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後日談1 噂話と謎の魔導具
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「首を持ってきた、って……一歩間違ったらルイは隊長に殺されてたってことなのか……」
「知らないあいだにそんなことがあったなんて……」
「隊長、リーゲンスじゃ凶悪犯として指名手配されてるんじゃねえの?」
「だよな……なのに今度は突然ルイと結婚するなんて言っても、リーゲンスの人たち受け入れないだろ」
「あ、そこは大丈夫。ちゃんと姉上には手紙で伝えたから」
ルイが言った。
「元はといえば、先に手を出したのはリーゲンスのほうだからな……。ライオルは俺を助けてくれたんだって、ここに来てからもよくしてもらって楽しく暮らしてるって伝えたんだ。そうしたら姉上からおめでとうって返信来たよ。早く会いたいってさ!」
「おお……結婚認めてくれたんだ」
「ああ。姉上はいつも俺のことを思ってくれる優しい人だからね。いやなことがあったらすぐに教えなさい、剣を磨いておくからって書いてあった。姉上もお茶目だよな。あはは」
「いや本気だろそれ……」
「ルイのお姉さんって現女王だろ? どんな人なんだ? お前と似てんの?」
「全然似てないよ。俺が言うのもなんだけど、すごい美人だよ。金髪で、剣が上手でとても活発で……」
「金髪美女の女王様……だと……?」
隊員たちの一部がざわついた。
「そう。だからイオンは国中の女の子のあこがれの的だったんだ」
「国中の女の子をはべらせてたのか!?」
「いや、別にはべらせてたわけじゃ――」
「なんという眼福すぎるハーレム……夢の国じゃねえか……」
「俺もリーゲンスに行きたい……美人で強い女王様にお仕えしてえ……」
「俺も。座るときの踏み台にしてほしい」
「おいこら、ヒューベル王への忠誠心はどうした」
ルイたちが朝礼そっちのけで話に花を咲かせているところに、用事を済ませたライオルがやってきた。気づいた隊員たちは一斉にライオルのほうを向いた。
「隊長! 婚約おめでとうございます!」
「おめでとうございます!」
「ああ、ありがとう」
ライオルは片手を上げて礼を言った。そして、仲間に囲まれてにこにこしているルイを見て顔をほころばせた。
「ルイ、受け入れてもらえてよかったな」
「ああ!」
ずっと隠していた本来の身分を明かしても、ファスマーたちの態度はなにも変わらなかった。リーゲンスの王族だからと嫌悪感を示されることも予想していたルイは、それがこの上なく嬉しかった。
「新しい任務だ」
ライオルが言った。第九部隊一同はたちまち静かになり、ライオルの言葉に耳を傾けた。
「カヴァーノ商会の荷物に不審な魔導具が混じっているとの通報があった。未認可の魔導具の可能性が高い。すぐに現場に向かい、魔導具を回収する。コルクス班、行けるか?」
「行けます」
コルクス班長はよく通る声で返事をした。
「よし、じゃあ状況を説明するからコルクス班は集合しろ。カドレック班は執務室で魔導具の解析の準備を進めておけ」
「はい、隊長」
カドレックは返事をすると、ルイやほかの班員たちを呼び集めた。ルイはカドレックについて執務室に向かった。
日常が戻ってきたことに、ルイは一人しみじみとしていた。ライオルや仲間たちに囲まれて、これからもこうして暮らしていくのだ。
◆
カドレック班は執務室で回収した魔導具を調査するための準備を進めた。作業する場所を確保するため、ルイはファスマーと一緒に仕事用の机をすべて壁際に移動させた。分厚い木でできた机はかなり重く、ルイは腕がぷるぷるして何度か危うく足の上に机を落としかけた。
「ルイ、お前、このままでいいのか?」
重い机を二人がかりで運びながら、辛そうな顔のファスマーが言った。
「お前は王太子の婚約者で、リーゲンスの元王様なんだろ? 結構大事な立場にいると思うんだけど……」
