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お人形に恋をした

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 聖女と寝て分かったことといえば、あの女の身体の作りがこの世界の人間と異なるということだけだ。
 多少なりともシトレディスに対する忠誠心があるんだろう。それとなく調査団やシトレディスのことを聞いても、聖女は口を割らなかった。
 でも、それも時間の問題だと思う。彼女の目や話しぶりには迷いが見えた。優しく、特別扱いをして後何回か抱いてやれば向こうから話し出すに違いない。







 その日の深夜、私はティアの寝室に向かった。
 あれは寂しがり屋な所がある。ずっと放ったらかしにしていたら聖女の前で私に寄り添って来るかもしれない。そうなったら計画に狂いが出る。だから、ティアの機嫌を取って日中は私に近寄らないように説得しないといけない。

 扉をそっと開けて静かに部屋へと入った。彼女は私に気づいた様子もなく、ベッドに寝そべっていた。
 月明かりのおかげで、灯りを点けずとも彼女の顔が見える。ティアは物憂げにどこかを見つめていた。

 "ーーさみしい"

 彼女は心の中でそう思っていた。たったの1日、添い寝をしてやらなかっただけでこれだ。
「ティア」
 小さな声で名前を呼ぶと彼女は勢いよく起き上がった。ぱっと明るく笑って私の来訪を歓迎してくれた。
 私がベッドの脇に座ると彼女は私の腕に絡みついてきた。
「エルドノアさま、お仕事してきたよ?」
 期待のこもった眼差しで私を見つめる。
 私は人差し指の腹に傷をつけると彼女の口元に差し出した。
 ティアはきょとんとした顔で私の指を見つめる。
「ごほうび、くれないの?」
「まだ、私の役に立ってない」
 冷たくあしらうとティアの表情が途端に暗くなった。

 "ーー1人じゃ、だめなのかな"

 ティアの心からそんな声が漏れた。
「いらないの?」
 手を引っ込めようとしたらティアは私の手を掴んで指を舐めた。
 私の顔を見ながらゆっくり味わうように舌を使った。
 すごく官能的でそそる。押し倒したい気分になったけど、今はだめだ。
 信徒の魂を吸収したばかりなら本格的に餌をやるべきではない。彼女の身体に貯めておける魂の量にも限界があるから。限界を超えれば彼女の身体が壊れてしまってもおかしくない。
 私は手を引っ込めた。

「おしまいだよ」
 ティアのお腹は満たされているのだろう。あっさりと引き下がって私の顔を見つめている。

 ーーああ、そうだ。言わないと。

 ここに来た目的を危うく忘れるところだった。
「ねえ、ティア」
「はい」
「私は今、調べ物をしているから、昼間はお前に構えない」
「わかりました」
 ティアは物分りの良い返事をした。
「夜は一緒にねてくれますか」
「なるべく時間を作るよ」
 頭を撫でるとティアは嬉しそうに笑った。単純なやつだ。
「さあ、寝ようか」
 ベッドに入ってティアを抱き寄せる。ティアは私の胸に頭をのせて目を閉じた。
「おやすみ、ティア」
 そう言うとティアは微笑んだ。







 聖女と関係を持ってから10日ほど経った。聖女と何度も逢瀬を重ねて、ようやく彼女は口を割った。

 聖女によると、彼女は元いた世界で"18禁ゲーム"なるもので遊んでいたらしい。そのゲームには、私やティアのことが語られていて、その情事のことまでも描かれていたらしい。
 彼女はそのゲームを大層気に入って、ゲームを有利にするための情報を調べた。でも、どれだけ調べても何の情報見つからなかったそうだ。不思議に思って考え込んでいたら急に空間が歪んで気がついたらこの世界に来ていた。そして、目の前にはシトレディスがいたのだという。
 おそらくだか、そのゲームはシトレディスが作ったものなのだろう。この世界のことや私達のことを学習させるための装置として使ったに違いない。

 シトレディスは聖女に対してこう言ったそうだ。

 "私はこの世界を創造した神。あなたの力が必要だから異界から喚んだの。どうか、エルドノアの封印に協力して頂戴。このままだと世界は破滅してしまうわ"

 シトレディスは美しい顔を歪めて涙をボロボロと零して懇願したそうだ。
 彼女は嘘を言ってはいないけど、本当のことも言っていなかった。
 まるで自分が唯一神であるかのような物言い。エルドノアが存在するから世界が破滅すると誤解させる文脈。

 ーー小賢しい女だ。

「ノア、どうしたの?」
 周りに調査団の連中がいるにも関わらず、聖女は馴れ馴れしく私の腕に絡みついてきた。
 聖女の話によると、連中は"エルドノア"を探していて、私はその有力な容疑者だというのに。調査団の連中は「何を考えているんだ」と言いたげな顔で聖女を見ている。
「ちょっと考え事をね」
 にこりと笑って彼女の頬にキスをすれば聖女は満足気に笑った。

 ーー少し優しくされただけで私を手に入れたと思っている。馬鹿な女だ。

 この女は大した情報を渡さないくせに常時私にベタベタと付き纏ってきて鬱陶しい。ティアのように用事がない時は一人でいることはできないのか。
「ノア、お話があるの」
 聖女は私の手を取った。
「二人きりで話そう?」
 その顔には期待の色が見える。ヤりたくて仕方がないらしい。
「いいよ」
 私は優しく笑った。
 この女はまだ情報を持っているはずだ。面倒だけど利用価値がある間はいくらでも付き合ってやろう。
 私は聖女を連れて例のゲストルームへと向かった。
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