第八皇子は人質王子を幸福にしたい

アオウミガメ

文字の大きさ
47 / 209
第壱部-Ⅴ:小さな箱庭から

46.日向 広がる世界

しおりを挟む
起きたらまだ暗かった。
ホーホーの声はしないけど、あおじもまだいない。
煌玉(こうぎょく)をコロコロして、隠れ家のかべにキラキラうつった星を見る。きれい。

まだみずちもうつぎも来ないね。
きがえるのと、顔をあらうのはまだ。朝ごはんもまだ。
でも目はぱっちりあいた。

左の胸のあおじをなでて、隠れ家を出る。
ぺたぺた部屋の扉にあるいていったら、ひょいって扉があいて、あずまの頭が入ってきた。

「起きました?早いですね、」
「うん、あずま、おはよう、」
「うん、おはようございます。お散歩ですか、」
うん、
「じゃあ、靴を履きましょう。廊下は少し冷えるから、上着も着ないと、」

ひょい、ってあずまは僕を抱っこして部屋に入ってくる。
僕よりちょっと大きいけど、しおうやとやよりうんと小さいのに、あずまは力もち。すごい。
昼ははぎながいるけど、朝と夜は、あずまか、うなみか、かんべがいる。そういうきまり。

あずまが僕の足を靴に入れて、もこもこの上着をかぶせた。

「うん、可愛い。」
「おさんぽ、いく?」
「ええ、行きましょうか、」




力持ちのあずまが、部屋の扉をあける。
手をつないで足をだしたら、部屋とはちがうふかふかになった。ろうか、って言う。
さんぽがはじまった時は固かったのに、いつの間にかふかふかになって、びっくりした。とやがしおうに「過保護だ」って言ったから、しおうが変えた気がする。すごい。

ろうかは、長い。いっぱい扉が並んで、ずっとつづいてる。
怖い気もしたけど、扉の向こうは、みずちやうつぎやはぎながいるってわかったら、きれいになった。ふしぎ。

「ろうかは、あの丸いのがあるから、明るい?」
「ああ、日向様の煌玉と同じですよ。魔力で明かりをともしています。」
「色がちがうは、何?」
「えーと、煌玉は、石の種類によって光り方が異なるんです。日向様の煌玉は、異なる色の光をいくつも放つけど、廊下を照らす煌玉は、広い範囲を橙に照らします。他にも白や赤、青の石なんてのもありますね。」
「あずまは、いっぱい知ってる、ね。すごい、」

僕が聞いたら、いつもいっぱい教える。はぎなみたい。
すごい、って言ったらあずまの目が見えなくなるくらい細くなった。うれしいの顔。

「日向様に教えたくて、勉強しました、」
「べんきょう、」
「知らないことを知ったり、新しいことができるように努力すること、かな。日向様の質問に答えたくて勉強してるけど、僕も知らないことばかりですよ。」
「僕も、しらない、がいっぱい、」

しらない、はかなしい。
部屋の外は、しらない、ばっかりだった。

「へやの外に、ね、こんなにいっぱい、へやがあるって、しらなかった。」

ここに来たとき、見たかもしれない、って思ったけど、わからない。
広くて、いっぱい部屋があって、僕の足でぜんぶあるくのは、たいへんだった。
2階はみんながねる部屋がある。お風呂もトイレもいっぱいある。いしょうしつ、としょしつ、ちんれつしつ、そうこ、ちゃしつもある。2階にいっぱいあるのに、1階にはもっとある。

「そうこはわかるけど、ぼくがしってるそうこと、ちがう。そうこは、いろんなそうこがある。すごいね。にれのお家は、そうこ、がにてる。けど、ここのそうこ、とちがう。」

ぎゅって、あずまが手をにぎる。なあに、って見たらまた目が細くなって、やさしい顔をした。

「…ほかには何がわかりませんか?」
「ぜんぶ、」
「全部かあ、」
「へやがわかったら、ね、いろんなものがあるのも、わかった。僕はいっこも、しらない。あずまはいっぱい、しってる。すごい、」
「…一つひとつ覚えていけばいいんですよ。みんなそうしてます。」
「みんな、いいよ、って言う。いっぱい教える。うれしい、」
「僕に聞きたいことがありますか?」
「ろうかの、絵、は何?」

