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二人の愛(完)

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 花々が咲き乱れる庭園を、一人の少女が眺めていた。
 風に髪がさらさらと流され、彼女は乱れた髪を直そうと頭に手を伸ばす。

 ぽん、と。
 彼女のものではない、少し大きめの手が頭に乗った。

 「ジョシュア様」

 視線を上げると、そこには金髪の美丈夫の姿。
 少女……マイアが微笑むと、ジョシュアは向かいの席に座った。

 「おはよう。今日も綺麗だな」
 「ふふ……ありがとうございます」

 いつもこうやってジョシュアは褒めてくれる。
 そして、彼の言葉がすべて本心から出たものであると、マイアは知っていた。

 「今日のお仕事は?」
 「今日は君と過ごす時間を取ろうと思ってな。アランやセーレにもよく言われるが、俺はもっと君と関わるべきだ」
 「いえ、無理なさらずに。私に気を遣いすぎても、ジョシュア様の迷惑になってしまいますから」
 「そうもいかんだろう。間近に控えた婚姻についての話もある」

 婚姻というワードを聞き、マイアの耳元が少し朱に染まる。
 あの舞踏会後、色々とあった。

 実家のハベリア家は没落し、その後会った者はいない。両親や妹、使用人たちが今なにをしているのか……知る由はない。
 また、例の一件でマイアの「おまじない」の噂も広まり。
 今は貴族界で一躍話題の人となっているらしい。

 もうすぐ結婚式。
 色々と結婚式に向けて準備している最中だった。


 ジョシュアは紅茶を飲みながら、マイアと同じ方向を見た。
 どこまでも綺麗な庭園が広がっている。

 静かな時間だ。
 だが、この静寂がマイアには心地よかった。
 穏やかな時間をジョシュアと共に過ごすことが。

 「俺は……仕事よりも大事なものが出来たんだ」

 おもむろにジョシュアは口を開いた。
 引き寄せられるようにマイアの視線は彼の方に向かう。
 美しい瞳と目が合い、彼女の心臓が高鳴った。

 「それは……何ですか?」
 「君だ。マイアという女性が、何よりも大事な人となった」

 予想はできていた。
 だが実際に言われてみると、どうしようもなく幸せで。
 マイアは目を逸らさずに答えた。

 「私も、ジョシュア様が一番大切な人です。私に居場所を作ってくれて、愛をたくさん与えてくれて、ここまで導いてくれました。でも、時々怖くなるのです」

 怖い──その単語にジョシュアは眉をひそめた。

 「何か君が怖がるものがあれば、俺が全力で取り除こう」
 「いえ、そういうことではないのです。ジョシュア様が、いつかいなくなってしまうんじゃないかって……不安に駆られてしまって。あなたが私を見捨てないことも、お互い誰よりも大切に思っていることも知っています」

 マイアは心中にある不安を吐露していく。
 信頼しきったジョシュアが相手だからこそ、すらすらと吐き出せた。

 「でも、何かの拍子に失ってしまうんじゃないかって。ほら、ジャック殿下にも暗殺者が来ましたし……事故とか、突然のことで。私にはそれが酷く怖いのです。
 ジョシュア様がいなくなったら、また私は一人になってしまいます」

 味方のいなかった過去が、まだついて回っている。
 コルディアや両親たちの罪は大きい。
 あの夜会でトラウマを払拭しても、どうしても蘇るものが。

 ふと、マイアを温かい抱擁が包んだ。

 「俺は離れない。俺だけではなく……アランもセーレも、決して離れない。
 だから安心しろ。そんな日は二度と来ないと約束しよう」
 「ジョシュア様……」

 もう一人にならなくていい。
 孤独を否定し、寄り添う人がいてくれる。
 ジョシュアの心からの音色を聞いたマイアは、瞳から涙をこぼす。

 「ありがとうございます……私を、幸せにしてくれて……!」

 かくして一人の少女は幸せになった。
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