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ネズミになったご令嬢②

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「あなた、本当に魔女ですのね……」
「まぁ、魔女らしいことなんて火を焚べることしか出来ませんけど」

 女の一人暮らしに必要だからと、おばあちゃんから「これだけは!」と叩き込まれた“それっぽい”魔法だ。本当に指を鳴らして、薪に火を点けることしか出来ないんだけどね。それでさっさと湯を沸かし、綺麗な布巾でネズミを拭いてやれば。なんてことか。薄汚れたネズミは綺麗な黄金色になった。本当にキラキラして綺麗な毛並み。思わず私の櫛で梳かしてやれば、「申し訳ないわ」と言いつつも、気持ちよさそうに机の上でうつ伏せになっている。そして、再びキュルキュルとお腹が鳴っていた。戯れてないで、早くご飯を用意してあげなくちゃ。

 こんなネズミ改めスカーレット様は、どうやら丸一日何もを食べていなかったらしい。

「ゴミを漁るなんてはしたない真似はできませんでしたわっ!」

 と豪語するネズミは髭が白くなるのを厭わず、私がお皿に入れたばかりのミルクを直飲みする。小さくちぎったパンもあげると、「この御恩は必ず返しますわ」とパンを貪った。

 ここまで来た経緯を聞けば、ルーファス殿下の馬に必死にしがみついてきたらしい。連れてきてもらえたはいいが、その扱いは雑だったと。
 そうした冒険譚を話しながらお腹を膨らませたネズミは、私の渡したハンカチで丁寧に口元を拭う。

「まぁ、わたくしの苦労話なんてどうでもいいんですの。それより、あなたにはこうなった責任を取ってもらいたいのです!」
「こうなったって……スカーレット様がそのお姿になったことですか?」

 私の疑問符に、スカーレット様は白光りする鼻を上げた。

「それもそうですが、ルーファス様からの求婚のことです!」


 スカーレット様は語る。
 どうやら、昨日のお茶会とやらで無事に惚れ薬を飲まれることに成功したとのこと。だけどルーファス殿下が飲んだ直後、彼は眠ってしまったのだのか。
 まあ、服用後の眠気はよくあること。だけどすぐに目覚めたルーファス様はまだ人間の姿だったスカーレット様の顔を見て言ったらしい。

『きみのことが好きだ』
『ルーファス様……!』

 だけど、次の瞬間には……煙に巻かれ、ネズミの姿になっていた、と。
 とっさにスカーレット様は言ったという。

『わたくしはスカーレット様の身代わりです。本物のスカーレット様は……はぐれの森で生活をしておりますわ』
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