「そうかもな……もうちょっとそっちに寄せてくれ、隙間があいてる」
「はいよ……なのに、こんなところで机なんか運んでていいのか?」
「仕事なんだからしょうがないだろ」
「しょうがないで済ますなって。お前の権力で俺たちに楽をさせてくれよ」
「俺にそんな権限ないって」
「なんでだよお……」
ファスマーはぜいぜいと荒い息をはきながら嘆いた。
「そこ、休むな!」
机を置いて一休みしていると、たちまちカドレックに見つかってしまった。
「もうすぐコルクス班が戻ってくるぞ! 喋るのはあとにしろ!」
「ちぇっ」
ファスマーは眉間にしわを寄せた。
「班長、ちょっとルイに遠慮なさすぎじゃないですか!? 怪我でもさせたら一大事ですよ!」
「過去の王だろうが未来の王妃だろうが、今は俺の部下だ。俺の言うことはきっちり聞いてもらう」
真面目なカドレックはこともなげに言った。
「あはは……」
ルイは乾いた笑いをもらした。
「ファスマー、悪いけどそういうことだ。あそこの机を運んだら終わりだから、もう少しがんばろう」
「うう……世知辛い……」
ルイは低い声でぶつぶつ文句を言い続けるファスマーをはげまして最後の机を運んだ。執務室の中央は空っぽになり、ほかの班員たちは壁際の棚から様々な器材を取り出して解析の準備を進めた。
しばらくしてコルクス班が戻ってきた。魔導封じの紋章が描かれた大きな木箱を、四人がかりで慎重に運んでいる。木箱は執務室の真ん中に置かれた。
「よし、開けろ」
コルクスの指示で木箱の蓋が開けられ、回収してきた魔導具が姿を現した。中に収められていたのは、銅板で装飾されたきれいな箱だった。丸みを帯びた蓋には鍵がかかっておらず、ぱかりと簡単に開いた。
「……なんだこりゃ?」
一人の隊員が首をかしげて言った。中には曲がりくねったパイプやガラス瓶がぎっしり詰まっていた。いくつかある瓶の中には、薄紫色の煙とも液体ともつかないものが流れている。
「中の液体はなんだ……?」
「怪しいな。毒だったらまずいぞ」
さっそく探知の術が得意な隊員が有毒かどうかを調べた。魔導具のすみずみまでを検査し、彼はうーんとうなった。
「毒ではないと思います。なにかの魔力がこめられてるけど、敵意は感じない。でも安全な物質とは言いがたい……」
「どういうことだ?」
コルクスがたずねた。
「なんというか……表現しにくいんですが、妙な違和感を感じるんです。親和性があるような、でも近づいてはいけないような……美人局みたいな危険な香りがします」
「なんだそりゃ」
「一見魅力的だけど実はとげがある、みたいな?」
要領を得ない答えにコルクスは首をひねった。さらに解析が必要になり、コルクス班とカドレック班は協力して魔導具の中身を取り出していった。
ルイも興味を引かれて箱の中身を触った。一つのパイプは簡単に取り外すことができた。ルイはひんやり冷たい銅製のパイプを観察した。
「これはなにに使うんだろ? ……ああ、そっちのガラス瓶とつながってるのか」
ルイは箱の中にある透明の丸い瓶を指さした。瓶の中には薄紫の謎の物質がたまっていて、瓶の口から細い管を通ってパイプにつながっている。一人の隊員がその瓶に手を伸ばした。
「おい、気をつけろ!」
カドレックが警告した。隊員が瓶に触れると、瓶はぐにゃりと曲がって内側にへこんだ。押された勢いで、中に入っていた薄紫の物体が管を通ってルイの持っているパイプの先から吹き出した。
「うわっ」
吹き出したものはパイプをのぞきこんでいたルイの顔にかかった。ルイはとっさにパイプを投げ捨てた。
「ルイ!」
隊員たちはびっくりしてルイを取り囲んだ。ルイの顔についた薄紫色の液体はすぐに空中に溶けて消えていった。
「へっくしょ」
ルイは鼻がむずむずしてくしゃみをした。一人の隊員は慌ててハンカチを取り出してルイの顔をごしごしとこすった。
「ルイ、大丈夫か!?」
「ああ、別になんともないよ」
