ストーカー

Mr.M

文字の大きさ
上 下
32 / 128
二章 葉月

八月十八日(木曜日)5

しおりを挟む
いつの間にか車は高速道路に入っていた。

「どこに行くんですか?」
僕の質問に大烏は
「それは着いてからのお楽しみだ」
と言って「ふふっ」と口を歪めた。

車は宿禰市で高速を下りると
市街地の方へ向かった。

しばらく走ると車は繁華街の裏通りへと入った。
立ち並ぶ高層ビルを縫って若干狭い道に折れると、
車はとある高層マンションの
地下駐車場へと入っていった。

「ちょっと着替えてくるから
 君も上がって待つといい」

どうやらここは大烏の住んでいる
マンションのようだ。
僕が車で待つと言うと、
大烏は「そうかね」と言って車を降りた。
一人になるとフッと肩の力が抜けた。
自分でも気付かぬうちに緊張していたようだ。

それにしても
大烏という男は一体どのような人物なのだろうか。
車にしろこのマンションにしろ、
金銭的にはかなりの余裕がありそうだが、
仕事は何をしているんだろうか。
結婚はどうだろう。

その時ふと時間を確認してみると、
十二時五十分になっていた。
高速道路を使ったとはいえ、
僕の家からここまで
二十分足らずで着いたことになる。
それほど飛ばしていたわけではないのに
少し驚いた。

十三時三十分を回ってようやく大烏が現れた。
上下グレイのスーツに黒のボーラーハット。
いつもプールで見かけるジャージ姿と比べると
別人に見えた。
全体としては奇抜に見えないこともなかった。
それでもその変貌ぶりに僕は驚かされた。
大烏を見ていると、
これまでは気にも留めたこともなかった
自分自身の髪型や服装にも、
気を遣う必要があるかもしれない
と考えさせられる。

「どこに行くんですか?」
車が走り出してから僕はもう一度同じ質問をした。
「真人にある知る人ぞ知る店だよ。
 さっきシャワーを浴びる前に
 連絡をしたら運よく予約ができてね。
 定休日も決まってないような
 気まぐれな店だが味は保証するよ」
真人市。
まさかたかだか昼飯のために、
ここからさらに隣の市まで行くことになるとは
思ってもいなかった。

「心配しなくても四十分もあれば着くだろう」
大烏はさらりとそう言ったが、
僕は大烏の誘いに乗ったことを後悔し始めていた。
今日は二四の調査は諦めざるを得ないだろう。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

貴方のために涙は流しません

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:37,281pt お気に入り:2,380

悪魔との取り引き

ミステリー / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:5

天使志望の麻衣ちゃん

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:163pt お気に入り:1

嘘と恋とシンデレラ

ミステリー / 完結 24h.ポイント:255pt お気に入り:20

思い付き短編集

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:262pt お気に入り:121

ちーちゃんのランドセルには白黒のお肉がつまっていた。

ホラー / 完結 24h.ポイント:1,448pt お気に入り:15

彼女を悪役だと宣うのなら、彼女に何をされたか言ってみろ!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14,356pt お気に入り:107

なんで元婚約者が私に執着してくるの?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:11,594pt お気に入り:1,875

集めましょ、個性の欠片たち

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:56pt お気に入り:2

処理中です...