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59. 二つの匂い
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「何でそんなに嬉しそうなの」
「何でって、そりゃかっこいいって言われたら嬉しいですって」
「いや……泰樹くんなら、かっこいいとか言われ慣れてるだろ?」
「真緒ちゃんから言われることには、慣れてません」
しれっと言ってのける。
俺からはってことは、他の人からは言われ慣れてるってことか。
(まぁ普通に考えたらモテるだろうしなぁ……瀬尾も、内情聞いた後だと微妙だけど、そおうじゃなければすごい家だし)
「俺、別に好きな人以外から言われたって嬉しくも何ともないですからね?」
「…………もしかして、泰樹くんは俺のことが好きなの?」
「もしかしなくても好きだよ。好きっていうか、たまらなく大好き」
――好き。
何度か繰り返されたその一言が、予想以上に胸にすうっと染み込むのがわかった。
(……やばい。めちゃくちゃ嬉しい)
顔を上げると、優しく俺を見ている目と目が合えば、肩を掴まれたまま泰樹くんの顔がゆっくりと近づいて鼻先が触れる。
「泰樹く――」
「好きです」
「っ!」
近いよと注意しようとして、食い気味に告白された。
「ずっとずっと、真緒ちゃんのことが好きだよ」
低音で甘くささやかれて照れない人間はいないと思う。
しかもそれが耳元で、ゼロ距離なら余計に。
思わずヒュッと息を飲んだ。
今どれだけ挙動不審な動きをしているか、どれほど緊張しているか、そんなの自分自身が一番よくわかっている。今、俺の顔は誰が見てもきっと真っ赤だろう。
「ちょ、もうやめて……俺もう死にそう」
上擦った声でそう言うと「死なれたら嫌だなぁ」と笑って離れた。
こうして見ると、宏樹と同じ顔のはずなのに、宏樹と全然似ていないと感じる。もちろん年齢が違うというのもあるけれど、それでも二十歳の頃の宏樹と印象が重ならない。
尖った印象の宏樹に対して、泰樹くんはとにかくどこにも角なんてない、球体のようなイメージだ。きっとどこに触れても痛くない。
(泰樹くんなら――俺も傷つかないのかもしれない……)
こんなことをちらっとでも考えてしまうくらい、どうやら俺は泰樹くんに癒やされてるらしい。
「ごめんな。俺、今までそんな風に泰樹くんを見たことなくて」
「大丈夫です。真緒ちゃんが婚約者の弟をそんな風に見るような人間じゃないって知ってますから」
「…………何か泰樹くんの中で、俺ってどんなイメージなわけ? 何か妙に聖人化されてない?」
苦笑いしつつ尋ねると、ただ微笑まれるだけで否定しない。
また抱きしめられて、俺も今度はそれを振りほどこうとはしなかった。
泰樹くんの胸に顔を埋めて深呼吸すれば、俺と同じ柔軟剤の匂いがした。
紅茶の匂いじゃない。俺と同じ匂いに安心する。
そういえば、泰樹くんと二人でいる時に、彼のフェロモンらしい匂いを感じたことはなかった。彼も俺からは柔軟剤の匂いがすると言っていたのを思い出す。
もう一度深く泰樹くんの匂いを吸い込んだら安心したのか、自然な眠気がまぶたにのしかかって、体から力が抜けた。
泰樹くんの匂いに紅茶の匂いが混ざるのを感じながら、俺はゆっくりと意識を手放した。
「何でって、そりゃかっこいいって言われたら嬉しいですって」
「いや……泰樹くんなら、かっこいいとか言われ慣れてるだろ?」
「真緒ちゃんから言われることには、慣れてません」
しれっと言ってのける。
俺からはってことは、他の人からは言われ慣れてるってことか。
(まぁ普通に考えたらモテるだろうしなぁ……瀬尾も、内情聞いた後だと微妙だけど、そおうじゃなければすごい家だし)
「俺、別に好きな人以外から言われたって嬉しくも何ともないですからね?」
「…………もしかして、泰樹くんは俺のことが好きなの?」
「もしかしなくても好きだよ。好きっていうか、たまらなく大好き」
――好き。
何度か繰り返されたその一言が、予想以上に胸にすうっと染み込むのがわかった。
(……やばい。めちゃくちゃ嬉しい)
顔を上げると、優しく俺を見ている目と目が合えば、肩を掴まれたまま泰樹くんの顔がゆっくりと近づいて鼻先が触れる。
「泰樹く――」
「好きです」
「っ!」
近いよと注意しようとして、食い気味に告白された。
「ずっとずっと、真緒ちゃんのことが好きだよ」
低音で甘くささやかれて照れない人間はいないと思う。
しかもそれが耳元で、ゼロ距離なら余計に。
思わずヒュッと息を飲んだ。
今どれだけ挙動不審な動きをしているか、どれほど緊張しているか、そんなの自分自身が一番よくわかっている。今、俺の顔は誰が見てもきっと真っ赤だろう。
「ちょ、もうやめて……俺もう死にそう」
上擦った声でそう言うと「死なれたら嫌だなぁ」と笑って離れた。
こうして見ると、宏樹と同じ顔のはずなのに、宏樹と全然似ていないと感じる。もちろん年齢が違うというのもあるけれど、それでも二十歳の頃の宏樹と印象が重ならない。
尖った印象の宏樹に対して、泰樹くんはとにかくどこにも角なんてない、球体のようなイメージだ。きっとどこに触れても痛くない。
(泰樹くんなら――俺も傷つかないのかもしれない……)
こんなことをちらっとでも考えてしまうくらい、どうやら俺は泰樹くんに癒やされてるらしい。
「ごめんな。俺、今までそんな風に泰樹くんを見たことなくて」
「大丈夫です。真緒ちゃんが婚約者の弟をそんな風に見るような人間じゃないって知ってますから」
「…………何か泰樹くんの中で、俺ってどんなイメージなわけ? 何か妙に聖人化されてない?」
苦笑いしつつ尋ねると、ただ微笑まれるだけで否定しない。
また抱きしめられて、俺も今度はそれを振りほどこうとはしなかった。
泰樹くんの胸に顔を埋めて深呼吸すれば、俺と同じ柔軟剤の匂いがした。
紅茶の匂いじゃない。俺と同じ匂いに安心する。
そういえば、泰樹くんと二人でいる時に、彼のフェロモンらしい匂いを感じたことはなかった。彼も俺からは柔軟剤の匂いがすると言っていたのを思い出す。
もう一度深く泰樹くんの匂いを吸い込んだら安心したのか、自然な眠気がまぶたにのしかかって、体から力が抜けた。
泰樹くんの匂いに紅茶の匂いが混ざるのを感じながら、俺はゆっくりと意識を手放した。
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