これは報われない恋だ。

朝陽天満

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427、お持ち帰りで

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 モントさんにタルアル草の育て方をかなり真剣に聞いて、俺はまとめた紙とモントさんに分けてもらった肥料を片手にまたも獣人の村に向かった。タルアル草を育てるのはそこまで難しくはないらしいから、まさにヒイロさん向けの植物だ。でも気になるのが、『飼育方法』っていう字面。栽培じゃないんだ。飼育なんだ。タルアル草って何カテゴリーに入るんだろう。ちょっと考えるとこわい。何気にちゃんと意志も知恵もあるし。はっ、だからこそ飼育……。植物よりも生物寄りなのか……?

 森に自生していた超巨大タルアル草を思い出して、俺はちょっとだけタルアル草が怖くなった。もう魔物カテゴリーに分類されても納得できるよ。



 細微にわたりメモしてきたタルアル草飼育方法の紙をヒイロさんに渡すと、ヒイロさんは「お!」と声を上げてひたすら読み込んだ。

 そしてその紙をポケットの中にしまうと、一旦奥の部屋に入っていった。

 そして出てきた時に手に持っていたのは、鉢。

 株分けの方法もひたすら細かくメモしたからなあ。



「魔力が豊富な土の作り方まで書いてあった。畑に行ってちょっと土を作ろう」



 はい、とシャベルを渡されて、俺もやるんだ……と思いつつヒイロさんと共に畑に向かう。

 ヒイロさんの畑は面白いほどに実用的な物しか植わっていないのがとても楽しい。なんでも、採取しに行くのがめんどくさいから畑で育ててるのが大半だとか。ヒイロさんらしい。畑の世話も大変だと思うんだけど。



「まずはその魔力を増やしたい地面に、魔力回復の薬を撒いて、と。でもって、耕す。『母なる大地の聖霊よ、芽吹く生命のためにその身体を少し柔らかくしてくれ。地面耕作アースプラウ』」



 ヒイロさんが詠唱すると、薬草とかが植わっている畑から少し外れた一区画が、まるで地面の中でモグラが一斉に走ってるかのように、ズゾゾゾゾと一気に耕された。今まで硬そうだった地面は、その一回の魔法で一気にふわっとした土に仕上がっていた。こんな魔法もあったんだ。すごく便利。



「そして、肥料を撒く、と」



 モントさんから託された肥料を、ヒイロさんが撒いていく。コツは風魔法で一気に満遍なく撒くことなんだって。またもヒイロさんが詠唱して、ふわっと風に乗った肥料が満遍なく地面に降りそそいでいく。

 ちゃんと土の色がこげ茶に変色したらそこは魔力が増えた土だとか。



「この肥料いいなあ。これ、教えてくれたやつの自家製だろ。今度買い付けに行こうかな。もう人族の街に行ってみてもいいって言われてるし。なあマック。今度これ作ったやつの所に俺を連れてってくれないか?」

「それはいいですけど、師匠は人族の街に出るのに忌避感とかはないんですか?」

「もし俺がジャル様の時代に生まれてたら、もしかしたら持ってたかもしれねえけど。マックとかヴィデロとかユキヒラと接触してると人族も俺たちと同じで色んな性格のやつがいるんだなっていうのがわかるからなあ」

「あ、そっか。ユキヒラもここに来れるようになったんだ」

「毎度セイレンところで大騒ぎしてケインが迎えに行くんだけどな。ははは、ケインめんどくさがって今度から自分で来れるように魔法陣魔法教えるかなとか言ってる」



 是非教えてあげて下さい。

 俺がそう言うと、ヒイロさんは「ケインにそう言っとくよ」と請け負ってくれた。



「さてと。んじゃウネウネに株分けしてもらいに行くか」

「いってらっしゃい」



 土を鉢植えに入れたヒイロさんに手を振ると、ヒイロさんは怪訝な顔をして俺を振り返った。



「マックも行くんだよ?」

「え、俺も?」



 行ったらまた搾り取られたりするんじゃないでしょうか。

 真顔でそう訊くと、ヒイロさんはなんてことない様な顔で「いいじゃねえか少しくらい分けてやれよ」と肩をトントンと叩いた。

 少しじゃないんです。大量に搾り取られるんです。身体が持ちません師匠。

 そんな攻防の後、結局またそこら辺を歩いている人を捕まえて護衛につかせて、ヒイロさんは俺の手を掴んだまま鼻歌を歌いながらタルアル草への道を進み始めたのだった。気が進まないんだけど……。





 結局今日も搾り取られて、ヒイロさんのマジックハイパーポーションを3本ほど飲まされてようやく満足したタルアル草は、今日も元気に『万能薬の素』を分けてくれた。嬉しいけど、身体が持たないよ。回復しても精神的にぐったりした俺は、鉢植えの中で元気に動いている触手の一部を死んだ魚のような目で見降ろしながら帰路についた。

