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後悔する二人①
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「……なんで、なんで俺達はそんなことを……」
「分かっているだろう? ルルナのことが好きだったからだよ。馬鹿みたいだよね……殿下の恋人を好きだなんて。どうあっても恋仲になれないっていうのに……」
恋仲になれない、という言葉はケビンの心に重くのしかかった。
分かってはいたことだ。主君の恋人と男女の仲になるなど裏切り行為だし、それを望むだけでも罪深い。
二人の仲を支えたいとは思った。主君とルルナが幸せならそれでいいと。
なら、どうしてこんなに胸が痛むのか。ファニイを侮辱してまでルルナを追いかけ続けたのは、本心ではそういう仲になりたかったからだと気づく。
「今は後悔している。ルルナに会わなければよかったと……。そうすれば僕等は今頃未来の王の側近という華々しい職に就いたままでいられた。貴族という身分のままでいられた。パメラとも結婚できたし、殿下だってあんな恐ろしいグリフォン公爵令嬢ではなく、穏やかなサラマンドラ嬢を妻に出来たんだ」
「お前っ……! ルルナが悪いみたいに言うな! ルルナは何も悪くない!」
「そうかな……。だって、僕達はルルナに会ってから感覚がおかしくなったじゃないか……」
「は? 感覚がおかしくなった?」
「うん……。だってそれまではちゃんとサラマンドラ嬢に身分相応の振る舞いをしていたのに、ルルナに会ってから皆おかしくなったじゃないか? 僕も君も格下の身分として敬意を持った態度をしていたはずだよ。間違っても格上の公爵令嬢に詰め寄ったり、嫌味を言ったりなんてしなかった」
そう言われてケビンはルルナに会う前の自分の言動を思い出した。
思い返せば昔はミラージュにきちんと敬意を示した態度をとっていたし、間違っても分不相応に暴言など吐いたりしていない。
「確かにそうだったな……。それに、ファニイのことも大切にしていた……」
幼い頃からずっと一緒にいた幼馴染。恋情は無かったが、家族のように大切にしていたはずなのに……ルルナに傾倒するようになってからは鬱陶しい存在になってしまった。
「ファニイは……俺がルルナを優先することが気に食わなかったから……。あんなに健気で可愛いルルナを悪く言うし……。だから俺はファニイの存在を鬱陶しく思ったんだ」
「うん……僕もだよ。ルルナに惹かれてからはずっとパメラを蔑ろにしていた。それに、殿下や君がサラマンドラ嬢に酷い言葉を投げつけてもただ見ているだけだった。側近としても、友人としても止めなければならなかったのに、僕は……」
二人の間にしばし沈黙が流れる。
しばらく経った後、アインスがポツリと呟いた。
「自由奔放で人の目など気にしないルルナを見ていると、羨ましくて自分もそうなりたいと思った。貴族なんて身分と礼儀作法に縛られて自由なんてありやしない窮屈なものだ。君もそうなんじゃないか? 多分殿下だってそうだと思う」
「ああ……そうだ。俺は礼儀や作法なんて面倒くさいものは全て捨ててしまいたかった。好きな剣だけを振るっていたかった」
「僕もそうだよ。貴族でいることに窮屈さを感じていたし、逃げ出したいと思っていた。でも、実際にそうなってみると全然嬉しくない。貴族でなくなることが、これから平民として生きなきゃならないことに絶望しかない。僕は……貴族のままでいたかった。殿下の側近のままでもいたかった……」
見ればアインスの目にはうっすらと涙が滲んでいる。
貴族の身分も、婚約者も、そして輝かしい未来さえも失ってしまった現実が辛いのだろう。そしてそれは自分も同じだと気づき、ケビンはひどく絶望した。
「馬鹿だよな……。貴族の礼儀作法や責務を放棄すれば、貴族でいられなくなる。そんな子供でも分かる当たり前のことを理解していなかった。ルルナが……貴族の責務を全く果たしていなくとも、王太子殿下に愛され貴族令嬢の身分のままでいられるから、自分だってそれが許されるものだと……都合のいい解釈をしてしまった。そんなわけがないのにな……」
自嘲気味に話すアインスにケビンは何も言えなかった。
自分だってそうだから。何にも縛られない自由なルルナを見ていると、自分もそうなりたいと憧れを抱いていた。
