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第3章 1年生タッグトーナメント

第52話「もしかして私のストーカー?」

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「アリエッタ、お疲れさま。ナイスデュエルだったな」

「ありがと。ルナの弾幕が想像以上に分厚かったから、ちょっと手こずっちゃったけど、まぁまぁ上手くいったかな」

「謙遜するなって。マジですごかったぞ。まさかAランク魔法のライオネル・ストライクを、あんな風に改変すんなんて思ってもみなかった」

「へぇ、見ただけで改変したって分かったんだ」
「そりゃあな」

「もしかして私のストーカー?」
「なんでそうなる!?」

「あれ、他人のことにやけに詳しくて気持ち悪い人のことをストーカーって言うんじゃないの?」
「言葉としてはそうだけど! でも毎日一緒に模擬戦闘訓練をしてるからだっつーの! そもそも一緒に生活していてストーカーも何もないだろ」

「あはは、冗談だってば。最近のユータはいい感じだもん」
「そ、そうか?」
「うん」

 でへへ。
 推しから、最近いい感じとか言われちゃった♪

 とまぁ、同じ1年生Aランクのルナを相手に、改良ライオネル・ストライクを試しながらもしっかりと勝ちきったことで気分もいいのか、アリエッタはいつになく饒舌だ。

 なにせ真面目なアリエッタは、普段ならこんな風に冗談を言うことはあまりない。
 アリエッタ的にはかなり手応えを感じた勝利だったのだろう。

「でもほんとすごかったぞ。魔力消費を抑えて移動用って割り切ってたのに、だけど見た目は変わらないようにして、そうと悟られないようにしてさ」

「見た目で判別がついたら、ルナだって気付いちゃうからね。改変するうえで、そこは一番気を使ったわ」

「でも多分だけど、あれって移動用だと思って舐めて殴りに行ったら、ガチのライオネル・ストライクに即座に切り替わって、カウンターを喰らうんだよな?」

「まだ即座ってほどスムーズには切り替えられないんだけど。ま、不用意に向こうから近づいて来てくれたら、ライオネル・ストライクも当てやすいわよね」

「抜け出るのと、切り替えと。見せなかったけど2段構えだったってわけか」
「ポーカーでも何でも、同じ手札でも作れる役に幅を持たせておいた方が勝ちやすいからね」
「へぇ、ポーカーなんてやるのか? なんか意外だな」

 ソシャゲでそんなシーンあったっかな?
 記憶にないんだけど。

「お、お姉さまがたしなむのを見ていただけで、実際にやったことはないんだけど……」
「お、おう」
「まぁその話はいいでしょ! これで残すは決勝よ」

「決勝の相手はユリーナとキララの主従コンビか。ユリーナは氷属性で、キララは分かんないんだっけ?」

 第2シードのユリーナ・キララ組は、俺たちとは別の第2闘技場(デュエルスタジアム)で戦っているので、戦いぶりを見ることはできなかった。

「偵察に行ってくれた友達の話だと、ユリーナが1人で戦ってて、キララはほとんど何もしてないみたいね。武具召喚コネクトすらしていなかったみたい」

「最初からキララは戦う気ゼロってことか。隠してるのかな?」

「多分ね。キララは入学してからもまったく模擬戦闘訓練とか実習には顔を出していないから、前情報なしで戦うしかないわね」

「完全な隠し玉ってことか。でもそれでいいのか? 卒業とかできるのか? 心配なんだが」

「模擬戦闘訓練や実習は不参加でも、優秀な姫騎士でさえあれば問題ないわよ? 今回のタッグトーナメントで上位に入るとかして結果さえ出せば、過程なんて関係ないんだし」

「出席日数とかも加味される義務教育とは違うってことか」

「義務教育……? 教育は義務でやるものじゃなくて、教育を受ける権利でしょ? 高等教育は望んでも受けられない人も多いのに、ユータなに言ってるの?」

 アリエッタが心底分からないって顔をして小首をかしげる。

「そっか、そうだよな」

 この世界に転移する前、俺はいやいや勉強をしていた。
 高校だって通いたくて通っていたわけじゃない。
 周りが高校に行くから俺も行っただけ。
 なにか特別な目的があったわけじゃない。
 多分、大学や就職も同じように、主たる目的もなく流されるがままでやったに違いない。

 だけどこうやって一生懸命に目標を持って生きている人間から、人生についてマジレスされると、今になってそれがすごく恥ずかしくなってくるな。

 だからといって、もう一度元の世界に戻って勉強しろと言われたら、やっぱりできないんだろうけどさ。
 この世界でも俺は、努力しているとは言いがたいし。

 ソシャゲの知識があるのとLv99神騎士だから、何でも天才的にできてしまうだけで、そこには俺の努力は介在していない。

 だけどこの世界の人間は違う。
 みんな本当に一生懸命に生きている。

 特にアリエッタはそうだった。
 ソシャゲの画面越しには伝わらないアリエッタのリアルな必死さを、俺はまざまざと感じていた。
 アリエッタを推して良かったと、心から感じていた。

「ま、なんにせよ、次で最後だから気を抜かないで頑張るわよ。ここまで来たら2位じゃ意味ないんだから」
「ああ、ここまで来たら優勝あるのみだ」

 俺が右手で拳を握って顔の前に上げると、アリエッタが自分の拳をこつんと合わせてくる。

 今の俺たちは強い。
 心身ともに充実している。

 隠し玉のキララがどれほどのものか知らないが、決勝も俺たちが勝たせてもらうぞ――!
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