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3巻
3-3
翌日の朝。
俺たちはセブール殿に、城塞都市の中を案内してもらう事になった。
「よかったら、城壁に上ってみますか?」
「お願いできますか?」
「ええ。では、こちらへ」
セブール殿に導かれ、昨日泊まった城の東側に進む。
そこには広い畑が広がっていて、ウッドゴーレムが畑仕事をしていた。
ストーンゴーレムとアイアンゴーレムだけじゃなく、ウッドゴーレムまでいるのか……
畑は綺麗な四角い形で、間に水路が張り巡らされている。
魔王国に来た難民は農業従事者が多いが、ここを見たらすぐにでも働きたがるだろうな。
その畑を抜け、城壁の外階段を上る。
城壁の上からは、草原地帯の東側が一望できた。
しかしそのせいで、俺は自分の目がおかしくなったのかと疑わなくてはならなかった。
「……セ、セブール殿。向こうに岩山と、その上にそびえる城が見えるのだが?」
「ええ。権威を示すにはああいったものも必要かと思いまして、旦那様を説得して作っていただきました」
この城塞とは別に、あんな城まで作ったっていうのか?
俺の見間違いなのかと思って、思わず周囲の反応を窺う。
すると、部下たちも言葉を失くしていた。
唯一ラギアだけが、苦笑いを浮かべている。
どうやらラギアは、シグムンド殿のありえなさに耐性がついているようだな。
しかしあの城、魔王国の王城よりも大きく見えるぞ。
陛下には、どう報告しよう……バーグ殿下の事といい、頭が痛くなるわ。
五話 顔合わせ
俺――シグムンドは、草原地帯に作った砦に来ている。
孤児たちと、孤児院を任せる人員が到着したって、セブールに伝えられたからだ。
孤児たちの護衛として、リーファのお母さんであるラギアさんが一緒に来ていた。だからリーファは、久しぶりに親子で語らう時間が取れたんじゃないかな?
それから、なぜか王子たちも来ているらしい。
第一王子の、バーグとか言ったかな? その子の姿が見えないので不思議に思っていたら、食事とトイレ、寝る時以外は縄で縛られていたみたいだ。
一体何したんだろうな?
まあ、こっちに迷惑をかけなければ、俺としてはどうでもよかったけど。
そんな騒動がありつつ、魔王国の面々は砦に二日泊まった後に帰っていった。
ちなみに俺はその間、気配を隠匿してコッソリと魔王国の人々の様子を窺っていただけだ。
だって俺、ずっと深淵の森に引き籠ってきたし。必要に迫られなきゃ、魔王国の面々と交流するなんて面倒なんだよ。
そういえば、彼らはセブールに、東の城を見たいと言ってたらしい。
でも、セブールは断ったそうだ。
俺的には、別に見せてもよかったんだけどな。
セブールは、すべてを部外者に見せる必要はないって考えみたいだ。
魔王国の人々が帰ったところで、教会や孤児院のみんなと顔合わせをする事にした。
というわけで、俺、セブール、リーファをはじめとした、深淵の森のメンバーが孤児院に集まっている。
うちに滞在しているエルフの女性、ルノーラさん。その娘のミル、ララの姉妹。それから俺の作った人間の女性そっくりのリビングドール、ブランとノワールも一緒だ。
中でもミルとララは、うずうずしながら孤児たちとの対面を待っている。
二人は孤児たちと会うのを、昨日から楽しみにしていたんだ。今まで姉妹だけで遊んでいて、同年代の子供と接する機会なんてなかったからな。
お互いに簡単に自己紹介し、大人同士の顔合わせはすぐに終わった。
セブールとリーファは、同じ魔王国出身のロダン司祭、アーシアさんと顔見知りだったらしい。
ちなみにこの人選はまったくの偶然で、セブールやリーファの知り合いだから選ばれたってわけじゃないようだ。
挨拶が終わったところで、俺は気になっていた事をアーシアんさんに尋ねてみる。
「それで、子供たちの様子はどうですか?」
「魔王国にいた時よりも、ずっと元気になっていますよ」
今回ここに来た子供たちはみんな難民で、例外なく辛い体験をしているんだ。
心にひどい傷を負った子供をそのままにはできないと思い、俺は色々手を尽くした。美味しい食事、フカフカのベッド、積み木などのオモチャを用意したんだ。
その甲斐あってか、ほとんどの子はここでの生活を楽しんでくれているみたいだな。
子供たちの様子を聞いて安心していたら、アーシアさんが心苦しそうに続ける。
「ただ、寝ている時にうなされている子や、心を閉ざしている子もいます。まだまだ信頼関係を築いている途中ですので、少しずつでも傷を癒していければと思っているのですが……」
「まあ、悪い夢を見てしまうのも当然かもしれないですね」
子供たちの中には、親に捨てられた子や、親を目の前で亡くした子もいるからな。
話は変わるけど、この世界では捨てられる子供のほとんどが人族らしい。
魔族は長寿であるため、急いで子孫を増やさない。だから人口が少なく、国が子供を大事にしている。たとえ貧しくても、子供を捨てる事はほとんどないそうだ。
でも子供の数が多い人族は、貧しくて食べられないとなれば、簡単に子供を捨ててしまうらしい。
ちなみに獣人族は親子の絆が強く、子供を命懸けで育てる。だから獣人族の子も捨てられる事はほとんどなくて、戦争などで死に別れた子が孤児になるパターンが多いようだ。