 ヒイロさんは株分けしたタルアル草を、早速畑に植え替え、「今日からお前の住まいはここな」と普通に話しかけていた。指でちょんちょん突いてるから何してるのかと思ったら、魔力をあげて育ててるらしい。突くたびにタルアル草ミニが伸びていった。ってまって、さっき耕した畑の面積、かなり広大じゃなかった? 教室一個分くらいは確実にあったんだけど、その土壌に合わせて大きくなるタルアル草って……。

 思わず後退りして、「師匠、部屋の中で待ってますね」と回れ右をした瞬間、伸びてきた触手に捕獲された俺。思わず上げた悲鳴に、近くの獣人たちがなんだなんだと寄ってきた。



「なんだあ。やっぱりマックの魔力が美味いのか。ははは、マック、ウネウネに遊ばれてるなあ」

「笑い事じゃないですよ……めっちゃMP吸われてる……師匠、マジックハイパーポーションください……」



 手足をだらんとしたまま宙づりになった俺は、大笑いしてるヒイロさんや獣人さんたちをジト目で見下ろした。





 MPを搾取されている間に届いた通知を開いて、クリアランクAだったことに憤りを感じた俺。報酬欄に「狐獣人の回復薬」っていうのが入ってたけど、それ、貰わなくてもいい状況でクリアしたかった。

 ヒイロさんもどれくらい大きくなるのかなんて面白がってずっと俺のMPを回復し続けるもんだから、裏のタルアル草はなんというか、恐ろしいほどの大きさになっていた。クラッシュが育てたモントさんの所のタルアル草が子供に見えるくらい。株分けしてくれたやつより確実に大きくなっている気がする。しばらく畑の方に回るのはやめとこう。







 獣人の村から戻ろうと森を歩いていると、ふと誰かの声が聞こえた。



『マック、すぐ来れない?』



 耳のすぐ横で囁かれているような、頭の中に直接話しかけられてるような変なこの感覚は、クラッシュの念話の魔法陣魔法だ。

 取り合えず口に出して「いいよ今から行くね」と答えると、ちゃんと聞こえたらしく、『待ってるから』と返ってきた。

 ジャル・ガーさんの洞窟からクラッシュの店の奥の部屋に直接跳んで、そこから店に顔を出すと、クラッシュはすぐに俺に気付いて「呼び出してごめん」と手を合わせてきた。



「母さんに頼まれてさ。冒険者ギルドに来てって。マックが出した依頼のことだって」

「あ、そういえば出してから一回行ったきりでその後顔出してないや。伝えてくれてありがと」



 アルルの所に通うようになってから、そういえばギルドには全然顔を出してなかった。

 慌ててギルドに行き、受付にいる職員さんに話しかけると、職員さんは「奥へどうぞ」と階段の方を促した。

 言われるままエミリさんの執務室に向かうと、エミリさんが忙しそうに書類に向かっていた。



「あ、マック。ごめんなさい、呼び出しちゃって」

「いえ、マメに顔を出すように言われたのにその後全然顔を出してなかったから」

「今までに比べたら結構マメに顔を出してるとは思うんだけどね」



 確かに、とエミリさんの言葉に思わずうなずく。前までは冒険者ギルドなんて月に一回くらい来たらいい方だったから。

 エミリさんは手に持った書類を横にいた秘書さんに渡すと、こっちへ、と奥の応接セットに俺を促した。



「呼び出したのはね、あのマックが出した『謎素材』の依頼のことだったのよ。単刀直入に言うと、おまけのハイポーションがもう切れそう」

「は……い?」

「『謎素材』が結構いろんなところから、すでに700くらい届いてるの。ハイポーションがあと100も残ってないのよ。特に辺境が渡せなくて数人に待ってもらってるところだって。ごめんなさい。依頼を継続するなら、ハイポーションの納品をお願いできるかしら」

「え、なな、ひゃく……? 何でそんなに」

「異邦人たちがマックの依頼に何故か乗り気で、壁の向こうの魔物討伐が頻繁になったらしいの。壁向こうの魔物は比較的『謎素材』が手に入りやすいらしくて。辺境ではすごく助かってるらしいけど。魔物がすごい勢いで駆逐されていくから」



 ああ……そういうことか。ってことはガンガンレベルが上がってる人が沢山いるってことかな。

 もしかしたら他にもエルフの里への道を行けるようになった人がいるかもしれないし。そっちだと普通に途中で『謎素材』を採取できたりもするしね。結構あるんだなあ。





 追加で500程ハイポーションランクSとハイパーポーションを納品した俺は、届いた『謎素材』をインベントリいっぱいにしながら持てるだけ工房に持ち帰った。

 何往復かしてすべて持ち帰ると、早速謎素材を片っ端から鑑定することにした。

 でもさすがに殆どが魔物からのドロップ。なんか赤黒い宝石みたいな『何とかの臓器』とか『何とかの骨』とかそんなのばっかりだった。うん、地味に怖い。

 ワクワクしながらサラさんのレシピを取り出す。



「すっごい。結構埋まった……」



 今まで空いていた場所がかなり埋まっていて、これは錬金フィーバーか?! と興奮する。

 これを全部作れたら、レベルも上がるかな! 





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