「本当か!? あれをもろに浴びたんだぞ!」
「本当になんともないんだ」
隊員たちは真っ青になって慌てているが、ルイ本人はいたって冷静だった。顔についたものもすぐに取れたし、体に異常も見られない。
「大丈夫だから、みんな落ち着いて。体に触れても問題ないやつだよ」
ルイはそう言ったが、周囲は動揺してわあわあと騒いでいる。瓶を押してしまった隊員は別の隊員に関節技を決められて悲鳴をあげていた。
「とにかくお前は医務室に行ってこい」
カドレックが言った。
「万が一なにかあったら困るからな」
「……わかりました」
ルイは魔導具の解析に同席したかったが、班長の指示には逆らえない。結局、ファスマーと一緒に騎馬師団本部内にある医務室まで行くことになった。
「本当に変わったところはないんだな?」
本部の廊下を歩きながらファスマーが聞いた。
「全然。みんな騒ぎすぎだよ。調子が悪くなったら医務室くらい一人で行くって」
「いやいや……お前あれだけいろいろな目に遭ってるのに、なんでそんな脳天気でいられるんだよ」
「逆だよ。さんざんひどい目を見てきたから、だいたいのことじゃ驚かなくなったんだ。なにが起きても今なら冷静に対処できうわっ」
その言葉が乾かないうちに、ルイははがれかけた床板につまずいてつんのめった。ファスマーはさっと腕を伸ばしてルイの体を支えた。
「おい、冷静な対処がなんだって?」
「うるさい」
「そんなんじゃいつまでたって……も……」
ファスマーは話の途中で急に黙ってしまった。
「ファスマー?」
不思議に思ったルイが声をかけても反応がない。転びかけたルイの腕をつかんだまま、ファスマーはじっとルイを見つめている。
「おい、どうした? ファス――」
ルイは突然背中に衝撃を感じて息を詰まらせた。ファスマーに廊下の壁にたたきつけられたのだ。ファスマーはルイの両肩を爪が食いこむほどつかみ、全身の力をこめてルイを壁に押しつけた。
「知らないあいだにそんなことがあったなんて……」
「隊長、リーゲンスじゃ凶悪犯として指名手配されてるんじゃねえの?」
「だよな……なのに今度は突然ルイと結婚するなんて言っても、リーゲンスの人たち受け入れないだろ」
「あ、そこは大丈夫。ちゃんと姉上には手紙で伝えたから」
ルイが言った。
「元はといえば、先に手を出したのはリーゲンスのほうだからな……。ライオルは俺を助けてくれたんだって、ここに来てからもよくしてもらって楽しく暮らしてるって伝えたんだ。そうしたら姉上からおめでとうって返信来たよ。早く会いたいってさ!」
「おお……結婚認めてくれたんだ」
「ああ。姉上はいつも俺のことを思ってくれる優しい人だからね。いやなことがあったらすぐに教えなさい、剣を磨いておくからって書いてあった。姉上もお茶目だよな。あはは」
「いや本気だろそれ……」
「ルイのお姉さんって現女王だろ? どんな人なんだ? お前と似てんの?」
「全然似てないよ。俺が言うのもなんだけど、すごい美人だよ。金髪で、剣が上手でとても活発で……」
「金髪美女の女王様……だと……?」
隊員たちの一部がざわついた。
「そう。だからイオンは国中の女の子のあこがれの的だったんだ」
「国中の女の子をはべらせてたのか!?」
「いや、別にはべらせてたわけじゃ――」
「なんという眼福すぎるハーレム……夢の国じゃねえか……」
「俺もリーゲンスに行きたい……美人で強い女王様にお仕えしてえ……」
「俺も。座るときの踏み台にしてほしい」
「おいこら、ヒューベル王への忠誠心はどうした」
ルイたちが朝礼そっちのけで話に花を咲かせているところに、用事を済ませたライオルがやってきた。気づいた隊員たちは一斉にライオルのほうを向いた。
「隊長! 婚約おめでとうございます!」
「おめでとうございます!」
「ああ、ありがとう」
ライオルは片手を上げて礼を言った。そして、仲間に囲まれてにこにこしているルイを見て顔をほころばせた。