「子供たちの精神を安定させる魔導具でも用意するか……」
俺がそう呟いたら、ロダン司祭が驚いた顔で聞いてくる。
「そのような魔導具が存在するのですか?」
「闇魔法を使えば、精神を安定させるのは難しくないんです。そんな機能のある魔導具を作ってみます」
「もしやこの孤児院や教会に設置されている魔導具は、シグムンド殿が?」
「ええ、全部俺が作ったものですよ」
「なんと!」
ロダン司祭は驚愕した様子だった。
そんなに驚く事かなと思っていると、セブールが俺に言う。
「旦那様。世間一般で作られる魔導具は、着火の魔導具や灯りの魔導具くらいのものです。それにその数も非常に少ないのですよ。王城や貴族の屋敷には稀に魔導具がありますが、多くはダンジョンで得たものです。それも旦那様の作るものに比べればオモチャのような性能ですから、司祭が驚くのも当然かと」
「ひょっとして、湧き水の魔導具や、浄化の魔導具も珍しいのか?」
「湧き水の魔導具は、過去にダンジョンで見つかった数個しか存在していません。浄化の魔導具に関しては、旦那様が作られたのが初めてでしょう」
「そ、そうなのか……」
今度は俺がびっくりしていたら、横からリーファが口を出してくる。
「ご主人様。コンロ、オーブン、冷蔵庫、冷凍庫、それに冷暖房の魔導具も普通はありませんよ。特に、煮炊きするのに魔導具を使うなんてありえません」
どうやら俺の世間知らず、だいぶひどいみたいだ。
転生だか転移でこの世界に来てして数十年経つけど、その大半はダンジョンと深淵の森に引き籠って生活していたから、まだまだ知らない事がたくさんあるんだよな。
リーファが教えてくれたところによると、この世界では煮炊きするにも暖を取るにも、薪を使っているらしい。
ちなみに魔族、エルフ、ドワーフは、基本的に魔法を使える。
なら魔法を使って部屋を暖めればいいじゃない! って思うんだけど、それは魔力量が多い者でなきゃ不可能なんだそうだ。
「ま、まあでも、俺たちが魔導具を使うのはやめなくてもいいよな? 便利なものがあるのに、使わないなんて損だし」
「そういえば旦那様、イグリス殿が魔導具を売ってほしいそうですよ」
「知り合い相手になら売ってもいいんじゃないか?」
今は俺がダンジョンで得たお金がいっぱいあるけど、いつまでもあるわけじゃないしな。魔導具を売って、収入にしてもいいだろう。
俺たちがそんな事を話していたら、ロダン司祭が痺れを切らしたように聞いてきた。
「それでシグムンド殿、その精神を安定させる魔導具というのは、安全なのですか? 私はそのようなもの、聞いた事がないのですが」
おおっと、話がだいぶ脱線してしまった。
「ああ、安全性には問題ないと思いますよ。魔導具に内蔵させるのは、精神を操ったり支配したりする強力な闇魔法じゃなくて、寝つきをよくする程度の弱い闇魔法なので。ただ、魔導具に依存するのはよくないと思うので、念のため使いすぎないようにしてください」
「なるほど、それを聞いて安心いたしました」
ロダン司祭は、ようやくホッとしたようだった。
この人、本当に子供たちの事を考えているんだな。まだ少ししか話していないが、信頼できそうな人物だと感じた。
そういえばこの世界の魔法って、戦闘目的のものがほとんどなんだよな。
危険な魔物が跋扈しているし、争いも絶えないから、生活を便利にする魔法なんて発展させてる余裕がなかったんだろう。
ただそんな中、怪我を治す光魔法は、戦闘だけじゃなく一般的な医療にも使われている。
なのに精神の病を治療する魔法は少ないみたいなんだよな。
闇魔法で精神を混乱させたり、それを落ち着かせたりする事は可能なのに、なんだか不思議だ。
ふいに、俺のズボンがクイクイと引っ張られた。
「おにいちゃん、この子たちと遊んでもいい?」
「遊んでもいい?」
そう聞いてきたのは、ミルとララだ。可愛く小首を傾げながら、俺を見上げている。
二人とも大人の話を邪魔しないようにって我慢してたみたいだけど、それももう限界らしい。
「ああ、仲良く遊んでおいで」
「「やった!」」
俺が許可した途端、ミルとララは手を繋いで子供たちの方へ駆けていった。
ミルとララ、そして子供たち。お互いにいい影響を与え合える関係になるといいな。
「じゃあ顔合わせも終わったし、俺は魔導具を作ってくるよ。後の事はセブールに任せた」
「承知しました、旦那様。今日のうちに砦にお戻りですか?」
「ああ、そんなに時間を掛けずに作れると思う」
俺はセブールにそう伝え、一人で深淵の森の工房へ転移した。
一種類の魔法が発動するだけの魔導具なら、魔石さえあれば作れる。岩山の城にも工房はあるけど、魔石のストックがなかったからこっちに来たんだ。
よし、サクッと完成させるぞ。
六話 盲目の幼女
というわけで、精神を落ち着かせる魔導具はすぐに完成した。
俺は再び砦の孤児院に転移する。
突然俺が現れ、アーシアさんやメルティーさんはびっくりしていた。
でもここで生活していたら、俺が転移を使うのにすぐ慣れっこになるだろう。
「魔導具、もうできたのですか?」
そう尋ねてきたアーシアさんに、魔導具を渡しつつ使い方を説明した。
どの程度効果があったかは、後で報告してもらおうっと。
