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序章【運命の出会い】
0-4.冒険者というお仕事
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冒険者には経験と実績に応じた「ランク」というものがある。ランクが上がれば難易度の高い依頼も受けられるようになり、それに応じて名声も収入も上がっていくのだ。そしてランクは自動的に上がるものではなく、昇格審査と試験を経てギルドに認められなければ上がらない。
この世界の冒険者ギルドは世界的な統一組織ではなく、都市単位あるいは〈黄金の杯〉亭のような店舗単位で個別に営業しているのだが、このランクのシステムだけはどのギルドにも共通していた。元は統一組織だったのだとか最初に制定したギルドのものを他のギルドが真似たのだとか言われるが、実際のところは定かではない。
定かではないが、冒険者の利便性という意味ではメリットしかないので、誰もそこの整合性を気にすることもない。
アルベルトのランクは“一人前”だ。もっとも層が厚いランクで、ギルドに登録され支給される冒険者認識票は緑色だ。
だがアルベルトは冒険者としては15の歳からもう20年目の、言わば大ベテランと言っていいキャリアを持っている。こなしてきた依頼の数や実績、それに人格などを加味すれば、少なくとも“熟練者”は堅いところで、もしかすると“凄腕”にさえ達するかも知れない。
…というのはまあ、アヴリーの贔屓目も入ってはいるのだが、最低でも“腕利き”は確定で、“熟練者”も充分視野に入るはずだ。
ただし、現在の〈黄金の杯〉亭で審査を担当するのは就任したばかりの若いギルドマスターではなく、一番の古株であるアヴリーなのだから、贔屓目の通りに凄腕まで上げてしまうかも知れない。
少なくともそんなえこひいきはしない、と断言できる自信はアヴリーにはなかったりする。
冒険者のランクは大きく分けて8種類ある。
下から順に、
“駆け出し”(認識票は白)
“見習い”(認識票は黄)
“一人前”(認識票は緑)
“腕利き”(認識票は青)
“熟練者”(認識票は赤)
“凄腕”(認識票は黒)
“達人”(認識票は銀)
“到達者”(認識票は金)
の8つである。
基本的には達人以上の存在は世界に数えるほどしかおらず、凄腕クラスも規模の大きな冒険者ギルドになら数名いるかいないか…という高ランク冒険者であり、他の冒険者たちの尊崇を集める存在である。もしもアルベルトがそのランクに達しているとなれば、少なくとも今みたいな不名誉な陰口を叩かれるような事もなくなるはずである。少なくともアヴリーはそう考えていた。
ちなみに現在の〈黄金の杯〉亭に在籍しているのは熟練者までで凄腕はいない。いないからこそアルベルトに期待したい気持ちがアヴリーの中にはあるのだ。
朝に騒いでいたフリージアは腕利き、ザンディスは熟練者である。腕利きは周りから一目置かれる有力な冒険者、熟練者になれば冒険者としては収入が安定してきて生活が楽になってゆき、そして凄腕ともなると後進の指導に当たったり他のギルドへの応援に出たりするようになる。実績によっては都市の領主から呼び出されて表彰されることさえある。
そして達人以上のランクは基本的には世界を救う勇者のような絶対的強者たちの世界だ。勇者と認められて何度も世界を救うような活躍をすると、到達者を超えて“頂点”にまで至る事さえあるという。
ちなみに“頂点”の認識票は白金である。一応は冒険者として扱われはするものの、歴史上の勇者たち以外に“頂点”はおらず、そのため世間一般ではもはや冒険者としては認識されない。
「あーあ。アルさんが昇格試験受けてくれて凄腕ぐらいになってくれれば、黄金の杯亭ももっと有名になって冒険者が集まってくるのになぁ」
思わず愚痴を漏らすアヴリーである。
「いやいや、何言ってるの。薬草を採ってるだけで凄腕とかなるわけないでしょ」
対してアルベルトは若干引き気味である。
「分かんないわよ?その昔、ひたすらゴブリンばっかり狩って達人までなった冒険者も居たって言うじゃない?」
「だってゴブリンはあれでも魔物だからね。討伐のシチュエーションが毎回変わるし数も多いし。
ゴブリンばかり狩り続けられるのってある種の才能なんだよ?」
「…そうなの?」
「そうだよ」
「そっかぁ…」
何となく言いくるめられてしまった感のあるアヴリーであった。
