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茶会&夜会編
8.国王からの確認
しおりを挟むルークがチャールズの執務室に出入りして、東方関連の外交記録を読んでいると、たまにチャールズが話しかけてくる。同じ部屋に居る時間が増えているから、前より話す時間も当然増えている。
「…ルークは、子は残さないのか?」
「いきなりなんですか」
「いや…、あの親を見てると、ルークが親になることを考えるのは難しいのかもなって」
「チャールズらしくないですね、そんなこと考えるなんて」
ルークはチャールズに、遠回しに聞かないで欲しいと伝えたつもりだが、やはり通じなかった。今のチャールズの言葉は、おそらく幼馴染としてのチャールズだ。
「今度のウィンダム魔術爵の茶会も親側からの無理な願いだ。ミアも家庭に関して幸せを知らない。魔術師の番としての交わりはあるのだろうが、それ以上の関係になるのかはまた別の話だろう。何か考えがあるのかと思ってな」
ルークが思い出したのは、ミアの言葉だ。つい最近、ミアに「どうして外に出すの」と聞かれた。チャールズの前だが、お構いなしに一息つく。
ミアは、エリザベスのところに通っているから、国王夫妻が何か聞きたがっていると考えるべきか。友人のチャールズではなく、国王としてのチャールズが目の前にいるチャールズか。だとすれば、何か未来を予知したのだろうか。
「…何か、見たんですか」
「いや、あまり個人の未来は見ないが…」
チャールズは言葉を選ぶように間を開ける。ミアがエリザベスに話した内容を、チャールズはもちろん聞いていて、ルークがミアをとにかく大事にしているのも分かっている。だから、ミア以外には愛情を持たないことも予想がついている。
おそらくルークは無自覚だと思うが、本能的にミアにしか素直に感情を向けられないのだろう。それが分かっていても、これからの未来のために、エリザベスがミアに言ったことを、ルークにも伝えなければならない。
「…国王からの褒賞で婚約、結婚して初夜があれば、次は懐妊の報告だ。このままミアの報告がなければ、ルークはまた、例えば不能だとか、騒がれることになる。ミアを巻き込むことにもなるから、それについてルークはどう思うのかと。若すぎる偉業は、世間を騒がせるいい話題の種としてずっとついて回る」
ルークは若すぎることが理由で、目立つことになるのが嫌だと、ミアに話した。もちろんそれも偽っていないし、ルークの本心のひとつだ。
貴族や一般市民の間で、褒賞として一代爵のルーク側から、無理に公爵令嬢のミアを引き込み夫婦になったと思われていてもおかしくはない。そもそも、ルークの父親であるウィンダム魔術爵が、褒賞で一代爵の爵位と侯爵令嬢を手に入れている。
魔術師であることを公表していないルークは、ミアが番であることも公表できない。ミアが公爵令嬢であることは公になっているが、家名は明かされていない。学校にも通っていないミアは、誰の目にも触れたことがない公爵令嬢で、これもまた特殊だ。
もうすでに、相当な曰く付きとなってしまっている。元から、ルークとミアの褒賞婚約は、ジョンが噂を流したとはいえ、いいイメージは持たれていない。
思えば、チャールズとエリザベスの初夜は、ルークとミアよりもずっと早かったはずだ。結婚したのが早いのだから、当然のように初夜も早かったはずだが、第一子である王子、ジェームズが生まれたのはつい最近だ。おそらく、ルークが知らないだけで、このふたりもいろいろ騒がれた立場なのだろう。
ミアとの子どもは、現実的ではない。ミアの体調についてはずっと気にしているルークだ。気付いていないはずがない。
「…ミアを巻き込むのは嫌ですが、まだミアは…」
「公爵家での何かを引きずっているのか?」
女性の体調のことだ。普通であれば軽々しく口にするべきではないと思うが、今のチャールズは国王のチャールズだ。笑い転げている幼馴染のチャールズではない。
「…月経が安定してないんですよ。だから僕たちにはまだ早いんです」
「そういうことか…」
「僕たちは僕たちのタイミングで進んでいきますよ、周りが何と言おうと」
「そうだな…」
ルークは、周りから異例と言われることばかりをやってきた。今更また騒がれることも、ミアを巻き込んでしまっていることにも、もう諦めがつく。
気になるのは、国王のチャールズが、なぜルークとミアの子どもを気に掛けるのか。個人の未来は見ないと言うが、何かきっかけ、例えば任務の依頼などがないと、国王としてチャールズがルークに話しかけることはなかった。
何か、裏がある。そう思いつつ、ルークはその内容については聞かなかった。きっと、近々聞かされることになるだろうと思ったからだ。
特別任務の結果報告をするときでさえ、姿勢を崩した友人のチャールズを見せるのに、今、ルークとふたりでいるチャールズは違う。今まで以上に重い何かが、関わっていると見て、間違いない。少し前の、「ずっといい人ではいられない」という言葉も引っかかったままだ。
チャールズは、ルークの意志を聞いて、それ以上踏み込むことはしなかった。
幼い頃から知っているせいで、ミアのことを話すルークの目が優しいことに慣れなかったし、女性に興味のなかった、愛着を持てなかったルークが惚れこんでいるのがミアであるから、そこにチャールズが深く関わってしまうのも、ルークが嫌うだろうと思った。
ミアへの愛情があって、ミアの体調が分かっているルークだからこそ、まだ子を成そうとはしていないのだ。ミアの準備が整えば、子どもが苦手なことを克服するようにルークが動くことは容易に想像できる。チャールズに、まだ希望は残った。
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