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コーヒーとクッキー(3)

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「そうだ。今から焼き上がったクッキーに絵を描いていくんだけど、愛も久々にやる?」
「アイシングクッキーね。いいよ、手伝ってあげる」
「わぁ、ありがとうー!」

 邪魔にならないようにコーヒーカップを端に寄せ、色とりどりのアイシングの入った絞り袋と、土台となるクッキーを用意する。

「この型は……コスモス?」
「そう! 十一月だからね。色とか模様は愛に任せるわ」
「久しぶりにやるから、上手くできるかなぁ……」

 コスモスの形のクッキーに、色のついたアイシングをのせていく。まずは輪郭を縁取ってから、中を埋めていく。爪楊枝を使って、空白を埋めながら色を足していく。

「楽しいっ」

 愛は学生の頃から、絵を描くのが好きだった。こうして母とアイシングクッキーを作るのが楽しかった記憶は、今でも鮮明に覚えている。色を混ぜたり、重ねたり、模様をつけたり。

 学生時代に美術部に入ろうと思ったきっかけも、当時アイシングクッキー作りに熱中していたからだった気がする。
 こうして積み重ねた美術センスが、ウェブデザイナーとして生きているから、人生はどうなるかわからない。

 コスモスの花弁を描き終えると、次は葉茎だ。濃淡の異なる緑色のアイシングを使い分けて、葉脈を描いてみる。

「わぁ、一気に可愛くなった~! お母さんも今度やり方真似しようっと!」

 母は丸いクッキーに模様を描いて、店名の『YUAI』の文字を描いていた。月ごとに季節の花とセットにして売り出している人気商品だ。
 癖のないハワイアンコーヒーと、甘味が強いアイシングクッキーはよく合う。

 無心になって描き続け、色とりどりのコスモスのアイシングクッキーが完成した。

「愛ありがとう、助かっちゃった!」
「うん。久々にやったら夢中になっちゃった」
「余ったアイシングで好きな絵、描いてもいいわよ。土台のクッキーも余ってるから」
「んー、じゃあ、なんか描いてみようかな」

 丸や四角、星型などのクッキーを見ながらデザインを考える。
 昔よく作っていたのは、クマやウサギなどの可愛い動物や、ハートや星に模様をつけたものだ。今思うと、この頃からカワイイものが好きだった。

 でもクッキーを作っても、あげる人もいないし……。

 ふとデザインが浮かんだ愛は、黒色のアイシングを手に取った。
 初めて描いてみたけれど、なかなかリアリティがあって上手くできたと思う。

「ふふっ」

 満足の完成度に、笑みが溢れた。
 他にも色々とデザインを描いて、アイシングを乾かす。それを小袋に分けて入れ、リボンでラッピングする。

 黙々と楽しそうに作業する愛を、母は温かな目で見つめていた。

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