1 / 46
プロローグ
しおりを挟む
その日は旭川莉緒にとって正に人生最悪な日だった。
無利子の奨学金を借りて大学を卒業して丸4年。奨学金ローンを早く完済したくて一人暮らしではあるけれど節約に節約を重ねて毎月実家に送金していた。
それが今日最後の返済だったはずなのに。
「ゴメンね。家のリフォームで使っちゃった。」
母からのてへぺろ、なスタンプと共に届いたメッセージに一瞬ハテナとなり仕事中だと言うのにトイレ休憩と言い訳しつつ速攻で実家に電話を入れた。
そして奨学金は一銭も返済されていなかった、という事実に灰になるかと思った、マジで。
しかも実家のリフォームは5年前に授かり婚(何が授かり婚だ!)した2歳下の弟夫婦との同居の為だったのだから腹が立つ。
どこまでも弟には甘い両親だった。
家をリフォームしたと聞いた時におかしいなとは思っていたのだ。貯金も無い弟たちの為に豪勢な披露宴とハネムーン代を両家が負担したと聞き、両親はまだ働いているとはいえ家のリフォーム代を支払えるのか、と。
だって私にはお金が無いと言って大学生活に掛かるお金は全く支払ってはくれなかった。学費が安く済むようにと頑張って国立大学に進んだのに喜んでくれさえしなかった親たちなのだ。
それなのに高校を卒業と同時に弟にはハイブリットな新車を購入してあげていた。なのに弟が速攻事故って車をダメにした際には『生きていてくれるだけでいいの。』と涙を流し笑顔で代わりの車を購入していた。
その挙句に彼女を自由に連れ込みたい弟の希望で一人暮らしの費用まで全て負担をした数ヶ月後の授かり婚。
そんな理由でリフォーム代なんてあるのか?ローンでも厳しくない?とは思っていた。いや疑っていた。
そして奨学金の返済をするのに何故か母を通しての返済。私名義のローンなんだから自分ですると言っているのに『住所変更の手続きが面倒でしょ。』とか『わずらわしい事は全てやっておくから』とかなんとか言って、自分でやるより面倒な母経由での返済になっていた。
弟贔屓なのは昔からだったけれど娘が必死に節約して返済しようとしたお金をそのままリフォーム代の返済に充てるなんて考えられる?
『孫ちゃんとの生活の為に。』とか意味不明。そんなにまでしてロクデナシ弟夫婦と同居したかったのか。
あまりの仕打ちにトイレ休憩後は鬼の形相(ここで泣ければ可愛いげがあったのか?)で仕事をしていたら怯えた上司が『体調悪そうだから今日は早退していいよ。』と1年に1度あるか無いかの優しさで早退させてくれた。
いやもしかしたら追い払われたのかもしれない。
その好意に甘えるか、と思ったのが悪かったのか、結果的には良かったのか・・・。
仕事が忙しいと言う恋人とは久しく一緒に過ごせていなかったな、と久しぶりに夕飯作って待っていようかとしおらしい事を考えたのが失敗だった。
彼の住むマンションに合鍵使って中に入れば玄関には見覚えのあるヒールが。うん、コレ散々自慢していた某有名ブランドのオーダーメイド1点モノだね。
リビングで鉢合わせならまだ良かった。けれどそこには見当たらない。嫌だなとは思いつつ寝室の扉を開ければ居たよね、生まれたままの姿の恋人と大学時代の親友が。
すっぽんぽんなのに羞恥心もなく勝ち誇った顔の元親友と何やら言い訳めいた言葉を繰り返す元恋人。
『話せば誤解は解ける!』ととりあえず服を着ようとワタワタしている元恋人に軽蔑の眼差しをむけながらリビングに戻る私。
「元カノからのプレゼントなんて持っていたら今カノが気を悪くするよね?」
やっと服を着てリビングまで追いかけてきた彼にアルカイックスマイルでそう言って、彼のリクエストでプレゼントした時計や財布、靴などをベランダから放り投げてやった。
彼の部屋は5階だったけれどそれらはいい音を立てて川の中にダイブした。
悲鳴なのか怒鳴り声なのかよく分からない声を出す元恋人は、自分が貰う物には10万だとか20万もするような人気ブランドの物を欲しがる人だった。
けれど私の誕生日にはちょっと良いラブホで1日まったり過ごすのが定番、と言うみみっちい男でもあった。
何が『今日一日僕は君のモノ。』だ。思う存分やりたかっただけだろ!
