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〜追放編〜
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しおりを挟む「ヘルヘイムの門は小僧1人で潜らなきゃならない。俺達が見送れるのはここまでだ。門を潜った先に、今日下界で任務の団員が1人居るはずだ。そいつに下界までの道のりを教える様に言ってあるから、ちゃんと道案内してもらえ。」
「はい。団員のエルフの方達は任務があるのに、わざわざありがとうございます。」
「気にするな。どうせ今日も平和だ。」
イグリス騎士団長さんは、笑いながら僕の頭を撫でてくれた。
(よく頭を撫でてくれる人だなぁ。癖なのかな?)
僕は門の前に立つと、ビュグヴィルさんとイグリス騎士団長さんを振り返り、エルフの礼をした。
「僕はもう光のエルフは名乗れませんが、リョースアールヴであった誇りを忘れずに生きていきます。アルフヘイムで過ごした日々や、皆んなが僕の事を優しく、愛情深く育ててくれた事、思いやり溢れる御恩を、かならず忘れません。皆さんにいただいた物、どれも大切に下界で使わせていただきます。」
つけてもらった首のリングとイグドラシルの雫を撫で、頭を下げた。
「ここまでありがとうございました。お2人にしていただいた事は、かならず忘れません。」
「俺もお前の事は忘れない。下界でも元気でな。」
「私も忘れません。貴方が下界でも幸せでいられる様、この地から祈っております。お元気で。」
「はい。ありがとうございます。お2人も、いつまでも怪我なくおげんきで。」
2人は僕を立ち上がらせ、強く抱きしめてくれた。
「それでは、行きますね。」
いつまでもここに居るわけにもいかないので、名残り惜しく思いながらも、2人と離れる。
改めて見上げたヘルヘイムの門は、恐ろしいイメージとは真逆にアルフヘイムの豊かな自然が彫刻された、繊細で美しい門だった。
一つ深呼吸をして、拳を握り、背筋を伸ばして一歩を踏み出した。
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ふと、いつの間にか固くつむっていた目を開いて足を止めると、そこはちょうど門を出たところだった。振り返り今まで歩いて来た方を見てみると、門の向こう側はモヤがかかった様に何も見えない。ヘルヘイムの門を見上げてみると、入って来た時に見たアルフヘイムの森とは少し異なる、知らない森が描かれていた。
「不思議だろ?こっちからは霧がかかった様に何も見えないんだぜ?向こうからだとそのままの風景が続いてる様に見えるのにな。」
声に驚いて振り返ると、外套に騎士団のピンをつけたエルフが1人立っていた。
(案内してくれるって言ってたっけ。)
「俺はアニュイス・ヴェロー・リョースアールヴ・イグドラシルだ。イグリス団長から下界までの道案内を言い渡された。新人ではあるがもう何回も下界との行き来はしてるから任せておけ。」
そう言う彼は、少し誇らしそうだ。
「ユーフィリクス・リルネリア・スヴァルトアールヴです。よろしくお願いします。」
僕は新しい名前を告げて頭を下げた。
「へぇ、ほんとに黒髪だ。日除けの布で隠してたから本当かちょっと悩んだけど、名前もリョースアールヴじゃなくなってるし。罪悪感無く送れそうだ。」
そう言ってにっこりと笑った彼は、お辞儀をした時にこぼれ落ちた僕の髪を一瞥して、門とは逆方向へと歩き出した。
「ついて来いよ。下界まではあっという間だから。」
「はい。」
僕は返事をして慌てて追いかけた。
白くて何もない空間を少し歩くと、道が何本にも分かれている場所に出た。
「ここからはひとっ飛びだから、見失わないでね。」
そう言うと、彼は羽を広げて飛び降りてしまった。
「まって!」
僕は慌てて後を追おうと、羽を広げて飛び降りた。しかし、上羽を切られてしまっている僕は風を上手く捉えることが出来ず、下羽だけでもと必死に動かすが、努力も虚しくただ真下へと向かって落ちて行き、僕は意識を失った。
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