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77. 地味に嬉しい
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オメガとして生まれた俺だけど、俺の周りにオメガが一人もいなかった。
両親も兄もアルファだし、滅多に会わないけれど分家もほとんどがアルファだ。
もちろんベータやオメガと結婚した親族もいるけれど、なぜか嫁いできたオメガと俺は関わることを許されなかった。分家の人間が集まる機会があれば、俺は兄が単身で暮らすマンションに行かされていた。
じゃあアルファとの関わりが多かったのかと聞かれれば、答えはノーだ。両親、兄、そして瀬尾家の五人くらいしか日常的に接するアルファはいない。
通っていた学校にはもちろんアルファもいたけれど(オメガもいるとは噂では聞いた)、俺の学年は特にベータが多い世代だったこともあって、友人はみなベータだった。
一番身近にいるアルファの兄は、俺から見てもちょっと型破りな人だから、世間一般のアルファがどうかという参考にはならない。
俺はきっと俗に言われている「囲い込まれているオメガ」なんだろう。
受け持っている患者さんにも何人かいるけれど――総じてみんな、世間に疎い。そういう患者さんはカウンセリングにも番のアルファが一緒に来ることがほとんどだし、それをあっさりと受け入れている。
中高大をオメガ校ではなく一般校で過ごして、かつ卒業後も外に出て働いている俺は、厳密に言えば囲い込まれてるわけではなく、でもどこも日下と瀬尾の力が強いから、彼らとそう変わらない。
俺は兄を慕っているし、兄も俺を可愛がってくれている。それは俺と兄の第二性が違うせいなのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
だから瀬尾の三兄弟が不仲なのは、きっと俺のあずかり知らぬところで何かがあるんだろうな、と思う。
何でこんなことを朝から考えているのかと言うと、朝、寝室から出てきた三人の雰囲気がこれまた最悪だったからだ。
「真緒ちゃん、今日の体調はどう? 熱は?」
「あー、さっき計ったけど微熱程度だった。もう少ししたらまたヒートが起きるかも」
みんなの朝食をリビングのローテーブルに運ぼうとしていた俺の手から、泰樹くんがトレイを受け取った。俺の顔色を見ているのがわかる。
「それよりも、お前たちこそどうした? 何か、妙にぎくしゃくしてない?」
「あー、昨日ちょっと色々あって」
「ケンカか……?」
「ううん、ちょっと今後について話し合っただけだから、大丈夫。心配させてごめんね」
「……何もないなら、いいんだけど」
見上げる泰樹くんはいつもどおりの笑顔で、残りの二人は憔悴とまではいかないけど、顔がこわばっている。泰樹くんが朝食を配膳するのを見送って、俺は人数分のコーヒーを淹れた。運んで、それぞれに手渡す。
ラグに座ると、俺の隣にさりげなく泰樹くんが座った。
(――隣だ、隣に座った)
ちょっと嬉しい気がする。
でも、顔をいっぱい見られる正面に座ってくれてもいいかも、とか思ったりして俺は隣に笑いかけた。たったそれだけなのに、泰樹くんは一瞬頬を赤くして、目を細める。泰樹くんは運ぶのとか率先して手伝ってくれるし、こういうのって地味に、嬉しい。
両親も兄もアルファだし、滅多に会わないけれど分家もほとんどがアルファだ。
もちろんベータやオメガと結婚した親族もいるけれど、なぜか嫁いできたオメガと俺は関わることを許されなかった。分家の人間が集まる機会があれば、俺は兄が単身で暮らすマンションに行かされていた。
じゃあアルファとの関わりが多かったのかと聞かれれば、答えはノーだ。両親、兄、そして瀬尾家の五人くらいしか日常的に接するアルファはいない。
通っていた学校にはもちろんアルファもいたけれど(オメガもいるとは噂では聞いた)、俺の学年は特にベータが多い世代だったこともあって、友人はみなベータだった。
一番身近にいるアルファの兄は、俺から見てもちょっと型破りな人だから、世間一般のアルファがどうかという参考にはならない。
俺はきっと俗に言われている「囲い込まれているオメガ」なんだろう。
受け持っている患者さんにも何人かいるけれど――総じてみんな、世間に疎い。そういう患者さんはカウンセリングにも番のアルファが一緒に来ることがほとんどだし、それをあっさりと受け入れている。
中高大をオメガ校ではなく一般校で過ごして、かつ卒業後も外に出て働いている俺は、厳密に言えば囲い込まれてるわけではなく、でもどこも日下と瀬尾の力が強いから、彼らとそう変わらない。
俺は兄を慕っているし、兄も俺を可愛がってくれている。それは俺と兄の第二性が違うせいなのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
だから瀬尾の三兄弟が不仲なのは、きっと俺のあずかり知らぬところで何かがあるんだろうな、と思う。
何でこんなことを朝から考えているのかと言うと、朝、寝室から出てきた三人の雰囲気がこれまた最悪だったからだ。
「真緒ちゃん、今日の体調はどう? 熱は?」
「あー、さっき計ったけど微熱程度だった。もう少ししたらまたヒートが起きるかも」
みんなの朝食をリビングのローテーブルに運ぼうとしていた俺の手から、泰樹くんがトレイを受け取った。俺の顔色を見ているのがわかる。
「それよりも、お前たちこそどうした? 何か、妙にぎくしゃくしてない?」
「あー、昨日ちょっと色々あって」
「ケンカか……?」
「ううん、ちょっと今後について話し合っただけだから、大丈夫。心配させてごめんね」
「……何もないなら、いいんだけど」
見上げる泰樹くんはいつもどおりの笑顔で、残りの二人は憔悴とまではいかないけど、顔がこわばっている。泰樹くんが朝食を配膳するのを見送って、俺は人数分のコーヒーを淹れた。運んで、それぞれに手渡す。
ラグに座ると、俺の隣にさりげなく泰樹くんが座った。
(――隣だ、隣に座った)
ちょっと嬉しい気がする。
でも、顔をいっぱい見られる正面に座ってくれてもいいかも、とか思ったりして俺は隣に笑いかけた。たったそれだけなのに、泰樹くんは一瞬頬を赤くして、目を細める。泰樹くんは運ぶのとか率先して手伝ってくれるし、こういうのって地味に、嬉しい。
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