ミルとララの様子を見に行くと、孤児院内にある室内遊技場でみんなと遊んでいた。
ちなみに孤児院には、他にも食堂、キッチン、トイレ、お風呂、そしてベッドが置かれた個室がある。屋外には、広い運動場も用意しておいた。
ミルとララは、積み木を使って子供たちと遊んでいる。
ミルはこの中で一番お姉ちゃんなので、みんなの面倒をみてあげてるみたいだな。
子供たちの様子を見回していると、みんな楽しそうにしている中で、一人だけ広い遊技場の隅にポツンと座っている子がいた。
見た感じ、三歳か四歳くらいの女の子だ。
どうしたんだろうと気になって側に近付くと、女の子が尋ねてくる。
「……だれ?」
「こんにちは。俺の名前はシグムンド。君のお名前は?」
俺は床に膝をつき、視線の高さをできるだけ女の子に合わせる。
すると俯いていた女の子が、俺の方に顔を向けた。
その顔を見て、この子が一人でポツンと片隅にいた理由が分かった。
その子の綺麗な目は、光を映していなかったのだ。
「……ポーラはねぇ、ポーラっていうの」
盲目の女の子――ポーラがそう教えてくれた。
「ポーラか。いい名前だね」
「ありがとう、おにいちゃん」
ストリートチルドレンとして過ごしてきたので、ここにいる子たちはどの子も痩せていて、細い体が痛々しかった。
だけどここに来てからお風呂に入ってもらい、清潔な服を着せている。
ポーラも痩せてはいるが、お風呂のおかげで金色の髪の毛が綺麗に輝いていて、顔立ちは将来美人さんになるだろうと想像できた。
しかしこの厳しい世界では、盲目で生きていくのは大変だろう。
「この子は、病気で目が悪いんです。光の明るさはうっすらと分かるようなんですが」
いつの間にか俺の側にやって来たアーシアさんが、そう教えてくれた。
「……なら、大丈夫かな」
俺はある決意をし、ポーラに尋ねる。
「ポーラ。お兄ちゃんにポーラの目を治させてくれるかな?」
「……ポーラのめ、なおるの?」
ポーラは、キョトンとした様子で首を傾げた。
アーシアさんは俺の言葉を聞いて、慌てた様子で耳打ちしてくる。
「シグムンドさん、この子の病気は大司教様でも治せませんよ」
この世界は地球と比べ、はるかに文明が遅れている。中世くらいで時代が止まっているような感じだ。
だけどその代わりに、魔法やスキルといった概念が存在する。
どういった理で魔法が発動しているのかはさっぱり分からないが、そういうものだと受け入れているし、使うのに迷いはない。
俺は深淵の迷宮で進化を重ねるうちに、魔法のスキルレベルが無駄に高くなっていった。今では光属性のスキルレベルがカンストした状態だ。
そんな俺の回復魔法なら、どんな病気や怪我でも治せると思うんだ。
「少しの間、目を閉じてね」
ポーラにそう声を掛け、彼女の目を覆うようにして手をかざす。
回復魔法特有の、優しい光がポーラの目を包んだ。
大抵の病気は、これで治せてしまうんだよな。
日本で生きていた時の知識が役立っているんじゃないかなと、俺は思っている。
この世界では、怪我を治す魔法は結構一般的だ。高位の回復魔法使いなら、体の欠損すら治せてしまうらしい。
だけど病気に関しては、いまいち精度が低いようだ。
俺は自分と他の魔法使いの回復魔法の違いは、イメージ力の差によるところが大きいんじゃないかと考えている。
魔法は、明確なイメージさえあれば結構融通が利く。
他の魔法使いたちが病気の治療を苦手としてるのは、細菌やウイルスに対する知識不足が原因だと思うんだ。
そういったイメージがしっかりしていて、光魔法のスキルレベルが高ければ、俺以外の魔法使いだって病気が治せるんじゃないだろうか。
だけどセブールによると、そう簡単にはいかないらしい。
普通の魔法使いは、詠唱魔法に慣れている。魔法のイメージ云々は関係なしに、正確に詠唱すれば魔法が発動するって感覚だから、無詠唱でイメージに頼る魔法は扱いが難しいみたいなんだ。
話がだいぶ逸れてしまった。
とにかく、俺のイメージがしっかりできているから、ポーラの治療は成功したはずだ。
「ポーラ、ゆっくり目を開けてごらん」
「……うん」
俺が手をどけると、ポーラがおそるおそる頷いた。
回復魔法を知らないらしいポーラは、今自分に何が起きているのか理解できないみたいだ。緊張した様子で、瞼を開いていく。
そして次の瞬間、嬉しそうに声を上げた。
「……お、おにいちゃん。ポーラ見える、見えるよぉ!」
「嘘!? 絶対に治らないと思っていたのに……」
アーシアさんは、口に手を当てて呆然としていた。
俺はポーラの目の前に手を伸ばし、指を立てる。
「ちゃんと見えてるか確認するね。この指は何本?」
「にほん!」
「じゃあ、これは?」
「よんほん!」
「うん、ちゃんと治ったみたいだな」
「おにいちゃん! ありがとう! ポーラのめ、なおったよぉ!」
ポーラが泣きながら俺に抱きつき、顔をすりつけてくる。
俺はしばらく、ポーラの背中をさすってあげた。
「これで他の子たちと一緒に遊べるぞ」
俺がそう言うと、ポーラが顔を上げてニッコリと笑う。
「おともだち? ポーラ、おともだちほしい!」
「よし、ちょっと待ってね」
ポーラは今まで、他の子供たちとコミュニケーションが取れてなかったみたいだ。
他の子供たちもまだ幼いから、盲目のポーラにどう接していいのか分からなかったんだろうな。
