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おまじない

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 ハベリア伯爵家、離れの小屋。
 今にも崩れ落ちそうなボロ小屋の中で、マイアは震えていた。

 「……今日も寒いわね」

 季節は冬。
 小屋には隙間風が吹き込み、肌を刺すような寒さがマイアの身を襲っていた。

 寒いからといって、着込むための衣服は与えてもらえない。
 彼女は仮にも伯爵家令嬢だというのに。
 纏っているのは使い古したドレスの残骸だった。

 「最近、つらいことばかりね……昔からそうなんだけど」

 マイアがここまで冷遇されている理由は、父が後妻を娶ったからだ。
 正妻との間に生まれたマイアも最初は優遇されていた。
 しかし母が急死し、父が後妻を娶ると……両親は後妻の娘のコルディアばかりを優遇するようになった。

 最初はまだマシな方だった。
 妹に優先的に物が与えられたり、好きな食べ物を与えられたり……姉だからと我慢していた。

 だが差別はさらにエスカレートしていく。
 使用人紛いの雑用や掃除などの奉仕をさせられるようになり……両親や妹はマイアを見下していった。

 母が死んだ彼女に味方などいない。
 されるがままに不遇な環境で育ってきたのだ。

 今ではこのように離れに押し込まれ、碌な食事も与えられず。
 しまいには妹の品格を上げるために悪い噂まで社交界に流されているようだ。そもそも社交界に出させてもらえないのだから、マイアが知ったことではないが。

 「いけない、お父様に呼ばれているんだったわ。急がないと」

 今朝、従者が嫌味ったらしく本邸に来るように伝えにきたのだった。
 本邸の敷居を跨ぐなど、いつ以来だろうか。

 小屋の近くにある水たまりを鏡代わりとして寝ぐせを直す。
 少しでも自分の見目をまともなものにしなければ。

 くすんだピンクブロンドの髪が痛ましい。
 ドレスはボロボロになっているが、持っている物の中では一番マシだ。

 マイアは痩せ細った指で自分の身体を撫でる。

 「いたいのいたいの、とんでけー……」

 寒さが一気に和らぎ、体温が上昇。
 先程まで震えていた体も調子を取り戻した。

 亡き母が教えてくれた「おまじない」
 これがあれば大抵の苦痛には耐えられる。

 このような寒さも、侍女や妹からの暴力も、空腹による飢餓も。
 すべてマイアはこの「おまじない」で乗り越えてきた。

 小さい頃は数回使うのが限界だったが、虐げられているうちに何度でも使えるようになっていた。

 「おまじない」をかけて調子を取り戻したマイア。
 彼女は鬱屈とする気持ちを抑えながら本邸へ向かうのだった。
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