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249、くっそスマートすぎる……!
しおりを挟むこの間はゆっくりと辺境街の中を見て回らなかったから、ヴィデロさんと二人露店や武器屋、防具屋を覗いて歩く。
「……白い鎧がない……」
防具屋で、俺は呆然と呟いた。
白い鎧、絶対にヴィデロさんにプレゼントしたかったのに。その白い鎧自体が、防具屋に置いてなかった。
俺の呟きが聞こえたのか、店の人が「すまんなあ」と謝ってくれる。
「鎧ってのは人気があるもんはすぐに出ちまうんだ。ここでは量産はしねえしなあ。特に白ってのは人気なんだよ。セィ城下街の近衛騎士団が白の鎧を着始めてからな。カッコいいとかってよ。おれに言わせりゃ汚れは目立つし傷を直すのはめんどくせえし手入れしねえとすぐ色が煤けちまうからあんまりお勧めできる色じゃねえんだがなあ」
「そうだったんですか。手入れが大変なんだ……」
そういうのでヴィデロさんを煩わせるのもなあ。
でも白い鎧、本当にかっこよかったんだよなあ。着たところをもう一度見たかったなあ。
溜め息を呑み込んで、籠手や胸当てを見ているヴィデロさんの所に戻る。
「流石辺境街だな。装備全般がトレとは作りが全然違う」
「うん。でも、白い鎧がなかった」
「そんなに似合ってたか?」
「そりゃもうものすごく」
笑いながら訊いてくるヴィデロさんに首がもげるくらいぶんぶん頷く。
いつもの門番さんの鎧もなかなかかっこいいんだけど、いかんせんシンプル過ぎるんだよな。
ムムムと考えながら中を見て回るヴィデロさんの後ろをついて歩いていると、ヴィデロさんが足を止めて飾られている胸当てに手を伸ばした。
「すいません。この胸当て、着けてみてもいいですか?」
ヴィデロさんが店の人に声を掛けると、こっちに目を向けた店の人がヴィデロさんが指さした胸当てを見て困ったような顔をした。
「兄さんはしっかりと身体を作ってるから、その胸当ては装備できねえよ。もちっとデカいのを選んだらどうだ?」
「いえ、俺じゃなくて、彼に」
そう言ってヴィデロさんが俺を指さす。
え、もしかして俺用?
「そんなら大丈夫だ。着けてみな。しっくりくるんならよし、ちょっとでも違和感があるんならやめとけ」
「わかりました。だそうだマック。ちょっとごめんな」
ヴィデロさんは屈んで、ローブを羽織ったままの俺の脇に手を差し込み、慣れた手つきで胸当てを外してしまった。そして、呆然としている俺にすぐさま手に持っていた胸当てを装着する。
黒っぽいシルバーでちょっとした花の意匠が彫り込まれたその胸当ては、今までの胸当てよりもよほど俺の身体にフィットし、着け心地と軽さが段違いだった。
肩と脇は伸縮性の高い皮で出来てるらしくて安定性が抜群で、金属の裏には柔らかい皮が張られているみたいで金属が当たって痛い、なんてこともない。さ、流石辺境街の装備。すごい。
性能もまた今までとは雲泥の差で、防御力が三倍以上だった。む、胸当て、馬鹿にできない。
「どうだ? どこか変なところあるか?」
「ない。っていうかすごくフィットしてて快適」
「そうか」
俺の言葉に満足そうに頷いたヴィデロさんは、すぐさま店の人に「すいません、これを買います。このまま着けていていいですか?」と声をかけていた。
あれ、俺が鎧を買ってあげるはずが、俺が胸当てを買ってもらってしまった。前に一緒に買い物したときと全く同じ現象が起きていることに気付いた俺は、お金を払って振り返ったヴィデロさんについついくっついた。
「ありがとうヴィデロさん。でも俺が鎧をプレゼントするはずだったのに」
「俺がマックに買ってあげたかったんだから、素直に貰ってくれると嬉しいんだけどな」
「嬉しい。ありがとう。似合ってるといいけど」
「すごく似合ってる。可愛いよ」
やっぱり可愛いなのか。でもヴィデロさんに言われるなら嬉しいかも。でもニコニコとしてるヴィデロさんも可愛いよ。好き。
さらに奥に行くと、全身鎧が所狭しと飾ってあった。
