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東の国編
19.予知
しおりを挟むルークが王宮に降り立つと、そこにはふたりをぐるっと囲むように各国首脳と、オッドアイ魔術師がいた。こんなにたくさんのオッドアイが揃っているのは見たことがない。オッドアイが他国にもいることは知っていたが、集まるなんて。
いや、中央国に三人いるのだ。他の国のオッドアイの人数は、中央国ほど多くないだろう。
目立つところに転移してしまった。そこまで考えは回らなかったのだ。とりあえず、知っている景色を想像して、真ん中に降りた。よく見知った場所なら角に転移することもできるが、分からないまま転移すると、こういう事態になる。
場の空気が静まり返る。人がふたり、突然現れたのだから、驚くだろう。しかも、ふたりとも魔術師のマントを羽織っている。オッドアイがこれだけいるのだ。オッドアイの中でも使える人間の限られる、転移魔術で来たことは分かるだろう。ヒソヒソと、おそらくルークとミアについて話す声が聞こえる。
「皆さま」
もう一度転移魔術をかけ、チャールズの下へ行こうとしたが、魔術を掛ける前にチャールズの声がして、動けなくなった。周りに各国首脳とオッドアイ。囲まれて、魔術を掛けられて動けないわけではなく、ふたりに視線が集まり、下手に動けば攻撃されるかもしれないと思った。
ルークとミアが味方だと知っているのは、さっきジョンと一緒にいた魔術師だけだ。それがどの人なのか、ルークには分からなかった。
「この一年、条約締結の条件により、この東の国に捕らえられていた、我が中央国のルーク・ウィンダム公爵と、ミア・ウィンダム公爵夫人です」
戸惑いの中から拍手が送られる。状況はよく分からないが、ミアを抱えているため、腰を折り浅く頭を下げて応える。普段なら、膝をつくところだ。
……公爵と、言われたような。ルークが冠するには聞きなれない爵位に、チャールズを見るが、何か分かる反応をくれはしなかった。
「ルーク、こちらへ」
「はい」
チャールズへの返事と同時に、ジョンの横に転移した。どよめきが聞こえる。転移魔術は本当に珍しいらしい。
ルークの転移魔術は、ルーク自身だけでなく、触れている人や物までもまとめて転移できる。しかも、転移で王宮の中央へ降りて、そこからまた自国の席へと、転移を繰り返している。
オッドアイ魔術師や、その他護衛のために来ている魔術師には、今のルークが回復魔術なしでは立てないのも分かっているはずだ。魔術の気配は、追加で魔術を掛けないと消せない。ただ、これだけオッドアイが居れば、気配を消しても勘づかれるだろう。
ルークは意図せず、自分の魔力量が膨大であることを示してしまっていた。チャールズは、これをよしと思っているわけである。
「ルーク」
「はい、チャールズ国王様」
正式な場での呼び方を使って、ミアを抱えたままチャールズに耳を寄せる。他国の目もあるから、チャールズが普段のように気軽に動けないのだ。
「さっきの景色を、五年前に見たんだ…。ふたりが、国際会議の中央にいる景色を。そこから他にもいろいろと手がかりを見てきた。辛いことをさせて、すまなかった」
「……」
驚きすぎて、ルークは何も言葉が出てこなかった。五年も前から、この国際会議に向けた計画は始まっていたのだ。それが分かったとしても、ルークは混乱したままだった。
「それでは、今回の国際会議では、友好の調印を交わしたいと思う」
チャールズが全体に向けて声を張る。ジョンが魔術をかけているが、チャールズは要らないくらい声が通る人だ。それだけ、直接話せば国民へも伝わりやすい人物で、これ以上国王向きな人はいないだろう。
他の国王のことをルークはよく知らないが、これだけの国王がそろった中、チャールズがこの場を仕切ることができるのは、この求心力と、オッドアイ魔術師がいることが理由だろう。ルークとミアを、東の国へ入れていたことで、周辺国は中央国に反発できない。
ルークはそんなことを考えつつ、とりあえずミアを抱いたまま、姿勢を維持する。国際会議の主催国、東の国王はすでに亡き者に、王子は取り押さえられている。各国首脳がこれだけ集まっているなら、きっとこの王宮の周りは連合軍で囲まれているだろう。調印が終われば、チャールズの目的は達成される。
「…ルーク」
「ミア、気が付いたんだね」
腕の中で小声で呼ぶミアを、ぎゅっと抱きしめる。チャールズが調印を進めているため、首脳やオッドアイの目線が中央国の席に集まってはいるが、ルークには関係なかった。
「ルーク、降ろして」
「え?」
「魔術で支えるのは自分でできる」
「……」
そこを突かれるのは、痛い。少しは、甘えてくれてもいいのに。
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