どんだけ自分の価値を過大評価してたんだか。
「横取り女と見栄っ張り男は案外お似合いだね。」
と未だに服を着ていない元親友(痴女か、痴女だったのか!)に一言言って部屋から出て行った。
ヒステリックな金切り声が聞こえた気がするけど知ったこっちゃない。
その後はせんべろ飲み屋で号泣。『お姉ちゃん、お願いだからもう帰って。』と店主に懇願される位泣きながら飲んで、千鳥足で30年モノのアパートの201号室に帰ってきた。
部屋に戻ると見るだけで腹立だしい元恋人の持ち物(それなのにヤツは一銭も払っていない!)の数々が視界に入って、真夜中だけど断捨離という名の大掃除を酔ったテンションで決行する事に。
元々掃除は好きな方だった。それが中学で美化係をした事から趣味=掃除、と言うぐらい暇な時にはどこかしらを掃除していた。
何しろ汚かった場所や物がすっきり綺麗になる達成感、アレは良い!
しかし今は深夜だ。私は常識ある人間である。加えて階下の住人は私が不在の昼間でも『足音が煩い。』だの『掃除機の音をどうにかしろ。』などと、私が帰ってきた時に文句を言ってくる意味不明の老夫婦だ。
深夜に音を立てずに大掃除。コレは燃える。
無敵の酔っ払いの私は最高難度のミッションに燃えて速やかに元カレグッズを袋に纏め、箒とハタキを駆使して部屋中を掃除し仕上げは水に食器洗い洗剤を混ぜ雑巾で床を拭いてから仕上げ磨き。
達成感を感じた時に下からドンっと大きく突き上げるような衝撃と音。
これはミッションクリアならずだったか、と慌てて掃除グッズとゴミを手に持った瞬間、ピカピカになった床が文字通り?光輝いた。但し円を描く感じで。
いや、ちゃんと四角く隅々まで床を拭いたのに、と酔った頭で考えていたら目の前が真っ暗になって、浮遊感というか下に落ちるような感じで意識がすーっと遠のいていった。
「あ、貧血?それとも飲み過ぎた?」
無利子の奨学金を借りて大学を卒業して丸4年。奨学金ローンを早く完済したくて一人暮らしではあるけれど節約に節約を重ねて毎月実家に送金していた。
それが今日最後の返済だったはずなのに。
「ゴメンね。家のリフォームで使っちゃった。」
母からのてへぺろ、なスタンプと共に届いたメッセージに一瞬ハテナとなり仕事中だと言うのにトイレ休憩と言い訳しつつ速攻で実家に電話を入れた。
そして奨学金は一銭も返済されていなかった、という事実に灰になるかと思った、マジで。
しかも実家のリフォームは5年前に授かり婚(何が授かり婚だ!)した2歳下の弟夫婦との同居の為だったのだから腹が立つ。
どこまでも弟には甘い両親だった。
家をリフォームしたと聞いた時におかしいなとは思っていたのだ。貯金も無い弟たちの為に豪勢な披露宴とハネムーン代を両家が負担したと聞き、両親はまだ働いているとはいえ家のリフォーム代を支払えるのか、と。
だって私にはお金が無いと言って大学生活に掛かるお金は全く支払ってはくれなかった。学費が安く済むようにと頑張って国立大学に進んだのに喜んでくれさえしなかった親たちなのだ。
それなのに高校を卒業と同時に弟にはハイブリットな新車を購入してあげていた。なのに弟が速攻事故って車をダメにした際には『生きていてくれるだけでいいの。』と涙を流し笑顔で代わりの車を購入していた。
その挙句に彼女を自由に連れ込みたい弟の希望で一人暮らしの費用まで全て負担をした数ヶ月後の授かり婚。
そんな理由でリフォーム代なんてあるのか?ローンでも厳しくない?とは思っていた。いや疑っていた。
そして奨学金の返済をするのに何故か母を通しての返済。私名義のローンなんだから自分ですると言っているのに『住所変更の手続きが面倒でしょ。』とか『わずらわしい事は全てやっておくから』とかなんとか言って、自分でやるより面倒な母経由での返済になっていた。
弟贔屓なのは昔からだったけれど娘が必死に節約して返済しようとしたお金をそのままリフォーム代の返済に充てるなんて考えられる?
