魔の紋章を持つ少女

垣崎 奏

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魔の紋章編

17.ミアの疑問

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「…ピンク色なのはなぜですか? 魔術を使えるなら、レッドの目ではないの?」
「んー、これから濃くなるのかな?」

 ミアの前髪をかき上げて、ピンクに色づいた左目を見ながら、ルークはミアの疑問に疑問で返した。

 魔の紋章がなくなって、元の色の瞳が現れることは、おそらく歴史上初めてだ。書物に残っていないだけで今までもあったのかもしれないが、今まであったなら基本的に書物として残っているはず。これはオッドアイ界隈では大事件だ。

「ルークにも分からない?」
「うん、分からない」

 それから、ミアの質問に答えるように話していった。

 まず、魔の紋章を持った子どもが生まれてくるときは、母親は亡くなってしまうこと。さらに、魔の紋章を持つ子どもは、紋章の魔力と本人の魔力の二種類の魔力を持つことになり、二種類の魔力は共存はできないために長くは生きられないこと。

「私は…」
「ミアはレアケース。書物には魔の紋章を持つ子どもが長生きできる理由は不明、つまり未検証だったんだ」

 元気だったミアが、事の大きさに気付き始めたのか、ルークの話すトーンの重さに気付いたのか、大人しくなった。ルークが抱き寄せると、そのまま腕の中で聞いていた。

「それで、僕はひとつ仮説を立てた。ミアは、ミア自身の魔力を完全に封印して、魔の紋章の魔力だけを持っている状態だろうと」
「うん」
「ミアが、魔の紋章の魔力を使えるようになって、ミア自身の魔力として受け入れられれば、ミアはオッドアイの魔術師として活躍できるだろうということも」

 ルークの腕の中で、考えるようなミア。

「…それでなぜ、ルークと私の結婚に?」

 ……本当に、ミアは賢くて、鋭い。

「僕とミアは、番なんだ」
「番?」
「魔術師が魔力を強くしたり増やそうとすると、番との性交渉が一番効率的なんだ。僕の番がミアなのは、ウェルスリー公爵家の任務の時に匂いで分かった」

 腕の中のミアが一瞬強張った気がして、顔を見ようとしたが見せてもらえない。ウェルスリーの名前を久しぶりに出したからだろうか。

 ミアには、まだルークがウェルスリーを殺害したことも、その戦いの褒賞がミアであることも、魔の紋章の解放が王命の特別任務であったことも、話していない。

 ミアの中では、ルークは何かしらの大戦果でミアを褒賞にもらい、結婚したから初夜があったのだ。今日は衝撃が多いだろうから、また別の機会にしたい。いや、一気に話してしまう方がいいのか…?

「…魔術師は、魔力の増強に性交渉が絡むから、適齢期とか婚約よりも前に相手と寝ていても、それ自体は何も不思議なことじゃない。問題は、僕が魔術師だと公表していないこと。騎士として僕は目立ちすぎてて…。だから、騎士として表向きの戦果を上げて、褒賞としてミアと婚約することになった。ただ、魔術師の性交渉、交わりって呼ぶけど、心が伴ってないと危険なんだ。ミアは感じたか分からないけど、僕の魔力とミアの魔力が交じるから、どちらかが強すぎると弱い方は最悪死に至る」
「感じたよ、ルークの魔力、あったかかった。混ざって、戻ってくるような」

 ミアはルークに明るく返した。ミアにもルークの魔力は感じられた。優しいお兄さんのようだと思っていたルークの魔力は、やっぱり優しくミアを包んでくれて。この人でよかったと、ミアも感じていた。

「それを専門用語では中和って呼ぶんだ。ふたりの魔力を中和して、増強してる。魔の紋章を解放する方法の可能性として、交わることで僕が紋章の魔力を中和したり、ミアの魔力を呼び起こしたり、良いことも悪いことも含めて何が起きるかは分からなかったけど、結果的に成功したんだ」
「ルークが昨日あんなに緊張してたのは…」
「…初夜がとにかく大事だったんだよ。ミアの紋章がどうなるかなんて、交わってみないと分からなかったし、僕自身交わるのが初めてだったのもあってね」

 あまり顔を見られたくなくて、ミアをぎゅっと抱き締める。

 娼館に行く騎士も多かったように思うが、ルークは興味も薄く相手にしていなかった。魔術師にとって心の通わない交わりは意味がない。

 知識をつけた今となっては、もしルークが騎士として娼館に行っていて、万が一があれば、相手の女性を死なせてしまっていたかもしれないと思うほどだ。

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