ちなみに、人類に害をなす存在としては野の獣が最低ランクで、それが“瘴気”と呼ばれる闇の魔力で変質すると魔獣になる。魔物というのは最初から“瘴気”によって具現化した闇の眷属で、これが人類にとってもっとも大きな脅威となる。
勇者たちでなければ対抗し得ない吸血魔や悪魔、魔王といった存在も、大きな括りで言えば“魔物”である。
ゴブリンは魔物としてはもっとも卑小な存在だが、それでも魔物には違いないのだ。
「ふっっっかーつ!」
威勢のいい声が厨房の方から聞こえてきて、アルベルトとアヴリーが声のした方を見ると、満面の笑みでドヤ顔をかましたニースが立っていた。
右拳を高々と天井に向かって突き上げて、左拳は腰に当て、胸を張ってふんぞり返っている。大仰な動作に鮮やかな赤髪が派手に揺れ、窓から差し込む夕陽を受けて煌めく。髪と同じ色の瞳はまるでヤル気に燃えているかのようだ。
「よっしゃ!これで今夜は飲まされてもだいじょーぶ!!」
「大丈夫なわけ無いでしょ、何言ってんのよアンタ。
てか飲まされないようにしろっつの!」
ドヤ顔のニースと、呆れ顔のアヴリー。
これもここ最近の定番のやり取りだ。
「はは。まあ、ニースもほどほどにね。
それじゃ、俺は報酬貰って帰るとするよ」
そして小うるさいニースが復活したところでアルベルトはそそくさと離脱にかかる。この小娘は元気が良すぎて、アルベルトのような中年には相手にするだけでも少々骨が折れるので、華麗にスルーするに限る。
ちょうど報酬支払いのカウンターではギルド会計係のホワイトが準備を始めている所だった。
「はぁい。こちらが本日の依頼達成分ですねぇ。
本日もお疲れさまでしたぁ♪」
しっとり濡れる艷やかな長い黒髪をふわりとなびかせて、独特の光沢のあるグレーの瞳でたおやかに微笑みかけながら、おっとりした口調で彼女はアルベルトに報酬を手渡す。
彼女が動くたびに、着ているブラウス越しに暴力的なまでに存在を主張する巨大な双丘がたわわに揺れる。そして見るものの目を惹き付けて離さない。
「うん、ありがとうホワイト。じゃあまた」
その色香たっぷりのホワイトの姿になんら動じることもなく、ささやかな報酬を受け取って、礼を言いながらアルベルトは帰って行った。
「…今さら思うけど、あの娘が会計専従で良かったわ…」
「ホントですよねえ。絶対あの人男ウケ凄そうですもん」
水準的には充分美人だが嫁き遅れて三十路の大台に乗ってしまったアヴリーと、やはり水準以上の美人だが若すぎて色気の足りないニースは、そんな彼女が給仕娘として店に出てこないことに心から安堵するのであった。
この世界の冒険者ギルドは世界的な統一組織ではなく、都市単位あるいは〈黄金の杯〉亭のような店舗単位で個別に営業しているのだが、このランクのシステムだけはどのギルドにも共通していた。元は統一組織だったのだとか最初に制定したギルドのものを他のギルドが真似たのだとか言われるが、実際のところは定かではない。
定かではないが、冒険者の利便性という意味ではメリットしかないので、誰もそこの整合性を気にすることもない。
アルベルトのランクは“一人前”だ。もっとも層が厚いランクで、ギルドに登録され支給される冒険者認識票は緑色だ。
だがアルベルトは冒険者としては15の歳からもう20年目の、言わば大ベテランと言っていいキャリアを持っている。こなしてきた依頼の数や実績、それに人格などを加味すれば、少なくとも“熟練者”は堅いところで、もしかすると“凄腕”にさえ達するかも知れない。
…というのはまあ、アヴリーの贔屓目も入ってはいるのだが、最低でも“腕利き”は確定で、“熟練者”も充分視野に入るはずだ。
ただし、現在の〈黄金の杯〉亭で審査を担当するのは就任したばかりの若いギルドマスターではなく、一番の古株であるアヴリーなのだから、贔屓目の通りに凄腕まで上げてしまうかも知れない。
少なくともそんなえこひいきはしない、と断言できる自信はアヴリーにはなかったりする。
冒険者のランクは大きく分けて8種類ある。
下から順に、
“駆け出し”(認識票は白)
“見習い”(認識票は黄)
“一人前”(認識票は緑)
“腕利き”(認識票は青)
“熟練者”(認識票は赤)
“凄腕”(認識票は黒)
“達人”(認識票は銀)
“到達者”(認識票は金)
の8つである。
基本的には達人以上の存在は世界に数えるほどしかおらず、凄腕クラスも規模の大きな冒険者ギルドになら数名いるかいないか…という高ランク冒険者であり、他の冒険者たちの尊崇を集める存在である。もしもアルベルトがそのランクに達しているとなれば、少なくとも今みたいな不名誉な陰口を叩かれるような事もなくなるはずである。少なくともアヴリーはそう考えていた。
