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最終章 公爵夫妻の宝物

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※エミーリア視点
 
 
 騎士達に連れて行かれる二人を見送って直ぐ、私は離れた所で待ってくれていたリリー達の元へ駆け寄った。
 
 「リリー、フリッツ、カール、怪我はない?私のせいで怖い思いをさせて本当にごめんなさい。」
 
 三人に精一杯謝罪の気持ちを込めて、深く腰を折って謝る。
 
 「奥様が謝ることではないと思いますよ。貴方のほうが大変だったじゃないですか。薄々察してはいましたが、なるほど強烈なお母上でしたね。」
 「おれ、親がいなくてよかったと今日思った。あんなのだったら嫌だよ。奥様、これで二度と会わずに済むんだろ?よかったね。」
 「奥様。私なんかを庇って下さってありがとうございました。」
 「なんか、じゃないわよ。リリーは今二人分の命なんでしょ?貴方はとても大事な人なのよ。」
 「え、そうなんだ?!おめでとう、リリー。しかし、早いね!結婚して何ヶ月?」
 
 いち早く察したカールが祝いを述べ、全くわからないフリッツはぽかんとしている。
 
 「奥様、カールさん、ありがとうございます。奥様、父が言っちゃってすみませんでした。はっきりしてからお伝えしようと思っていたんですけど、なんと双子らしくて、もうびっくりです。」
 
 リリーは少し照れながら礼を述べ、ついでに爆弾級の報告をした。
 
 双子?!それって二人分のじゃなくて三人分の命ってことよね?!
 
 「まあ、おめでとう!では私はリリーを安全無事にお家に帰らせないとね。え、歩いてきたの?!ダメよ、帰りはうちの馬車で送るわ!」
 「いやいや、奥様。世間の妊婦さんは歩いてますよ。大体の人は普通に生活してますから、そこまでびびらなくても大丈夫です。」
 「でも、だって、カール!双子なのよ?!」
 「えっリリーさん、赤ちゃん出来たの?奥様はまだなのに?結婚した順じゃないんだ?」
 「あっ、こら、フリッツ!奥様、こいつの言うことなんて気にしちゃだめですよ。」
 
 この二人、人の気にしていることをグサグサと!でもあの人と違って全く心を抉られないのは人柄かしらね?
 それでもちょっとは落ち込みつつ、私は精一杯強がった。
 
 「大丈夫!気にしてなんかないわよ。こればっかりはどうしようもないもの。わっ?!」
 「やあ、三人共無事で何より。こう見えて妻は酷く疲れているだろうから、もう帰らせてもらうね。」
 
 その途端、リーンの声がしてふわりと身体が浮いた。
 彼は私を抱き上げ、そのままくるりと身体の向きを変えて、なんと本当に帰ろうとした。
 私は急いで彼を止めると、彼の肩越しにリリーと話す。
 
 「リーン、ちょっと待って。リリー、用事は何だったの?」
 「あ、ええっとそうです!お医者様にあの栄養補助剤を飲んでるのいいね、って言われたのでその話も販促に使っていいかとお聞きしたくって。」
 「是非、お願いするわ!」
 「了解です!」
 「話、終わった?帰るよ、エミィ。」
 「いえ、もう少し!」
 
 さっきからひたすら帰りたがっている彼を抑えて、私は首を巡らすとミアとデニス達を見つけ手招いた。
 
 「ミアはフリッツと一緒に、乗ってきた馬車でリリーを家まで送ってあげて。デニスとスヴェンはその護衛をお願い。カールはここから遠くないし一人で歩いて帰れるわよね。」
 
 私はリーンに抱きあげられたまま指示を出す。
 ミア達やカールは頷いて了承してくれたけど、リリーは顔を真っ青にして首を振った。
 
 「そんな、公爵家の馬車に乗せていただくだなんて!私一人で歩いて帰れますから!」
 「ダメよ、リリー。もうすぐ日も暮れるし、貴方を一人で帰したりしたら、無事帰れたか私が心配で落ち着かないわ。私のためだと思ってお願い!」
 「でも、馬車を私が使わせていただいたら、奥様はどうやって帰るんですか?」
 
 リリーのその台詞に、今まで黙って背を向けていたリーンがくるりと向き直って答えた。
 それに合わせて私も顔の向きを直す。
 
 「リリー、彼女は僕が馬に乗せて帰るから、そこは気にしなくていいよ。だから、エミーリアの希望に従ってあげてくれる?彼女が落ち着かないと僕も困るんだ。」
 
 公爵家の当主からそう言われてしまえば、リリーももう否やは言えない。ミア達に促されて馬車の方へ歩いて行った。
 
 それを見送りカールとも別れて、私はリーンと馬に乗って屋敷に帰った。
 
 ■■
 
 屋敷に着いても何故か床に足をつけることなく、居間のソファに連れてこられた私は現在、リーンの膝の上に座っている。
 
 「あ、着替えてないから汗臭いかも。ごめんね。」
 「いえ、それは特に気にならないから大丈夫なのだけど・・・落ち着かないから隣に移動してもいいかしら?」
 
 理由はわからないけれど、さっきからずっと彼と密着しているわけで。
 
 「ダメ。僕はこれから君をめちゃくちゃ甘やかすから。」
 「え、なんで?!いつも甘やかされてるのに、これ以上はちょっとどうかと!」
 
 予想外の彼の宣言に慌てて逃げ出そうとすれば、すかさず力を込めて抱きしめられた。
 
 「・・・君が、自分を大事にしないから、僕が代わりに君を大事にして優しくして甘やかすんだ。」
 「私は自分を大事にしてるつもりだけど?」
 「してないでしょ!してたら、あんな風に軽々しく剣の前に飛び出さないよ。それに、リリーが妊娠したから自分より大事にしなきゃって思ってたでしょ?!」
 「うう、飛び出したことは謝るわ。でも、リリーはお腹に二人も赤ちゃんがいるんだから、大事にしなきゃいけないでしょ?」
 
 リーンがため息をついて、軽く頬にキスをしてきた。
 突然、なんなの?!
 頬を押さえて赤くなれば、優しい笑顔で見つめられ、もう目も合わせられない。
 
 「あのね、エミィ。まだわからないだけで、君のお腹にだって赤ちゃんがいないとは限らないでしょ?」
 
 その考えはなかった!
 
 私は動揺して自分のお腹に手を当てた。その様子を見た彼は私の頭を撫でながら続ける。
 
 「それを考えたら、君はいつも自分を大事にするべきだし、たとえそうじゃなくても君は僕の大切な奥さんなんだから、リリーの方が大事にされるべき、とかではなく、どっちも大事にされるべき人なんだって思って欲しいな。」

 穏やかに諭すような声で言われた内容はとても納得できるもので、私は反省を込めて頷いた。
 
 「リーンの言う通りだわ。これからは気をつけるようにするわね。」
 「そうしてもらえると僕の寿命が縮まなくて済むよ。」
 「貴方には長生きしてもらいたいから頑張るわ。」
 「うん、よろしくね。」
 
 爽やかな笑顔を浮かべたリーンが私を胸に抱き寄せる。
 さらに密着して私は焦った。
 
 「リーン、私も汗をかいてると思う!だから、着替えて来ようかな、と。」
 「んー。大丈夫、全然気にならない。君はいつでもいい匂いだよ。」
 
 うわ、なんてこと言ってるの、この人は!
 
 怯んでいると、そのまま頭を彼の肩につけられるように抱きこまれた。
 
 この体勢はくっつき過ぎて、全身が沸騰するんですけど?!
 『妻は酷く疲れてる』とか言ってたけど、貴方、私をさらに疲れさせてるわよ!
 
 「エミィ、二度と会いたくないと言っていたのに、前ノルトライン侯爵夫人と対峙させることになってごめんね。完全に僕の失態だ。僕に文句でも罵倒でも何でも言って欲しい。」
 
 彼のその沈痛な声の響きに、全身の熱が一気に冷えた。
 
 確かに突然現れたあの人は怖かったけれど、リーンは王太子補佐の仕事を放り出してまで駆け付けて来てくれた。
 おかげで私はあの人に言いたいことが言えて、自分の口からもう会わないと言うことができた。
 だから私が彼に言うべきことは文句などでは決してない。
 
 「分かったわ。じゃあ、私が言いたいことをいうわよ。」
 「どうぞ、何でも。言うだけでは気が済まなかったら思いっきり叩いてもいいから。」
 
 リーンは殊勝に目を閉じてそんなことまで言う。
 でも、多分貴方を叩いたら私の手の方が痛いわよ?
 
 私は彼の首に両腕を巻き付けて、耳元に唇を寄せてささやいた。

 「リーン、一緒にいてくれてありがとう!」
 
 そう感謝の意を述べれば、彼は驚いて目を開けた。
 
 「私があの人に言い返せたのは、貴方と結婚して愛してもらって強くなったからなの。だから、貴方へ伝えたいのはお礼の言葉よ!」
 
 私は今までの感謝とこれからもよろしくの気持ちを込めて、彼の薄青の瞳を見つめながら頬にキスを贈った。




■■■■
ここまで読んでいただきありがとうございます。

お話としてはここで終わりでも良かったのですが・・・書きたかったので蛇足で続きます!
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