ先のことでも、いつかカスミと結婚しなきゃいけない運命でも、架を失うくらいなら俺は・・・
「うん。俺も」
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