ちなみに現在の〈黄金の杯〉亭に在籍しているのは熟練者までで凄腕はいない。いないからこそアルベルトに期待したい気持ちがアヴリーの中にはあるのだ。
朝に騒いでいたフリージアは腕利き、ザンディスは熟練者である。腕利きは周りから一目置かれる有力な冒険者、熟練者になれば冒険者としては収入が安定してきて生活が楽になってゆき、そして凄腕ともなると後進の指導に当たったり他のギルドへの応援に出たりするようになる。実績によっては都市の領主から呼び出されて表彰されることさえある。
そして達人以上のランクは基本的には世界を救う勇者のような絶対的強者たちの世界だ。勇者と認められて何度も世界を救うような活躍をすると、到達者を超えて“頂点”にまで至る事さえあるという。
ちなみに“頂点”の認識票は白金である。一応は冒険者として扱われはするものの、歴史上の勇者たち以外に“頂点”はおらず、そのため世間一般ではもはや冒険者としては認識されない。
「あーあ。アルさんが昇格試験受けてくれて凄腕ぐらいになってくれれば、黄金の杯亭ももっと有名になって冒険者が集まってくるのになぁ」
思わず愚痴を漏らすアヴリーである。
「いやいや、何言ってるの。薬草を採ってるだけで凄腕とかなるわけないでしょ」
対してアルベルトは若干引き気味である。
「分かんないわよ?その昔、ひたすらゴブリンばっかり狩って達人までなった冒険者も居たって言うじゃない?」
「だってゴブリンはあれでも魔物だからね。討伐のシチュエーションが毎回変わるし数も多いし。
ゴブリンばかり狩り続けられるのってある種の才能なんだよ?」
「…そうなの?」
「そうだよ」
「そっかぁ…」
何となく言いくるめられてしまった感のあるアヴリーであった。
ちなみに、人類に害をなす存在としては野の獣が最低ランクで、それが“瘴気”と呼ばれる闇の魔力で変質すると魔獣になる。魔物というのは最初から“瘴気”によって具現化した闇の眷属で、これが人類にとってもっとも大きな脅威となる。
勇者たちでなければ対抗し得ない吸血魔や悪魔、魔王といった存在も、大きな括りで言えば“魔物”である。
ゴブリンは魔物としてはもっとも卑小な存在だが、それでも魔物には違いないのだ。
「ふっっっかーつ!」
威勢のいい声が厨房の方から聞こえてきて、アルベルトとアヴリーが声のした方を見ると、満面の笑みでドヤ顔をかましたニースが立っていた。
右拳を高々と天井に向かって突き上げて、左拳は腰に当て、胸を張ってふんぞり返っている。大仰な動作に鮮やかな赤髪が派手に揺れ、窓から差し込む夕陽を受けて煌めく。髪と同じ色の瞳はまるでヤル気に燃えているかのようだ。
「よっしゃ!これで今夜は飲まされてもだいじょーぶ!!」
「大丈夫なわけ無いでしょ、何言ってんのよアンタ。
てか飲まされないようにしろっつの!」
ドヤ顔のニースと、呆れ顔のアヴリー。
これもここ最近の定番のやり取りだ。
「はは。まあ、ニースもほどほどにね。
それじゃ、俺は報酬貰って帰るとするよ」
そして小うるさいニースが復活したところでアルベルトはそそくさと離脱にかかる。この小娘は元気が良すぎて、アルベルトのような中年には相手にするだけでも少々骨が折れるので、華麗にスルーするに限る。
ちょうど報酬支払いのカウンターではギルド会計係のホワイトが準備を始めている所だった。
「はぁい。こちらが本日の依頼達成分ですねぇ。
本日もお疲れさまでしたぁ♪」
しっとり濡れる艷やかな長い黒髪をふわりとなびかせて、独特の光沢のあるグレーの瞳でたおやかに微笑みかけながら、おっとりした口調で彼女はアルベルトに報酬を手渡す。
彼女が動くたびに、着ているブラウス越しに暴力的なまでに存在を主張する巨大な双丘がたわわに揺れる。そして見るものの目を惹き付けて離さない。
「うん、ありがとうホワイト。じゃあまた」
その色香たっぷりのホワイトの姿になんら動じることもなく、ささやかな報酬を受け取って、礼を言いながらアルベルトは帰って行った。
「…今さら思うけど、あの娘が会計専従で良かったわ…」
「ホントですよねえ。絶対あの人男ウケ凄そうですもん」
水準的には充分美人だが嫁き遅れて三十路の大台に乗ってしまったアヴリーと、やはり水準以上の美人だが若すぎて色気の足りないニースは、そんな彼女が給仕娘として店に出てこないことに心から安堵するのであった。
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