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アンゼリカの見舞い②
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「そ、そう……? ならいいけど……ごめんなさいね、余計なことを言って。アンゼリカさんまでうちのミラージュの二の舞になってしまったらどうしようかと心配になってしまったの」
「ご安心ください、夫人。辛い目に遭うのはわたくしではありません、王太子殿下の方です」
「えっ…………?」
夫人が驚くと、アンゼリカは艶やかに微笑んだ。
ゾッとするほどの麗しい笑みに夫人は目を丸くして固まった。
「殿下はきっと後悔するでしょう。ご自分がミラージュ様に酷い行いをした報いが彼の身に降り注ぐのですから。」
「む、報いって……?」
「それはわたくしを婚約者にしたことです。殿下はこれから先絶対に幸せになることはありませんわ」
どうして、と夫人は尋ねたかったが何故か声にならない。
目の前の、自分の娘よりも年若い少女の気迫に体が固まる。
「大丈夫ですよ、夫人。ミラージュ様を傷つけた王太子殿下は絶対に幸せにはなりません。あのままミラージュ様と婚約を続けていればよかったと、わたくしよりもミラージュ様の方がよかったと、後悔し続けます」
「────っ!!?」
アンゼリカから放たれた言葉は夫人が心の底で最も望んでいたことだった。
夫人は娘を傷つけた憎い王太子が、新たな婚約者を得たことで何の憂いもなく幸せになっていくことが何よりも許せなかったのだ。
そしてそれと同時にアンゼリカの口から王太子と上手くやっていくといった意味の言葉を聞きたくなかった。
娘はそれが叶わず精神を病んでしまったのに、アンゼリカが王太子と上手くいってほしくない。
上手くいった場合、娘がアンゼリカより劣っていたと言われているようで惨めだから。
「アンゼリカさん……」
驚いたことに目の前の少女は最も欲しい言葉をかけてくれた。
夫人が望んでいたのは“娘を傷つけた王太子の不幸”と“娘以外の誰も王太子と上手くいってほしくない”という二つ。
普通の令嬢ならば「精一杯努力して王太子と親交を深めます」のような当たり障りのないことを告げただろう。
それが夫人の心を最も傷つけるなんて気づかずに。
でも、アンゼリカは気づいた。
夫人の鬱屈した想いに。
「そう遠くない未来、殿下は再びミラージュ様に復縁を迫るでしょう。お気を付けくださいませ」
「────っ!?」
これも夫人が願っていたことだ。
あの思いあがった王太子が惨めったらしく娘に復縁を迫ってきたところを無慈悲なまでに踏みにじってやりたい。
そうでなければとてもじゃないが気持ちが治まらない、と。
彼女の発言が真実になる保証はどこにもない。
それでも、不思議とそうなるという確信がある。
あの器の小さい王太子が、この傑物のような令嬢を御せるとは思えない。
「それではわたくしはそろそろお暇しますね。また近いうちに伺わせて頂きます。今度はミラージュ様がお好きでしたプティングをお持ちしますね」
変わらず可憐な笑みを見せるアンゼリカに夫人は戸惑いながら「え、ええ……ありがとう」と頷いた。
今まで夫人がアンゼリカに抱いていた印象は“年の割に賢く大人びた令嬢”だったが、それは全くの間違いだと気づく。大人びて賢いなんて上から目線で語っていい相手ではなかった。
人の上に君臨するに相応しい人物、などという言葉でも足りない。
生まれながらにして人の上に立つことが定められていた、と形容した方が彼女には相応しい。
夫人はアンゼリカから感じ取った王者の風格に気圧され、ただ茫然と彼女が去っていく姿を見つめるしか出来なかった。
「ご安心ください、夫人。辛い目に遭うのはわたくしではありません、王太子殿下の方です」
「えっ…………?」
夫人が驚くと、アンゼリカは艶やかに微笑んだ。
ゾッとするほどの麗しい笑みに夫人は目を丸くして固まった。
「殿下はきっと後悔するでしょう。ご自分がミラージュ様に酷い行いをした報いが彼の身に降り注ぐのですから。」
「む、報いって……?」
「それはわたくしを婚約者にしたことです。殿下はこれから先絶対に幸せになることはありませんわ」
どうして、と夫人は尋ねたかったが何故か声にならない。
目の前の、自分の娘よりも年若い少女の気迫に体が固まる。
「大丈夫ですよ、夫人。ミラージュ様を傷つけた王太子殿下は絶対に幸せにはなりません。あのままミラージュ様と婚約を続けていればよかったと、わたくしよりもミラージュ様の方がよかったと、後悔し続けます」
「────っ!!?」
アンゼリカから放たれた言葉は夫人が心の底で最も望んでいたことだった。
夫人は娘を傷つけた憎い王太子が、新たな婚約者を得たことで何の憂いもなく幸せになっていくことが何よりも許せなかったのだ。
そしてそれと同時にアンゼリカの口から王太子と上手くやっていくといった意味の言葉を聞きたくなかった。
娘はそれが叶わず精神を病んでしまったのに、アンゼリカが王太子と上手くいってほしくない。
上手くいった場合、娘がアンゼリカより劣っていたと言われているようで惨めだから。
「アンゼリカさん……」
驚いたことに目の前の少女は最も欲しい言葉をかけてくれた。
夫人が望んでいたのは“娘を傷つけた王太子の不幸”と“娘以外の誰も王太子と上手くいってほしくない”という二つ。
普通の令嬢ならば「精一杯努力して王太子と親交を深めます」のような当たり障りのないことを告げただろう。
それが夫人の心を最も傷つけるなんて気づかずに。
でも、アンゼリカは気づいた。
夫人の鬱屈した想いに。
「そう遠くない未来、殿下は再びミラージュ様に復縁を迫るでしょう。お気を付けくださいませ」
「────っ!?」
これも夫人が願っていたことだ。
あの思いあがった王太子が惨めったらしく娘に復縁を迫ってきたところを無慈悲なまでに踏みにじってやりたい。
そうでなければとてもじゃないが気持ちが治まらない、と。
彼女の発言が真実になる保証はどこにもない。
それでも、不思議とそうなるという確信がある。
あの器の小さい王太子が、この傑物のような令嬢を御せるとは思えない。
「それではわたくしはそろそろお暇しますね。また近いうちに伺わせて頂きます。今度はミラージュ様がお好きでしたプティングをお持ちしますね」
変わらず可憐な笑みを見せるアンゼリカに夫人は戸惑いながら「え、ええ……ありがとう」と頷いた。
今まで夫人がアンゼリカに抱いていた印象は“年の割に賢く大人びた令嬢”だったが、それは全くの間違いだと気づく。大人びて賢いなんて上から目線で語っていい相手ではなかった。
人の上に君臨するに相応しい人物、などという言葉でも足りない。
生まれながらにして人の上に立つことが定められていた、と形容した方が彼女には相応しい。
夫人はアンゼリカから感じ取った王者の風格に気圧され、ただ茫然と彼女が去っていく姿を見つめるしか出来なかった。
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