すみれこさまが、みんなが気持ちよくなるように選んだ絵ですよ、ってあずまが教えた。
僕は小さくて絵が見えないから、あずまが抱っこして、いっこずつ見る。
紫色の小さい花の絵があって、「しおうみたい、」って言ったら、すみれっていう花って、あずまが教える。

「すみれこさまは、すみれ?」
「うん、菫がたくさん咲く頃に生まれたと言ってましたね。」
「すみれこさまは、すみれ。すみれは、花。きれい。」
「董子殿下に伝えてあげてください。喜びますよ、」
「あずまは?」
「僕ですか?うーん、僕の名前に大した意味はありませんよ。東(あずま)は方角の一つだけど、兄弟は皆方角とは関係ない名前だから。」
「きょうだいは、なまえ、かんけい?」
「ああ、親子や兄弟は、名前の一字を同じにしたり、関連する名前を付けることがよくあるんです。たとえば、皇室の人たちは、宮に関連した名前になります。紫鷹殿下は、半色乃宮(はしたいろのみや)の皇子だから、紫。殿下のお兄様とお姉様も紫が名前に入ります。」
「紫は、しおうの色?」
「そうです、」


すごい。
しらないが、わかる、になった。


「あるく、」
「足は痛くないですか?」
「大丈夫、」

足は痛い時もあるけど、あるきたい、がある。
いっぱいあるきたい。
いっぱいあるいて、いっぱいわかるに、なりたい。

しらない、がいっぱい、はかなしい。
でも、わかるが、いっぱいになる、はうれしい。

僕はあるく。
またしらない、がふえて、わかる、がふえる。
すごいね。
あるいたら、かなしい、もふえるけど、うれしいもふえる。
きれい。とてもきれい。

ろうかに、いっぱい絵がある。
絵がわかるになったら、しおうの名前までわかった。
しおうに、教えたい。


「しおうは、ねる?」
「いつもなら、まだ寝ていると思いますが、」
「まだねる?」
「ああ…うーん、日向様なら、いつ行っても歓迎してくれると思いますよ。お部屋にいきますか?」
「いく、」


あずまとあるく。
すごいね。
あるいたら、会いたいが、会える、になる。
しおうにも、とやにも、すみれこさまにも、はるみにも、たちいろにも、ひぐさにも、会える。


「おさんぽって、いいね、」


僕がいったら、あずまも「いいですね」って目が細くなった。
きれいだね。
しおりを挟む
感想 49

あなたにおすすめの小説

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

【本編完結】落ちた先の異世界で番と言われてもわかりません

ミミナガ
BL
 この世界では落ち人(おちびと)と呼ばれる異世界人がたまに現れるが、特に珍しくもない存在だった。 14歳のイオは家族が留守中に高熱を出してそのまま永眠し、気が付くとこの世界に転生していた。そして冒険者ギルドのギルドマスターに拾われ生活する術を教わった。  それから5年、Cランク冒険者として採取を専門に細々と生計を立てていた。  ある日Sランク冒険者のオオカミ獣人と出会い、猛アピールをされる。その上自分のことを「番」だと言うのだが、人族であるイオには番の感覚がわからないので戸惑うばかり。  使命も役割もチートもない異世界転生で健気に生きていく自己肯定感低めの真面目な青年と、甘やかしてくれるハイスペック年上オオカミ獣人の話です。  ベッタベタの王道異世界転生BLを目指しました。  本編完結。番外編は不定期更新です。R-15は保険。  コメント欄に関しまして、ネタバレ配慮は特にしていませんのでネタバレ厳禁の方はご注意下さい。

処理中です...