魔の紋章を持つ少女

垣崎 奏

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後日譚

18.王子を祝う会 後

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 ミアも当然、貴族令嬢たちが遠くからルークを見ていることに気づいていた。結婚式の時も思ったけど、ルークはカッコいい。ミアにとっての王子様は、皆にもそう見えるのだと実感した。ミアが隣にいるから近づいてこないのだろうか。それとも、オッドアイだから? ルークの腕に掛ける手に、力が入る。

「ミア、どうかした?」
「…ううん、大丈夫」

 令嬢がルークを見る色目も嫌だが、男女関係なく、貴族たちのルークへの視線を、ミアは好きになれなかった。

 オッドアイ魔術師であることが公表されてから、国王の贔屓があることも、昇進が早かったことも全てに納得できる理由がついたらしく、王宮などでたまにすれ違う学生や衛兵からの視線はだいぶ変わった。このホールにいる女性たちも、今、この姿のルークを見て視線を向けている。それが、気に食わない。

 誰も、ルークの内面を知らない。外面の、肩書だけで判断している。

 ミアが初めての夜会で攻撃されたのも、肩書が謎だったからだ。ルークは、優しい人で、何も知らなかったミアに魔術だけじゃなく、いろんな作法も教えてくれて、守ってくれた人なのに。表に出す肩書が変わっただけで、こんなにも扱いが変わるとは。

 エリザベスと目が合って、ミアの気持ちを読まれたのか、微笑みを返された。ミアはルークを信じ切っているし、ルークを慕う女性がいても、ミアとルークが番だし、同じオッドアイ魔術師だ。ミアには絶対に勝てない。

 もちろん、ルークにはミア以外ありえないし、今も見向きすらしていないのが分かっているのに、ミアの心は複雑だ。

「…ルーク」
「お久しぶりです、エジャートン隊長」

 騎士の制服姿のアーサーが、ホール全体の警備のために立っていた。ルークの騎士式の礼をし、一歩遅れたミアもカーテシーを行う。

「ルークの方が位は上だろう。顔を上げなさい。奥さんも」

 そうは言いつつも、アーサー自身も言葉が変わっていない。この距離感で数年前まで一緒に仕事をしていた。今更変える必要もないと、互いに分かっている。

「瞳を、見せるようになったんだな」
「隠す必要がなくなったので」

 まじまじと、年上の男性に瞳を覗き込まれることは少々気まずい。アーサーだから耐えるものの、顔をしかめてしまった。

「気を悪くしないで欲しい」
「すみません」
「いや、同性にじっくり見つめられるのは確かにいいものではないだろう。ルークには綺麗な奥さんもいるし」

 アーサーがミアを見て、またすぐにルークに視線を戻す。今までの経験上、確かにルークには女性関係の噂は全くなかったし、興味がないのだろうと思っていたが、この女性に関しては異なっているのを、アーサーはしっかりと感じていた。

 当時の東の国と条約を結ぶために呼び出された王の間で、ルークがミアを引き寄せて離れなかったのを、アーサーは覚えていた。

「…そんな目をしていたんだな。怪我を隠すためだと聞いていたが」
「それは僕の師匠が流した噂です」
「ミッチェル教授か、そういう…。昔からずっと見えていたのか?」
「ええ、片目でも生活はできますが、両目の方が便利ですね」
「それはそうだろう」

 アーサーが口角を上げたことに、ルークは驚いてしまった。表情に出ていたかまでは分からないが、アーサーの笑顔を見たことがなかったのだ。

 そもそも、任務関連以外の話をしたことはあっただろうか。ルークは特別任務で忙しく、アーサーと同じ部隊に所属していても、あまり雑談をすることはなかったように思う。

「私も同じ気持ちだ。そんなに柔らかくて余裕のある表情のルーク、見たことがない」

 ミアがルークを見ても、ルークはただ微笑むだけだ。この人が、長年ルークと一緒に任務をこなしてきた人だ。ミアよりも、ルークとの付き合いが長い人。

 ミアと過ごす中で、ルークの変化を感じていたのは国王夫妻だけではなかったのかと、ルークは思った。アーサーにも、知られてしまった。

 気恥ずかしくなり、会釈をしてアーサーから離れた。アーサーは任務でここにいるはずで、あまり長い時間ルークとしゃべって、仕事の邪魔をするわけにもいかないと、自分を納得させる。

 少し離れたところから会話を聞いていたのだろう、ルイスが話しかけてくる。

「今のは?」
「アーサー・エジャートン警備隊長。僕の元上司だよ」

 この観察眼と記憶力に、王家も期待しているのかもしれない。それが、ルイスを夜会に参加させている理由だとしたら、ルークとミアは嫌でもホールを歩いて、様々な貴族と会話する必要がある。ルイスに、覚えてもらうためだ。

 今度、ルイスとふたりで話す機会があれば、執事にでもなるかと、聞いてみようとルークは思った。ルークは魔術に関連することなら覚えられるが、それ以外の事柄への興味は薄く、貴族の名前もほとんど覚えられないままだった。

 この夜会の招待状にも書かれてあったように、宮廷貴族、公爵家として生活を送ることを考えなければならないのだろう。性に合う気はしないが、爵位を貰った以上は王家の顔を立てなければ。

 ルークがルイスに、正当な役職を与えれば、ルイスは制裁なく生きることも可能だろう。ルイスに、反国心はないのだから。
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