「ミル! ララ!」
「「なに!?」」
俺が呼ぶと、すぐにミルとララがこっちに来た。
それだけじゃなく、他の子たちも俺とポーラの周りに集まる。
俺は子供たちみんなに、ポーラの目が治った事を説明していった。
俺の話が終わると、ミルとララが、すぐさまポーラに声を掛ける。
「ポーラっていうの? わたしはミルっていうの」
「わたしはララ! あっちでいっしょに遊ぼう!」
ポーラは緊張からか、しばらく俺の服をギュッと握っていた。だけどそのうち、思い切った様子でミルの差し出した手を取る。
ポーラと手を繋いだミルは、ララと一緒に三人で運動場に走っていった。他の子供たちも、それを追いかけていく。
よし、あとは子供たちに任せておけば大丈夫だろう。
子供たちの後ろ姿を見送っていると、アーシアさんが詰め寄ってくる。
「シ、シグムンドさんっ! なんなんですか、今のはっ!」
「ちょっ、ちょっと、落ち着いてください」
アーシアさんをなだめていたら、ロダン司祭までやって来て騒ぎ始めた。
「シグムンド殿、私を弟子にしてください! そして、あなたの回復魔法を伝授してほしいのです」
ロダン司祭――呼び捨てでいいって言われたけど、流石にそれはどうかと思うからロダンさんと呼ばせてもらおう。
ロダンさんの光魔法のスキルレベルは7。この大陸でも最高峰の一人らしい。
実はロダンさんも、ポーラの目の病気を治せないか試行錯誤していたそうだ。
なんとロダンさんだけでなく、アーシアさんとメルティーさんも光魔法が使えるという。アーシアさんはスキルレベル5、メルティーさんは3との事だ。
ちなみにロダンさんたちもこの世界の常識通り、長々と詠唱してから回復魔法を使っている。
スキルレベルが高めのロダンさんがポーラを治せなかったのは、やっぱりそこに原因があったのかもしれないな。
それにしても三人とも光魔法が使えるなんて、めちゃくちゃ優秀な人材を集めてくれたんだな。
魔王国に感謝だよ。
日本のゲームだと聖職者にお馴染みの光魔法だけど、この世界では司祭やシスターが全員光属性に適性があるわけじゃない。セブールいわく、光属性、闇属性、時空間属性、重力属性に適性がある者は希少なんだそうだ。
ロダンさんはどうして俺に教わりたいのか、一生懸命訴えてくる。
「この大陸の五神教会に所属し、光魔法で人々の治療にあたっている者でも、ほとんどは簡単な怪我の治療くらいしかできないのです。高司祭や大司教という地位を得てふんぞり返っている輩でも、スキルレベルは4程度なのですよ。だから私はシグムンド殿のもとで、光魔法を鍛えたいのです」
「弟子云々はとりあえずおいといて……聖職者のスキルレベルが低いのは、まあ仕方ないでしょうね」
俺は宗教関係者のスキルレベルがどうして低いのか、なんとなく察しがついている。
どんな魔法でも、スキルレベルを上げる一番の近道は使いまくる事だ。だけど宗教関係者は、戦いの矢面に立つ事も、ダンジョンに潜る事もない。それではスキルレベルを熟練の域まで上げるのは難しいだろう。
俺がそう話したら、ロダンさんは大きく頷いた。
ロダンさんがスキルレベルを7まで上げられたのは、若い頃に冒険者として活動していた時期があったおかげらしい。教会の仕事に従事し、地位も上がってきた今では、現場で光魔法を使う機会が減り、スキルレベルが上がらなくなってしまったそうだ。
だから俺の弟子になってスキルレベルを上げたいって事らしいけど、俺はずっとここの砦にいるわけじゃないしなあ。
必死に弟子入りを希望するロダンさんから逃れるために、俺は話題を逸らす事にする。
「それより、一度ここの子供たちの診察をしたいんですが、どうでしょう。ポーラ以外にも、病気にかかっている子がいるかもしれません」
「おお! それはいい考えですね。もちろん私たちもお手伝いします」
「この機会に、光魔法の腕を上げてみせます!」
ロダンさんとアーシアさんは、そう言ってすぐさま賛同してくれた。
本当なら子供たちの健康診断、もっと早めにやっておくべきだったかも。
そういえばセブールが、ここにもっと孤児を連れてきてもいいかと魔王国から打診されたらしい。
これからも子供たちは増えていくだろうし、医療の事も考えておく必要がありそうだな。
俺たちはセブール殿に、城塞都市の中を案内してもらう事になった。
「よかったら、城壁に上ってみますか?」
「お願いできますか?」
「ええ。では、こちらへ」
セブール殿に導かれ、昨日泊まった城の東側に進む。
そこには広い畑が広がっていて、ウッドゴーレムが畑仕事をしていた。
ストーンゴーレムとアイアンゴーレムだけじゃなく、ウッドゴーレムまでいるのか……
畑は綺麗な四角い形で、間に水路が張り巡らされている。
魔王国に来た難民は農業従事者が多いが、ここを見たらすぐにでも働きたがるだろうな。
その畑を抜け、城壁の外階段を上る。
城壁の上からは、草原地帯の東側が一望できた。
しかしそのせいで、俺は自分の目がおかしくなったのかと疑わなくてはならなかった。
「……セ、セブール殿。向こうに岩山と、その上にそびえる城が見えるのだが?」
「ええ。権威を示すにはああいったものも必要かと思いまして、旦那様を説得して作っていただきました」
この城塞とは別に、あんな城まで作ったっていうのか?