全体的に黒っぽい鎧が多いせいか、とんでもなく迫力があった。結構いろんな鎧があるんだなあ。しかもデザインもかなり凝ってる。実は性能だけじゃなくて見た目も重視なんだ鎧って。でも重そう。
鑑定も使いながら次々と見ていくと、ふと、一番奥に見たことのある鎧があった。
何で見たんだったかなあ。と考えて、ハッとする。
そうだ、オープニングで勇者が着てた鎧だ。
あのオープニングではすでにボロボロで、肩当とか胸元が割れたりしていたからよくわからなかったし、そんなことよりも迫力ある映像の方が目に焼き付いてたから、鎧がどんな感じだったかなんてほとんど覚えてなかったけれど、よく見ると細かい彫り物はとても綺麗で、薄い水色に青い縁取りがすごく目を引いた。
「ああ、それな、異邦人の弟子が作り上げやがった鎧だ。勇者が魔王討伐の際に着てったやつを完璧に再現しやがったんだ。こっちはそんなこと教えてもいねえってのによ」
「へえ、異邦人が作ったんですか。すごい。ここまで出来る人がいるんだ」
感心しながらさらに横を見ると、今度は真っ黒な鎧がひっそりと飾られていた。飾りも何もかもが黒なんだけど、よく見るとかなり凝ったデザインが彫り込まれていて、光が射した瞬間だけそのデザインが浮かび上がるっていうなんていうかすごく男心を刺激する鎧だった。
防御力も、隣に並んでいる勇者の鎧よりさらに高くて、「闇魔法無効 隠密ステルス常時発動」となっていた。さすが闇の色。ちなみに鎧の名前は「ダークネスアビスアーマー」と銘打たれていた。名前までかっこいい。
「そいつはな、魔法防御も高い素材で出来てるんだ。昨日出来上がったばっかりのやつだ。どうだ、いいだろ」
「すごくいいです。これ、ヴィデロさんに着てみて欲しいなあ……」
性能もさることながら、やっぱり見た目がすごくかっこいいんだよな。白い鎧がすごく似合ってたけど、もしかしたら黒い鎧も似合うんじゃないかな。
目の前のヴィデロさんで想像していると、店の人がよし来た、と腕まくりをした。
素早くディスプレイされた鎧を外し、ちょっとごめんよ、とヴィデロさんの身体に鎧をまとわせていく。鎧ってああいう風に着るんだ。大変なんだなあ。と見ている間に、ヴィデロさんが漆黒の鎧に包まれた。
「……ああああ」
俺の口から意味のなさない言葉が洩れる。
言葉に出せないかっこよさとは、このことだ。
漆黒の鎧と金色の髪が、思った以上によく似合っている。肩当から下がる漆黒のマントは、翻る度に細かい刺繍が錯覚か? と思う程度に見えてまたそれもいい。
これ隠密嘘だよ。目を奪われる。ずっと見ていたい。白より黒い方がよりかっこいい。好き。抱いて。
涎を垂らさんばかりに鎧に包まれたヴィデロさんを見ていると、そんな俺に苦笑したヴィデロさんが、自分の姿を見下ろして、店の人に「これを一つください」と自分で買ってしまった。
「待って! どうしてヴィデロさんが自分で買うんだよ! 俺が!」
「マックは工房を大きくして大金を使ったばかりだろ。俺はほぼ金を使うこともなくて貯まるいっぽうだったから、こういう時に使わないとな。それに、この鎧を着てると俺を見るマックの顔がすごくいい顔をしてるから、たまには自分にこういうのを買ってもいいかと思ってな。どうだ、似合うか?」
「今すぐお持ち帰りしたいくらい似合う……! かっこよすぎてもうどうしよう……!」
行動の一つ一つがかっこよすぎて俺負けっぱなしだよ……! それに俺、ここに着いてから一度もお金を出してない! ヴィデロさんはスパダリか! スマートすぎて太刀打ちできないよ……!
「じゃあ、せっかく鎧を着たことだし、このまま街の外に出て、一度魔物と戦ってみるか? どんな強さか確かめてみたいし」
「うん……!」
漆黒の鎧を着たヴィデロさんと連れ立って、俺はちらちらとヴィデロさんをのぞき見しながら防具屋を後にした。
結局プレゼントは出来なかったけど、でも、眼福……!
なんか俺、魔物よりヴィデロさんばっかり見てそうだよ。だってきっと戦う姿も絶対にかっこいいから!
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