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魔王軍襲来

最強故に君が欲しい

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 俺様が産まれたのは、遠い昔。あまりにも昔で歳もよく覚えてねーし興味もない。進化を重ねて強くなり同じようなキングオークも成長し、領土を分けて争い競い合う日々が続いた。

 俺様が一番強かった。驕りでもなんでもない、純然たる事実。だから退屈で仕方ない。別に種族を滅ぼしたいわけでもねーんだから、本気になるわけにもいかない。産まれた時から満たされない何かを抱えつつ、ただ魔王軍として下された命令をこなしていた。

 そんなある日だ。

 弱いくせに無駄に吠える一番の最弱、カシーニ・ラクシャミーが魔王から子を授かった。カシーニの遺伝子を受け継ぎ、魔王からの血肉を授かり、産まれた子どもはあまりにも弱かった。

 だけど。

『…かわいい』

 産まれたばかりの何も出来ない子ども。守ってやらなければすぐに死んでしまう。最初はただの興味で関われば関わるほどに惹かれた。

 初めて名前を呼んでくれた。

 俺様を見てニコニコして近付いて来る。

 抱きしめると、安心してすぐ寝入っちまう。

 愛しい、…愛しくて仕方ない。早く名前を呼んでほしくて…忘れられたくなくて自分のことを名前で呼んで刷り込んだりもした。

 ナラ。

 愛しいナラ、きっと俺様はお前に会う為にこんなに長く生きて待っていた。

『ラン!!』

 成長したナラは美しく、可愛かった。だけどナラは特殊な生い立ちから毎年必ず魔王に生命維持を施されなければ死んでしまう。俺様だけでなくナラを大切に想うキングオークたちやオークたちはナラを守ろうと必死だったのかもしれねぇ。

 失いたくないからと大事に育てていた。

 大切だと言い聞かせた。

 それなのに。

 …何が最強だ。何がキングオークだ。

『なんでお前がすぐ側にいたのにナラを助けられなかったんだよっ…!! お前が…お前だからっ、ナラを預けたのに…なんでっ、

 かえせよ…っ、ボクの…ボクちゃんだけの誇りだったのに、あの子は! 最弱なボクの!! 唯一の生きた証だったのに!!』

『やめろ、カシーニ…!!

 元を言えばお前からの攻撃は全て防がないよう制約を交わしたから…』

『当たり前だろッ!! コイツに力でナラを奪われない保証がなきゃ一緒になんて住ませない! いざって時にボクちゃんがナラを守れるように魔法を無効化させて、呪いで強制させないようナラに祝福を与えたんだ!!』

 誰もがナラを守りたかったのに、結果として誰もナラを守れずあの子は死んだ。むしろあの子はキングオークとして、オークたちを守りたい一心で魔法を使った。

 優しいナラ。

 だからこそ、戦場に連れて行きたくなかった。

 ナラがいない世界は以前よりも酷かった。退屈だと過ごしていた日々より、よっぽど。城のどこにいたってナラとの思い出が蘇る。いつだってあの子の笑顔を思い出せるし、声が聞こえた気がして振り返った。

 俺様やカシーニが特に酷かったから、見兼ねたランツァーが提案する。

 墓を作ってはどうか、と。

 光に灼かれたナラは肉片の一つすら回収されなかった。だから墓なんてあっても無意味だ。だけど実際に作られると、毎日そこに向かう自分がいた。

 そこにあるのはただの石で、花だって特別ナラが好きだったものでもない。

 だけど。

 きっと喜んだだろう。あの子は、自分の為に供えられた花々を…純粋に喜んだ。そんな姿が容易に想像できて初めて墓の前でナラを想って泣いた。

 そして産まれたのは、怒りだ。

 どうしてナラを失わなければならなかった。何故、ナラは俺様の隣にいない?

 そんなの簡単だ、アイツが…そうしろと余計なことを言ったから。だからこんなことになった。あの日もナラを城に置いて守らせていれば、今頃…ナラは。

 そう思ったらダメだった。俺様はその後、数年振りに進化をして魔王軍へと出向くと単身でそれを討ち果たした。魔王を倒した時、すぐに魔王種へと進化をして下々へ命令を下す。

 ナラのいない世界など不要。天界族、人族、エルフの全てを排除せよ。

『…そろそろ行くか』

 魔王になってもやはり何も変わらない。

 オークの城はナラがいなくなってから色を失ったように不気味で静かなものへ様変わりした。玉座から立ち上がって部屋を出ると何体かのハイオークが近寄って来る。

 この俺様に新しい伴侶…、つがいをとランツァーやらデンデニアが寄越した者だ。雌や雄と性別や年齢はバラバラだが唯一…見た目が幼く、というのが統一されてやがる。

 …俺様はナラが好きなんであって幼体には一切興味ねぇぞ、クソが…。

『近寄るな。んで追っても来るな』

 ナラのところに行くのに知らねぇオークなんか侍らせたくもねぇ。

 魔王になったのだから強い血筋を残せという無言の圧だろうが、絶対に嫌だ。

『俺様にはお前だけだ。なぁ、ナラ…』

 今日も今日とてナラの墓は鮮やかだ。世界で唯一、ここだけが色付いている。この場所でナラのことを思い出している瞬間だけは胸に空いた穴が塞がるような心地を得られる。

 …そろそろ帰らねぇとな。やっと…あの忌まわしい人族の魔力を探知した。まだ範囲は絞れていないが先に向かわせた軍に更なる増援を。

『…召喚、? はっ。魔王と知っての干渉か? 愚かなものだな』

 足元に微弱ながら現れた召喚術式。今にも消えそうなそれは、たまにある人族からの呼び声だ。だがこんなものは普通、自分でぎょせる程度の魔族を呼ぶのが当然であり魔王になど接続すら許されない。

 …はず、で…最初は拒むように魔力を逆流させた。なのに変わらず俺様を呼び続けるそれに何故か、目が釘付けになる。

『…なんだ…?』

 最初は微弱だった魔力が、あらゆる魔力を帯びて強力になる。それでも俺様が一蹴いっしゅうしてしまえば消えるような脆さ…だが、新たに書き換わる魔力に目を見開く。

『な、ら…?』

 ナラ、ナラの魔力…?!

『ナラ!! なんだって、ナラが…いやだがこの魔力は確かに…!!』

 刹那、

 脳内に響いた可愛い声によって紡がれた可愛くない言葉に、思考が完全に停止する。







【ナラ!! 好きな子が出来たのーッ!!!】


 そいつを殺す。

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