俺の見間違いなのかと思って、思わず周囲の反応を窺う。
すると、部下たちも言葉を失くしていた。
唯一ラギアだけが、苦笑いを浮かべている。
どうやらラギアは、シグムンド殿のありえなさに耐性がついているようだな。
しかしあの城、魔王国の王城よりも大きく見えるぞ。
陛下には、どう報告しよう……バーグ殿下の事といい、頭が痛くなるわ。
五話 顔合わせ
俺――シグムンドは、草原地帯に作った砦に来ている。
孤児たちと、孤児院を任せる人員が到着したって、セブールに伝えられたからだ。
孤児たちの護衛として、リーファのお母さんであるラギアさんが一緒に来ていた。だからリーファは、久しぶりに親子で語らう時間が取れたんじゃないかな?
それから、なぜか王子たちも来ているらしい。
第一王子の、バーグとか言ったかな? その子の姿が見えないので不思議に思っていたら、食事とトイレ、寝る時以外は縄で縛られていたみたいだ。
一体何したんだろうな?
まあ、こっちに迷惑をかけなければ、俺としてはどうでもよかったけど。
そんな騒動がありつつ、魔王国の面々は砦に二日泊まった後に帰っていった。
ちなみに俺はその間、気配を隠匿してコッソリと魔王国の人々の様子を窺っていただけだ。
だって俺、ずっと深淵の森に引き籠ってきたし。必要に迫られなきゃ、魔王国の面々と交流するなんて面倒なんだよ。
そういえば、彼らはセブールに、東の城を見たいと言ってたらしい。
でも、セブールは断ったそうだ。
俺的には、別に見せてもよかったんだけどな。
セブールは、すべてを部外者に見せる必要はないって考えみたいだ。
魔王国の人々が帰ったところで、教会や孤児院のみんなと顔合わせをする事にした。
というわけで、俺、セブール、リーファをはじめとした、深淵の森のメンバーが孤児院に集まっている。
うちに滞在しているエルフの女性、ルノーラさん。その娘のミル、ララの姉妹。それから俺の作った人間の女性そっくりのリビングドール、ブランとノワールも一緒だ。
中でもミルとララは、うずうずしながら孤児たちとの対面を待っている。
二人は孤児たちと会うのを、昨日から楽しみにしていたんだ。今まで姉妹だけで遊んでいて、同年代の子供と接する機会なんてなかったからな。
お互いに簡単に自己紹介し、大人同士の顔合わせはすぐに終わった。
セブールとリーファは、同じ魔王国出身のロダン司祭、アーシアさんと顔見知りだったらしい。
ちなみにこの人選はまったくの偶然で、セブールやリーファの知り合いだから選ばれたってわけじゃないようだ。
挨拶が終わったところで、俺は気になっていた事をアーシアんさんに尋ねてみる。
「それで、子供たちの様子はどうですか?」
「魔王国にいた時よりも、ずっと元気になっていますよ」
今回ここに来た子供たちはみんな難民で、例外なく辛い体験をしているんだ。
心にひどい傷を負った子供をそのままにはできないと思い、俺は色々手を尽くした。美味しい食事、フカフカのベッド、積み木などのオモチャを用意したんだ。
その甲斐あってか、ほとんどの子はここでの生活を楽しんでくれているみたいだな。
子供たちの様子を聞いて安心していたら、アーシアさんが心苦しそうに続ける。
「ただ、寝ている時にうなされている子や、心を閉ざしている子もいます。まだまだ信頼関係を築いている途中ですので、少しずつでも傷を癒していければと思っているのですが……」
「まあ、悪い夢を見てしまうのも当然かもしれないですね」
子供たちの中には、親に捨てられた子や、親を目の前で亡くした子もいるからな。
話は変わるけど、この世界では捨てられる子供のほとんどが人族らしい。
魔族は長寿であるため、急いで子孫を増やさない。だから人口が少なく、国が子供を大事にしている。たとえ貧しくても、子供を捨てる事はほとんどないそうだ。
でも子供の数が多い人族は、貧しくて食べられないとなれば、簡単に子供を捨ててしまうらしい。
ちなみに獣人族は親子の絆が強く、子供を命懸けで育てる。だから獣人族の子も捨てられる事はほとんどなくて、戦争などで死に別れた子が孤児になるパターンが多いようだ。
「子供たちの精神を安定させる魔導具でも用意するか……」
俺がそう呟いたら、ロダン司祭が驚いた顔で聞いてくる。
「そのような魔導具が存在するのですか?」
「闇魔法を使えば、精神を安定させるのは難しくないんです。そんな機能のある魔導具を作ってみます」
「もしやこの孤児院や教会に設置されている魔導具は、シグムンド殿が?」
「ええ、全部俺が作ったものですよ」
「なんと!」
ロダン司祭は驚愕した様子だった。
そんなに驚く事かなと思っていると、セブールが俺に言う。
