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魔の紋章編
26.王宮内客室にて 1 後 (※)
しおりを挟む「その頃からずっと任務で…?」
「そう。子犬の姿でミアの魔の紋章を確認して、ミアの匂いで番なことも分かって。公爵家での滞在期間が終わったら、次の王命の特別任務は紋章の解放だろうと思った」
ミアは何気なくルークと一緒に過ごしてきたが、ルークが背負っていたものが少しずつ見えてきて、怖くなった。ミアは、何も知らずに、ルークの優しさに身を任せていたんだ。
そもそも、王命の特別任務がどれくらい大きなものなのか、ミアには想像がつかなかったが、普通の任務とは別物に難易度の高いものだということくらいは分かった。
ルークは、騎士として知られているが、オッドアイの魔術師だ。簡単に代わりがいる人ではないことも知っていたが、それを今まで実感することは少なかった。
ミアがルークの手をぎゅっと握り直すと、ルークは空いた手で髪を撫でてくれる。ルークと一緒に住み始めた初日にも、同じことをしてくれていたのを思い出す。
「紋章の解放がどうやったらできるのか、書物にも書いてなかったけど、番だったから…。交わればどうにかできるかもしれないって思って、でも魔術師が交わるには心を通わせないと危険で。子犬の姿でミアと会っているときから、ミアといるのは心地よかったし、心の距離を縮めること自体は問題ではないと思ってた」
ルークの声が震えていることに、ミアは気付いていたけれど、ルークの胸から顔は上げられなかった。ルークが話し終えてからにしないと、ルークはきっと話すのを止めてしまう。
ミアがルークの様子にとっくに気付いているのを、ルークも分かっていたが、ミアが聞いてくれるのなら、話してしまいたいとも感じていた。
「オッドアイは王家管理で、魔の紋章はオッドアイ持ちにしか生まれない模様だし、初めに確認したときから師匠経由でチャールズに報告してたんだ。それで、ミアと交わるために、褒賞として王命でミアと婚約すると同時に、紋章解放の特別任務を受けた。ミアが紋章の魔力を使えることを確認して、紋章を解放するために初夜を迎えるんだけど、もし失敗して、例えば魔力が暴走してミアを失うことになったらって考えると、正直辛かったし重い任務だった」
結局ミアは、ルークの顔を見ずに最後まで話を聞くことを諦めた。
同じく諦めたような表情のルークの頬に手を当てて、流れる涙を拭う。部分的に聞いたことがある内容も聞こえてくるけれど、ミアが見た、ルークの涙の跡の意味が、やっと見えてきた。
「婚約期間中、任務を考えずに初夜を迎えられたらって、何度も思った。初夜が終わってから、気持ちよく交われた事実があって、紋章の魔力がミアの魔力になって、模様も消えて。これからもずっと一緒に居られるんだってほっとした」
ルークにとって、交わっている間に何かあってミアを失うことは、考えたくない最悪の事態だった。避けられるように心の距離は縮めていたつもりだが、ルーク自身交わることが初めてで、何が起こるのかなんて、やってみるまで分からなかった。
意識しないようにすることは、意識していることと同義だ。エリザベスの言っていた、王家からの圧と責任が肩に載っていたのは確かだが、任務の失敗でミアを失うことがとにかく怖かった。
「ミアと一緒に暮らすようになって、楽しいとか寄り添いたいとか、そういうあったかい気持ちになることが増えた。だから余計に失いたくなかったんだよ」
ルークの頬に添えられたミアの手に、ルークも手を重ねて引き寄せて、そのままミアの唇を奪った。
「お話は終わり。ゆっくり、抱かせて」
「ん…」
そんな話の後で、断る気はミアにはなかったし、むしろ今、ルークの気持ちを知った状態で抱かれたくなった。
その夜のルークは、タガが外れたようにミアを溶かして繋がって、ミアは何度も達して、ルークも何度か果てた。ルークはミアに悪いと思いながらも止まれなかったし、ミアはルークにならどんな風にされてもいいと思った。
☆
「…ねえ、ルーク」
「話し足りない?」
「うん」
ルークが魔術でふたりともの身体を綺麗にして、夜着を着て寝台の中にふたりで潜ってからも、ミアの興味は尽きていなかった。
「ルークのご両親は、どんな人?」
「ああ…、チャールズが言ってたね、気になるよね」
ルークは、ミアの髪を撫でながら答えた。明らかに話したくなさそうなルークの表情だが、ミアは気になったし、会わないといけないようだったから、聞いておきたかった。
今日はすでにたくさんの話を聞いていて、今日でなくてもいいと思ってはいるけれど、今日なら話してくれそうな気がした。ミアは、ルークに聞けば話してくれるという確信を持っていても、それをいつでも切り出せる勇気は持っていない。
ミアの真剣な目に負けて、ルークは生まれてから騎士として働くようになるまでのことを、大まかに話した。
オッドアイのせいで家族から虐げられ、魔術を使わなくなったこと。
家系的に入った魔術学校で同じオッドアイのジョンに出会い、眼帯をつけるようになったこと。
ジョンと一緒にチャールズに会いに行っていたこと。
魔術を使う気になれなかったルークが騎士学校に転入して、子犬の姿になったのをきっかけに、魔術の勉強を始めたこと。
実家であるウィンダム家には帰らず、学校や任務についている血縁者を遠目で見かけるだけだったこと。
ウィンダム家の人間は、おそらく、騎士として戦果を上げているルークを、よく思っていないこと。
「ミアを会わせるときには、絶対に魔術で制圧することになるよ。何か仕掛けてくるに決まってるし」
「うん…」
「ミアには何もさせない。魔術を使うことになるのは僕だけだ」
「うん」
家族との関わりが希薄だったのはミアも同じで、ルークの境遇には共感できる部分もあった。ミア自身も模様があったせいで隠されてきたのだ。気の利いた言葉は出てこなかったけど、ルークの腕の中に納まっているだけでも、ルークが満足しているのは感じられた。
ルークは、自分の戦果についてだけはまだ話せずにいた。
これからチャールズのところで東の国について調べていくことになるだろうが、ミアの父親であるウェルスリーがおそらく東の国と繋がっていて、ウェルスリーをルークが殺した戦果の褒賞としてこの結婚があって、今があるなんて、いつになったら言えるだろう。
それでミアがルークに向ける目を変えるとも思えないが、話せないならそのままでもいいのかもしれないとも思った。
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