そしてルルナのように自由に振る舞ってしまった結果がこれだ。
全てを失った今、残っているのは後悔の気持ちだけ。
「分かっているだろう? ルルナのことが好きだったからだよ。馬鹿みたいだよね……殿下の恋人を好きだなんて。どうあっても恋仲になれないっていうのに……」
恋仲になれない、という言葉はケビンの心に重くのしかかった。
分かってはいたことだ。主君の恋人と男女の仲になるなど裏切り行為だし、それを望むだけでも罪深い。
二人の仲を支えたいとは思った。主君とルルナが幸せならそれでいいと。
なら、どうしてこんなに胸が痛むのか。ファニイを侮辱してまでルルナを追いかけ続けたのは、本心ではそういう仲になりたかったからだと気づく。
「今は後悔している。ルルナに会わなければよかったと……。そうすれば僕等は今頃未来の王の側近という華々しい職に就いたままでいられた。貴族という身分のままでいられた。パメラとも結婚できたし、殿下だってあんな恐ろしいグリフォン公爵令嬢ではなく、穏やかなサラマンドラ嬢を妻に出来たんだ」
「お前っ……! ルルナが悪いみたいに言うな! ルルナは何も悪くない!」
「そうかな……。だって、僕達はルルナに会ってから感覚がおかしくなったじゃないか……」
「は? 感覚がおかしくなった?」
「うん……。だってそれまではちゃんとサラマンドラ嬢に身分相応の振る舞いをしていたのに、ルルナに会ってから皆おかしくなったじゃないか? 僕も君も格下の身分として敬意を持った態度をしていたはずだよ。間違っても格上の公爵令嬢に詰め寄ったり、嫌味を言ったりなんてしなかった」
そう言われてケビンはルルナに会う前の自分の言動を思い出した。
思い返せば昔はミラージュにきちんと敬意を示した態度をとっていたし、間違っても分不相応に暴言など吐いたりしていない。
「確かにそうだったな……。それに、ファニイのことも大切にしていた……」
幼い頃からずっと一緒にいた幼馴染。恋情は無かったが、家族のように大切にしていたはずなのに……ルルナに傾倒するようになってからは鬱陶しい存在になってしまった。
「ファニイは……俺がルルナを優先することが気に食わなかったから……。あんなに健気で可愛いルルナを悪く言うし……。だから俺はファニイの存在を鬱陶しく思ったんだ」
「うん……僕もだよ。ルルナに惹かれてからはずっとパメラを蔑ろにしていた。それに、殿下や君がサラマンドラ嬢に酷い言葉を投げつけてもただ見ているだけだった。側近としても、友人としても止めなければならなかったのに、僕は……」
二人の間にしばし沈黙が流れる。
しばらく経った後、アインスがポツリと呟いた。
「自由奔放で人の目など気にしないルルナを見ていると、羨ましくて自分もそうなりたいと思った。貴族なんて身分と礼儀作法に縛られて自由なんてありやしない窮屈なものだ。君もそうなんじゃないか? 多分殿下だってそうだと思う」
「ああ……そうだ。俺は礼儀や作法なんて面倒くさいものは全て捨ててしまいたかった。好きな剣だけを振るっていたかった」
「僕もそうだよ。貴族でいることに窮屈さを感じていたし、逃げ出したいと思っていた。でも、実際にそうなってみると全然嬉しくない。貴族でなくなることが、これから平民として生きなきゃならないことに絶望しかない。僕は……貴族のままでいたかった。殿下の側近のままでもいたかった……」
見ればアインスの目にはうっすらと涙が滲んでいる。
貴族の身分も、婚約者も、そして輝かしい未来さえも失ってしまった現実が辛いのだろう。そしてそれは自分も同じだと気づき、ケビンはひどく絶望した。
「馬鹿だよな……。貴族の礼儀作法や責務を放棄すれば、貴族でいられなくなる。そんな子供でも分かる当たり前のことを理解していなかった。ルルナが……貴族の責務を全く果たしていなくとも、王太子殿下に愛され貴族令嬢の身分のままでいられるから、自分だってそれが許されるものだと……都合のいい解釈をしてしまった。そんなわけがないのにな……」
自嘲気味に話すアインスにケビンは何も言えなかった。
自分だってそうだから。何にも縛られない自由なルルナを見ていると、自分もそうなりたいと憧れを抱いていた。
そしてルルナのように自由に振る舞ってしまった結果がこれだ。
全てを失った今、残っているのは後悔の気持ちだけ。
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