「旦那様。世間一般で作られる魔導具は、着火の魔導具や灯りの魔導具くらいのものです。それにその数も非常に少ないのですよ。王城や貴族の屋敷には稀に魔導具がありますが、多くはダンジョンで得たものです。それも旦那様の作るものに比べればオモチャのような性能ですから、司祭が驚くのも当然かと」
「ひょっとして、湧き水の魔導具や、浄化の魔導具も珍しいのか?」
「湧き水の魔導具は、過去にダンジョンで見つかった数個しか存在していません。浄化の魔導具に関しては、旦那様が作られたのが初めてでしょう」
「そ、そうなのか……」
今度は俺がびっくりしていたら、横からリーファが口を出してくる。
「ご主人様。コンロ、オーブン、冷蔵庫、冷凍庫、それに冷暖房の魔導具も普通はありませんよ。特に、煮炊きするのに魔導具を使うなんてありえません」
どうやら俺の世間知らず、だいぶひどいみたいだ。
転生だか転移でこの世界に来てして数十年経つけど、その大半はダンジョンと深淵の森に引き籠って生活していたから、まだまだ知らない事がたくさんあるんだよな。
リーファが教えてくれたところによると、この世界では煮炊きするにも暖を取るにも、薪を使っているらしい。
ちなみに魔族、エルフ、ドワーフは、基本的に魔法を使える。
なら魔法を使って部屋を暖めればいいじゃない! って思うんだけど、それは魔力量が多い者でなきゃ不可能なんだそうだ。
「ま、まあでも、俺たちが魔導具を使うのはやめなくてもいいよな? 便利なものがあるのに、使わないなんて損だし」
「そういえば旦那様、イグリス殿が魔導具を売ってほしいそうですよ」
「知り合い相手になら売ってもいいんじゃないか?」
今は俺がダンジョンで得たお金がいっぱいあるけど、いつまでもあるわけじゃないしな。魔導具を売って、収入にしてもいいだろう。
俺たちがそんな事を話していたら、ロダン司祭が痺れを切らしたように聞いてきた。
「それでシグムンド殿、その精神を安定させる魔導具というのは、安全なのですか? 私はそのようなもの、聞いた事がないのですが」
おおっと、話がだいぶ脱線してしまった。
「ああ、安全性には問題ないと思いますよ。魔導具に内蔵させるのは、精神を操ったり支配したりする強力な闇魔法じゃなくて、寝つきをよくする程度の弱い闇魔法なので。ただ、魔導具に依存するのはよくないと思うので、念のため使いすぎないようにしてください」
「なるほど、それを聞いて安心いたしました」
ロダン司祭は、ようやくホッとしたようだった。
この人、本当に子供たちの事を考えているんだな。まだ少ししか話していないが、信頼できそうな人物だと感じた。
そういえばこの世界の魔法って、戦闘目的のものがほとんどなんだよな。
危険な魔物が跋扈しているし、争いも絶えないから、生活を便利にする魔法なんて発展させてる余裕がなかったんだろう。
ただそんな中、怪我を治す光魔法は、戦闘だけじゃなく一般的な医療にも使われている。
なのに精神の病を治療する魔法は少ないみたいなんだよな。
闇魔法で精神を混乱させたり、それを落ち着かせたりする事は可能なのに、なんだか不思議だ。
ふいに、俺のズボンがクイクイと引っ張られた。
「おにいちゃん、この子たちと遊んでもいい?」
「遊んでもいい?」
そう聞いてきたのは、ミルとララだ。可愛く小首を傾げながら、俺を見上げている。
二人とも大人の話を邪魔しないようにって我慢してたみたいだけど、それももう限界らしい。
「ああ、仲良く遊んでおいで」
「「やった!」」
俺が許可した途端、ミルとララは手を繋いで子供たちの方へ駆けていった。
ミルとララ、そして子供たち。お互いにいい影響を与え合える関係になるといいな。
「じゃあ顔合わせも終わったし、俺は魔導具を作ってくるよ。後の事はセブールに任せた」
「承知しました、旦那様。今日のうちに砦にお戻りですか?」
「ああ、そんなに時間を掛けずに作れると思う」
俺はセブールにそう伝え、一人で深淵の森の工房へ転移した。
一種類の魔法が発動するだけの魔導具なら、魔石さえあれば作れる。岩山の城にも工房はあるけど、魔石のストックがなかったからこっちに来たんだ。
よし、サクッと完成させるぞ。
六話 盲目の幼女
というわけで、精神を落ち着かせる魔導具はすぐに完成した。
俺は再び砦の孤児院に転移する。
突然俺が現れ、アーシアさんやメルティーさんはびっくりしていた。
でもここで生活していたら、俺が転移を使うのにすぐ慣れっこになるだろう。
「魔導具、もうできたのですか?」
そう尋ねてきたアーシアさんに、魔導具を渡しつつ使い方を説明した。
どの程度効果があったかは、後で報告してもらおうっと。
ミルとララの様子を見に行くと、孤児院内にある室内遊技場でみんなと遊んでいた。
ちなみに孤児院には、他にも食堂、キッチン、トイレ、お風呂、そしてベッドが置かれた個室がある。屋外には、広い運動場も用意しておいた。