『孫ちゃんとの生活の為に。』とか意味不明。そんなにまでしてロクデナシ弟夫婦と同居したかったのか。
あまりの仕打ちにトイレ休憩後は鬼の形相(ここで泣ければ可愛いげがあったのか?)で仕事をしていたら怯えた上司が『体調悪そうだから今日は早退していいよ。』と1年に1度あるか無いかの優しさで早退させてくれた。
いやもしかしたら追い払われたのかもしれない。
その好意に甘えるか、と思ったのが悪かったのか、結果的には良かったのか・・・。
仕事が忙しいと言う恋人とは久しく一緒に過ごせていなかったな、と久しぶりに夕飯作って待っていようかとしおらしい事を考えたのが失敗だった。
彼の住むマンションに合鍵使って中に入れば玄関には見覚えのあるヒールが。うん、コレ散々自慢していた某有名ブランドのオーダーメイド1点モノだね。
リビングで鉢合わせならまだ良かった。けれどそこには見当たらない。嫌だなとは思いつつ寝室の扉を開ければ居たよね、生まれたままの姿の恋人と大学時代の親友が。
すっぽんぽんなのに羞恥心もなく勝ち誇った顔の元親友と何やら言い訳めいた言葉を繰り返す元恋人。
『話せば誤解は解ける!』ととりあえず服を着ようとワタワタしている元恋人に軽蔑の眼差しをむけながらリビングに戻る私。
「元カノからのプレゼントなんて持っていたら今カノが気を悪くするよね?」
やっと服を着てリビングまで追いかけてきた彼にアルカイックスマイルでそう言って、彼のリクエストでプレゼントした時計や財布、靴などをベランダから放り投げてやった。
彼の部屋は5階だったけれどそれらはいい音を立てて川の中にダイブした。
悲鳴なのか怒鳴り声なのかよく分からない声を出す元恋人は、自分が貰う物には10万だとか20万もするような人気ブランドの物を欲しがる人だった。
けれど私の誕生日にはちょっと良いラブホで1日まったり過ごすのが定番、と言うみみっちい男でもあった。
何が『今日一日僕は君のモノ。』だ。思う存分やりたかっただけだろ!
どんだけ自分の価値を過大評価してたんだか。
「横取り女と見栄っ張り男は案外お似合いだね。」
と未だに服を着ていない元親友(痴女か、痴女だったのか!)に一言言って部屋から出て行った。
ヒステリックな金切り声が聞こえた気がするけど知ったこっちゃない。
その後はせんべろ飲み屋で号泣。『お姉ちゃん、お願いだからもう帰って。』と店主に懇願される位泣きながら飲んで、千鳥足で30年モノのアパートの201号室に帰ってきた。
部屋に戻ると見るだけで腹立だしい元恋人の持ち物(それなのにヤツは一銭も払っていない!)の数々が視界に入って、真夜中だけど断捨離という名の大掃除を酔ったテンションで決行する事に。
元々掃除は好きな方だった。それが中学で美化係をした事から趣味=掃除、と言うぐらい暇な時にはどこかしらを掃除していた。
何しろ汚かった場所や物がすっきり綺麗になる達成感、アレは良い!
しかし今は深夜だ。私は常識ある人間である。加えて階下の住人は私が不在の昼間でも『足音が煩い。』だの『掃除機の音をどうにかしろ。』などと、私が帰ってきた時に文句を言ってくる意味不明の老夫婦だ。
深夜に音を立てずに大掃除。コレは燃える。
無敵の酔っ払いの私は最高難度のミッションに燃えて速やかに元カレグッズを袋に纏め、箒とハタキを駆使して部屋中を掃除し仕上げは水に食器洗い洗剤を混ぜ雑巾で床を拭いてから仕上げ磨き。
達成感を感じた時に下からドンっと大きく突き上げるような衝撃と音。
これはミッションクリアならずだったか、と慌てて掃除グッズとゴミを手に持った瞬間、ピカピカになった床が文字通り?光輝いた。但し円を描く感じで。
いや、ちゃんと四角く隅々まで床を拭いたのに、と酔った頭で考えていたら目の前が真っ暗になって、浮遊感というか下に落ちるような感じで意識がすーっと遠のいていった。
「あ、貧血?それとも飲み過ぎた?」
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
158
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる