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11話 デートの誘い

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「つまり、我慢しすぎで力が自分に跳ね返ったと?」
「……恐らくですが……」

 女性の裸を見てしまった。
 責任を取って結婚する。
 お決まりの言葉を放ったのを辞退しつつ事情を話した。不可抗力だから気にしなくていい。前と同じだ。
 むしろセクハラで解雇にならなかっただけよかった。

「射程圏内十メートル、変更点を医師団に報告しよう」
「そうですね……」

 まさか直で見るために十メートル離れたところから団長の服を破けとか言わないわよね? ハマライネン医師なら言いかねないと少し震えた。

「……着替えました」

 すみませんと謝ると団長は「謝ることではない」と優しい言葉をくれる。

「相手の服を破くのを我慢して自分の服が破れるということは、ある程度制御できているのではないか?」
「え?」
「自身が代わりになれるなら、さらに自身の代替を考えるというのはどうだろう?」
「代替?」

 筋肉見たいと思う前に視線を逸らさず違うもので気を紛れさせる。
 他人から私へ、私から他のものへ力の矛先を変えて制御を試み、うまくいけば私の自爆が防げるというわけだ。

「けど、どうやって?」
「……筋肉を見るだけでいいのなら私のを見るか?」
「え!」
「私の筋肉は非常に良いのだろう? 君のお眼鏡にかなっているなら確実だ」

 全体バランスマックスの完璧な筋肉を?!
 最高じゃない? あ、でも待って。

「となると、団長は服を脱ぐんですよね?」
「そうなるな」
「上だけだとしても、裸の団長と私が二人でいたら問題なのでは?」
「……成程」

 私にとってかなりうまみのある話だから受けたいけど、その場を事情の知らない人に見られれば誤解されるだろう。
 まあこんなスキル持ちになった私が問題を提起する資格はなさそうだけど、団長は騎士としても侯爵家令息としても立場がある。

「理由があればいいと思います」

 けど良い理由は浮かばない。仕事で裸になるなんてまずないし、筋肉を見るにはたぶん別室で二人きりになる可能性がある。
 貴族でも平民でも未婚の男女が二人きりというのはあまり外聞がよくない。
 仕事関係で理由がつけば一番いいのだけど。

「……ヘイアストイン女史は絵が描けたな?」

 どきりと心臓が跳ねた。その先はあまり聞きたくない。

「“絵を描く”を理由に私の筋肉を見るのはどうだろうか」
「うぐっ……」

 しかも騎士団長として肖像画がそろそろ必要だったとまで言い出した。
 正式な肖像画を私に依頼し、画家にありがちなこだわりで二人きりで描く。
 さすがにそれだと上半身裸になる必要がない。けどそこは団長自ら上半身だけを裸で描いてほしいと要望を出したことにすればいいと言い出した。キルカス王国特有の筋肉至上主義を表現する為だと言い訳して。
 確かに歴代の騎士団長で上半身裸で筋肉アピール激しい肖像画を残していた人がいくらかいたわね……いい筋肉って思いながら見た記憶がある。
 いえ、でもここは断ろう。 
 きちんとした場の肖像画ならプロに頼んだ方がいいです、と伝えても「元々作るつもりはなかった」とまで言い出した。

「ヘイアストイン女史に描かれるなら構わない。君は私の筋肉を堂々と見られる。いいじゃないか」
「確かにそうなんですけどおおお」

 魅力的な話だ。私だけがただただ幸せになれる。

「我慢しすぎて人通りの多い場所で裸になるわけにはいかないだろう」
「……そうですね」

 公然わいせつ罪的な意味で。言い逃れもできずに投獄まっしぐらだ。

「これ以上騎士達の服が破れるのもなるたけ避けたい」
「そう、ですね」

 経費的な意味で。

「医師団からの分析結果も解決方法もまだだ。それなら自分達なりに制御方法を模索してもいいのではないだろうか?」
「そんな、団長がわざわざすることではありません」
「私がやりたいんだ。ヘイアストイン女史の病気を治したい」

 手伝わせてくれと切実に言われてしまうと断れなかった。団長ってばずるい。

「……分かりました」

 頷くと団長が眦を上げて喜んだ。グレーの瞳が白く輝き色素を薄める。
 わ、珍しい表情。

「では早速準備をしよう」
「え?」

 なにを、と囁くと団長が騎士用の上着から別のものに変えた。
 普段着だろうか。かっちりめに見えて抜け感がある。団長ってばセンスいい。

「画材を買う」
「えっ」
「今から休憩時間だ。街に出よう」
「え、と、あの」

 ほら着替えてと促され私も制服の上着から別のものへ着替えた。
 あれ、これってもしかしてもしかする?

「デート?!」
「?」
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