ミルとララは、積み木を使って子供たちと遊んでいる。
ミルはこの中で一番お姉ちゃんなので、みんなの面倒をみてあげてるみたいだな。
子供たちの様子を見回していると、みんな楽しそうにしている中で、一人だけ広い遊技場の隅にポツンと座っている子がいた。
見た感じ、三歳か四歳くらいの女の子だ。
どうしたんだろうと気になって側に近付くと、女の子が尋ねてくる。
「……だれ?」
「こんにちは。俺の名前はシグムンド。君のお名前は?」
俺は床に膝をつき、視線の高さをできるだけ女の子に合わせる。
すると俯いていた女の子が、俺の方に顔を向けた。
その顔を見て、この子が一人でポツンと片隅にいた理由が分かった。
その子の綺麗な目は、光を映していなかったのだ。
「……ポーラはねぇ、ポーラっていうの」
盲目の女の子――ポーラがそう教えてくれた。
「ポーラか。いい名前だね」
「ありがとう、おにいちゃん」
ストリートチルドレンとして過ごしてきたので、ここにいる子たちはどの子も痩せていて、細い体が痛々しかった。
だけどここに来てからお風呂に入ってもらい、清潔な服を着せている。
ポーラも痩せてはいるが、お風呂のおかげで金色の髪の毛が綺麗に輝いていて、顔立ちは将来美人さんになるだろうと想像できた。
しかしこの厳しい世界では、盲目で生きていくのは大変だろう。
「この子は、病気で目が悪いんです。光の明るさはうっすらと分かるようなんですが」
いつの間にか俺の側にやって来たアーシアさんが、そう教えてくれた。
「……なら、大丈夫かな」
俺はある決意をし、ポーラに尋ねる。
「ポーラ。お兄ちゃんにポーラの目を治させてくれるかな?」
「……ポーラのめ、なおるの?」
ポーラは、キョトンとした様子で首を傾げた。
アーシアさんは俺の言葉を聞いて、慌てた様子で耳打ちしてくる。
「シグムンドさん、この子の病気は大司教様でも治せませんよ」
この世界は地球と比べ、はるかに文明が遅れている。中世くらいで時代が止まっているような感じだ。
だけどその代わりに、魔法やスキルといった概念が存在する。
どういった理で魔法が発動しているのかはさっぱり分からないが、そういうものだと受け入れているし、使うのに迷いはない。
俺は深淵の迷宮で進化を重ねるうちに、魔法のスキルレベルが無駄に高くなっていった。今では光属性のスキルレベルがカンストした状態だ。
そんな俺の回復魔法なら、どんな病気や怪我でも治せると思うんだ。
「少しの間、目を閉じてね」
ポーラにそう声を掛け、彼女の目を覆うようにして手をかざす。
回復魔法特有の、優しい光がポーラの目を包んだ。
大抵の病気は、これで治せてしまうんだよな。
日本で生きていた時の知識が役立っているんじゃないかなと、俺は思っている。
この世界では、怪我を治す魔法は結構一般的だ。高位の回復魔法使いなら、体の欠損すら治せてしまうらしい。
だけど病気に関しては、いまいち精度が低いようだ。
俺は自分と他の魔法使いの回復魔法の違いは、イメージ力の差によるところが大きいんじゃないかと考えている。
魔法は、明確なイメージさえあれば結構融通が利く。
他の魔法使いたちが病気の治療を苦手としてるのは、細菌やウイルスに対する知識不足が原因だと思うんだ。
そういったイメージがしっかりしていて、光魔法のスキルレベルが高ければ、俺以外の魔法使いだって病気が治せるんじゃないだろうか。
だけどセブールによると、そう簡単にはいかないらしい。
普通の魔法使いは、詠唱魔法に慣れている。魔法のイメージ云々は関係なしに、正確に詠唱すれば魔法が発動するって感覚だから、無詠唱でイメージに頼る魔法は扱いが難しいみたいなんだ。
話がだいぶ逸れてしまった。
とにかく、俺のイメージがしっかりできているから、ポーラの治療は成功したはずだ。
「ポーラ、ゆっくり目を開けてごらん」
「……うん」
俺が手をどけると、ポーラがおそるおそる頷いた。
回復魔法を知らないらしいポーラは、今自分に何が起きているのか理解できないみたいだ。緊張した様子で、瞼を開いていく。
そして次の瞬間、嬉しそうに声を上げた。
「……お、おにいちゃん。ポーラ見える、見えるよぉ!」
「嘘!? 絶対に治らないと思っていたのに……」
アーシアさんは、口に手を当てて呆然としていた。
俺はポーラの目の前に手を伸ばし、指を立てる。
「ちゃんと見えてるか確認するね。この指は何本?」
「にほん!」
「じゃあ、これは?」
「よんほん!」
「うん、ちゃんと治ったみたいだな」
「おにいちゃん! ありがとう! ポーラのめ、なおったよぉ!」
ポーラが泣きながら俺に抱きつき、顔をすりつけてくる。
俺はしばらく、ポーラの背中をさすってあげた。
