月は隠れ魔女は微笑む

椿屋琴子

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魔女の腕(かいな)と女神の胸中

春待ちと幸福

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珍しく晴天になったある日、大きなスコップを肩に担いでゾンガが畑と森の中間にある小山へと歩いていた。雪を踏みしめる度にガラスを磨いた時に出るような音も、近頃ではザラザラとした水分を多く含んだような鈍い音に変化しており、その音を聞く度に長い冬が終わりに近づいていると報せてくれていた。

目的の場所にたどり着くと、おもむろにスコップを小山に突き刺し雪を掻き出してゆく。約3ヶ月の間に固く締まり重くなった氷混じりの雪と言えども、ゾンガの腕力にかかれば造作もなく避けられてしまう。邪魔にならぬように脇へ避けていくこと暫し、土の山とその真ん中に石で作られた壁が現れた。近くにスコップを突き刺して一息つくと、今度はその石を取り外してゆけば中から木製の扉が見えてくる。よくよく観察してみると、長い風雪から石が守り通したようで少しの傷みもいられなかった。


(よかった…この分なら中の芋は大丈夫かな…?凍ってはいるだろうけれど…)


今回ゾンガが家から少し離れたこの保管庫へ来たのには理由があった。家から入れる備蓄庫の芋が心細くなったために、補充するべく晴れ間を見計らってやってきたのだった。いくらほぼ地下にある暖かな保管庫とはいえこの土地の寒さではほとんどのものは凍ってしまう。しかし、芋は凍ってしまって食感が変わってしまおうともちゃんと処理をすれば、何年も保存が出来る素晴らしい保存食に変貌を遂げるのだ。ただこの芋の加工は芋が凍る厳冬期にしか作れない。もちろんゾンガは食べたことも作ったこともなかった。厳冬期に食べ物があること自体がなかったためだ。この芋の保存食はシャウラにねだり読み聞かせてもらった本に載っていたのを、ゾンガが記憶に頼って作ろうと思いついたためだ。

幾分小さな入口から中へ入れば外よりはマシとはいえ、それでも吐く息は瞬時に白く凍るその場所。丈夫な布袋に詰め込まれた芋類を袋ごと外へ運び出す。三袋ほど運び出すと、再び扉を石で覆い隠してゆく。まだまだ寒さの厳しい日々が続くために、森の動物に食べられてしまわないようにするためだ。ゾンガが2人で囲えるほどの大きな芋袋を3つも出したのは、多めに出しておき来年の冬にも使えるよう加工してしまおうということの他に、ネネと一緒に出来る暇つぶしになればということもある。


ゾンガが魔女様と心から慕うシャウラは、この厳冬期だと言うのに不思議な術を使えるのか時折甘い生の果実を出してくれていた。保存食しか食べるもののないこの季節、時折とはいえ提供される甘い果実はこの上ないご馳走で、ネネやゾンガ、ジイジの舌をとても楽しませてくれた。

(実際は義娘に会いに来るウィウィヌンや暇つぶしに訪れる精霊の置き土産なのだが。)

最近ではこの雪の中でも成長を止めなかったハーブが小さな森を形成し、まだゾンガが4人ほどしか入れないが森の下に小さなスペースが出来上がっていた。そこは雪がなくほのかに暖かいためネネとゾンガのお気に入りの秘密基地になっていた。大人はもちろん知っているが子供というものは、そういうものを作りたがるからと微笑ましげな表情で知らないふりをしていた。

持ち帰った芋のうち一袋を貯蔵庫へしまうと残りを浴室へ運び込む。浴室を選んだ理由は凍った芋を溶かすためだ。なにやら面白そうな気配を察したのか、ネネが2人分のタオルと着替えを持って合流する。

大きなたらいに芋を入れてぬるま湯を注ぎいれると、ネネが楽しげに棒でかき混ぜてゆく。芋の量が多いため全身を使って、えっちらおっちらと大奮闘してみせる。そうしていくと氷が溶け、土の汚れも取れてくる。何度か繰り返し芋を洗い終わると今度は皮むきだ。ここまで来ると皮むきとはいえ指でつるつると剥けるため、芋の入っていた袋に皮を入れて後で外に出してまた凍らせる。この寒さでは腐りようもないので暖かくなったら肥料にするためだ。


「ジョンガおねえちゃん、このおいもおもしろーい!ふわふわしてるねぇ。」


水分が抜けてスカスカになった芋をふにふにと揉みながらネネが楽しげに笑う。つられてゾンガも頷きながらニコニコと笑みを浮かべる。皮の剥かれた大量の芋がプカプカとたらいの中で浮かんでいる。ネネが笊を抑えてゾンガがたらいの芋を笊へ上げてゆき 、1度たらいを濯ぐと芋を戻し綺麗な布で出来た袋へ入れてゆく。


「い…いく、行くよネネ!」

「はーい!」


袋に入れた芋を今度はゆっくり捻り上げて絞ってゆくと、布に芋の水分がどんどん滲み出ててネネが用意した壺に水分が溜まってゆく。その水分は本来はいらないものだが、しばらく放置すれば壺の底に澱粉が沈殿する。折角の食材なのだからなるべく余さず利用したいからと、ゾンガはあえて壺の中へと絞っていた。


「たっくさんおみずでたよ!」


ネネはせっせと上澄みを柄杓を使い壺から汲み出していた。この澱粉を使ってシャウラが何かを作ってくれると分かっているからだろう。元々お手伝いが大好きなネネは、なおのこと張り切って参加していた。

大好きなゾンガと一緒に何かをするのは好きだったし、ジイジに暖かく見守られるととても安心出来てシャウラはいい匂いがして暖かく抱きしめてくれて、しかも美味しいものを魔法みたいに出してくれる。

たった4人しかいない場所だけれど、コッコちゃんたちもいるので寂しくはなかった。時折記憶の端に兄の面影が浮かぶものの父母の姿は思い浮かばない。悪い両親ではなかったが、ネネにとってはそれだけの存在だったからだ。


「二人とも、一旦休憩にしてご飯にしましょう。今日は魚のスープよ、二人とも好きでしょう?」

「あ、はぁい!いこ!じょんがおねえちゃん!」

「ま、まじょさ、さま、はい、い、いきま、す。」


扉が開きシャウラが顔を覗かせて食事だと伝えると、子供たちの楽しげな顔が嬉しさからの笑顔に変わる。

2人で仲良く手を洗うとゾンガがデンプンだけを入れた壺を抱え上げつつ、空いた片腕でネネを抱き上げる。

そんな2人をシャウラが微笑みながら、ダイニングへ誘う。


「じょんがおねえちゃん、おさかなのすーぷたのしみねぇ!」


ネネが鈴を転がすような声でゾンガに話しかける。それに対してゾンガは満面の笑顔で応えた。

春が近くなったとはいえまだ雪に閉ざされたこの大地で、暖かな生活を送る4人は女神や精霊に見守られながら今幸福に包まれていた。


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