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深淵からの使者
第206話
しおりを挟む夜月のオートメイションによって、真琴の「矢」の精度は飛躍的に向上していた。
キョウカの矢はチサトの風域によってその精度を向上させていたが、真琴と夜月のタッグはさらにその“正確性”を高めていた。
チサトの風域は、言ってしまえば魔力流域の操作による独自に構築されたネットワークの一部に過ぎない。
長年チームとしての能力や経験を培ってきた二人だからこそできる連携技のようなものでもあり、キョウカの魔力の性質や特徴を理解しているからこそ、自らの「風」を利用して、フィールド内の“矢の動き”を操作することができた。
しかし夜月の場合は、チサトとは違って完全な“同調”を二者間の中で構築することができた。
彼女はすでに“ロック”していた。
彼女は真琴との【物質的な繋がり】を、すでに得ていた。
真琴の矢がいつ放たれ、どこに飛んでいくか。
それが手に取るようにわかっていた。
蜘蛛の巣に落ちた虫は四肢の自由を奪われ、逃げ場を失う。
巣の主である蜘蛛にとっては、糸に絡め取られた獲物の位置や情報は、すでに手の内の中だ。
夜月は糸を繋げるように真琴との物理的な“接点”を結び、限定的な範囲の中である特殊なフィールドを展開していた。
「オートメーション」の効果範囲内において、接続した対象物を“どのように操作するか”は、すでに夜月の支配下にあった。
もちろんそれは能力のほんの一部の見方に過ぎないが、今回夜月が指定した対象物は「矢」だ。
単なる矢ではなく、同じチーム、——同じ考えや方向性を持っている味方の“矢”。
これはコントロール下に置く対象物の「性質」としては、重要な側面を持っていた。
捕捉対象に於ける性質上の制限は無いにしても、その対象物が何らかの抵抗力を持っていた場合、コントロールできる精度や操作性にはある程度の差が生じる。
この抵抗力というのは物質の大きさや範囲、コントロールできる領域や距離、物質上の性質など「物理的な条件」に左右される部分も多いが、とくに対象物が魔力を含んでいる場合、その魔力量が働く幅や運動の大きさによって、制御できるエネルギーの「自由度」が等しく上下する。
敵の行動やその範囲を相手取る場合、敵の思考や意思、及びそれにまつわる様々な要素がオートメーションの効果領域にも影響を与えてくるため、捕捉する対象には十分に配慮する必要がある。
その点を鑑みれば、真琴の矢を捕捉するという点に着目した場合、「障害となる要素」はある程度削減されていると言えた。
問題は、オートメーションの効果範囲“外”で起こる出来事が、“どのような影響力を持っているか”、だった。
キョウカは夜月と真琴の連携を計算に入れてはいなかった。
夜月のチームとは協力し合わなければならない状況だが、端からその部分は度外視していた。
自ら迎撃するつもりだった。
チサトに合図を送り、敵の侵入に備える行動に出ていた。
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