「これで他の子たちと一緒に遊べるぞ」
俺がそう言うと、ポーラが顔を上げてニッコリと笑う。
「おともだち? ポーラ、おともだちほしい!」
「よし、ちょっと待ってね」
ポーラは今まで、他の子供たちとコミュニケーションが取れてなかったみたいだ。
他の子供たちもまだ幼いから、盲目のポーラにどう接していいのか分からなかったんだろうな。
「ミル! ララ!」
「「なに!?」」
俺が呼ぶと、すぐにミルとララがこっちに来た。
それだけじゃなく、他の子たちも俺とポーラの周りに集まる。
俺は子供たちみんなに、ポーラの目が治った事を説明していった。
俺の話が終わると、ミルとララが、すぐさまポーラに声を掛ける。
「ポーラっていうの? わたしはミルっていうの」
「わたしはララ! あっちでいっしょに遊ぼう!」
ポーラは緊張からか、しばらく俺の服をギュッと握っていた。だけどそのうち、思い切った様子でミルの差し出した手を取る。
ポーラと手を繋いだミルは、ララと一緒に三人で運動場に走っていった。他の子供たちも、それを追いかけていく。
よし、あとは子供たちに任せておけば大丈夫だろう。
子供たちの後ろ姿を見送っていると、アーシアさんが詰め寄ってくる。
「シ、シグムンドさんっ! なんなんですか、今のはっ!」
「ちょっ、ちょっと、落ち着いてください」
アーシアさんをなだめていたら、ロダン司祭までやって来て騒ぎ始めた。
「シグムンド殿、私を弟子にしてください! そして、あなたの回復魔法を伝授してほしいのです」
ロダン司祭――呼び捨てでいいって言われたけど、流石にそれはどうかと思うからロダンさんと呼ばせてもらおう。
ロダンさんの光魔法のスキルレベルは7。この大陸でも最高峰の一人らしい。
実はロダンさんも、ポーラの目の病気を治せないか試行錯誤していたそうだ。
なんとロダンさんだけでなく、アーシアさんとメルティーさんも光魔法が使えるという。アーシアさんはスキルレベル5、メルティーさんは3との事だ。
ちなみにロダンさんたちもこの世界の常識通り、長々と詠唱してから回復魔法を使っている。
スキルレベルが高めのロダンさんがポーラを治せなかったのは、やっぱりそこに原因があったのかもしれないな。
それにしても三人とも光魔法が使えるなんて、めちゃくちゃ優秀な人材を集めてくれたんだな。
魔王国に感謝だよ。
日本のゲームだと聖職者にお馴染みの光魔法だけど、この世界では司祭やシスターが全員光属性に適性があるわけじゃない。セブールいわく、光属性、闇属性、時空間属性、重力属性に適性がある者は希少なんだそうだ。
ロダンさんはどうして俺に教わりたいのか、一生懸命訴えてくる。
「この大陸の五神教会に所属し、光魔法で人々の治療にあたっている者でも、ほとんどは簡単な怪我の治療くらいしかできないのです。高司祭や大司教という地位を得てふんぞり返っている輩でも、スキルレベルは4程度なのですよ。だから私はシグムンド殿のもとで、光魔法を鍛えたいのです」
「弟子云々はとりあえずおいといて……聖職者のスキルレベルが低いのは、まあ仕方ないでしょうね」
俺は宗教関係者のスキルレベルがどうして低いのか、なんとなく察しがついている。
どんな魔法でも、スキルレベルを上げる一番の近道は使いまくる事だ。だけど宗教関係者は、戦いの矢面に立つ事も、ダンジョンに潜る事もない。それではスキルレベルを熟練の域まで上げるのは難しいだろう。
俺がそう話したら、ロダンさんは大きく頷いた。
ロダンさんがスキルレベルを7まで上げられたのは、若い頃に冒険者として活動していた時期があったおかげらしい。教会の仕事に従事し、地位も上がってきた今では、現場で光魔法を使う機会が減り、スキルレベルが上がらなくなってしまったそうだ。
だから俺の弟子になってスキルレベルを上げたいって事らしいけど、俺はずっとここの砦にいるわけじゃないしなあ。
必死に弟子入りを希望するロダンさんから逃れるために、俺は話題を逸らす事にする。
「それより、一度ここの子供たちの診察をしたいんですが、どうでしょう。ポーラ以外にも、病気にかかっている子がいるかもしれません」
「おお! それはいい考えですね。もちろん私たちもお手伝いします」
「この機会に、光魔法の腕を上げてみせます!」
ロダンさんとアーシアさんは、そう言ってすぐさま賛同してくれた。
本当なら子供たちの健康診断、もっと早めにやっておくべきだったかも。
そういえばセブールが、ここにもっと孤児を連れてきてもいいかと魔王国から打診されたらしい。
これからも子供たちは増えていくだろうし、医療の事も考えておく必要がありそうだな。
感想
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