「ルイ、受け入れてもらえてよかったな」
「ああ!」
ずっと隠していた本来の身分を明かしても、ファスマーたちの態度はなにも変わらなかった。リーゲンスの王族だからと嫌悪感を示されることも予想していたルイは、それがこの上なく嬉しかった。
「新しい任務だ」
ライオルが言った。第九部隊一同はたちまち静かになり、ライオルの言葉に耳を傾けた。
「カヴァーノ商会の荷物に不審な魔導具が混じっているとの通報があった。未認可の魔導具の可能性が高い。すぐに現場に向かい、魔導具を回収する。コルクス班、行けるか?」
「行けます」
コルクス班長はよく通る声で返事をした。
「よし、じゃあ状況を説明するからコルクス班は集合しろ。カドレック班は執務室で魔導具の解析の準備を進めておけ」
「はい、隊長」
カドレックは返事をすると、ルイやほかの班員たちを呼び集めた。ルイはカドレックについて執務室に向かった。
日常が戻ってきたことに、ルイは一人しみじみとしていた。ライオルや仲間たちに囲まれて、これからもこうして暮らしていくのだ。
◆
カドレック班は執務室で回収した魔導具を調査するための準備を進めた。作業する場所を確保するため、ルイはファスマーと一緒に仕事用の机をすべて壁際に移動させた。分厚い木でできた机はかなり重く、ルイは腕がぷるぷるして何度か危うく足の上に机を落としかけた。
「ルイ、お前、このままでいいのか?」
重い机を二人がかりで運びながら、辛そうな顔のファスマーが言った。
「お前は王太子の婚約者で、リーゲンスの元王様なんだろ? 結構大事な立場にいると思うんだけど……」
「そうかもな……もうちょっとそっちに寄せてくれ、隙間があいてる」
「はいよ……なのに、こんなところで机なんか運んでていいのか?」
「仕事なんだからしょうがないだろ」
「しょうがないで済ますなって。お前の権力で俺たちに楽をさせてくれよ」
「俺にそんな権限ないって」
「なんでだよお……」
ファスマーはぜいぜいと荒い息をはきながら嘆いた。
「そこ、休むな!」
机を置いて一休みしていると、たちまちカドレックに見つかってしまった。
「もうすぐコルクス班が戻ってくるぞ! 喋るのはあとにしろ!」
「ちぇっ」
ファスマーは眉間にしわを寄せた。
「班長、ちょっとルイに遠慮なさすぎじゃないですか!? 怪我でもさせたら一大事ですよ!」
「過去の王だろうが未来の王妃だろうが、今は俺の部下だ。俺の言うことはきっちり聞いてもらう」
真面目なカドレックはこともなげに言った。
「あはは……」
ルイは乾いた笑いをもらした。
「ファスマー、悪いけどそういうことだ。あそこの机を運んだら終わりだから、もう少しがんばろう」
「うう……世知辛い……」
ルイは低い声でぶつぶつ文句を言い続けるファスマーをはげまして最後の机を運んだ。執務室の中央は空っぽになり、ほかの班員たちは壁際の棚から様々な器材を取り出して解析の準備を進めた。
しばらくしてコルクス班が戻ってきた。魔導封じの紋章が描かれた大きな木箱を、四人がかりで慎重に運んでいる。木箱は執務室の真ん中に置かれた。
「よし、開けろ」
コルクスの指示で木箱の蓋が開けられ、回収してきた魔導具が姿を現した。中に収められていたのは、銅板で装飾されたきれいな箱だった。丸みを帯びた蓋には鍵がかかっておらず、ぱかりと簡単に開いた。
「……なんだこりゃ?」
一人の隊員が首をかしげて言った。中には曲がりくねったパイプやガラス瓶がぎっしり詰まっていた。いくつかある瓶の中には、薄紫色の煙とも液体ともつかないものが流れている。
「中の液体はなんだ……?」
「怪しいな。毒だったらまずいぞ」
さっそく探知の術が得意な隊員が有毒かどうかを調べた。魔導具のすみずみまでを検査し、彼はうーんとうなった。
「毒ではないと思います。なにかの魔力がこめられてるけど、敵意は感じない。でも安全な物質とは言いがたい……」
「どういうことだ?」
コルクスがたずねた。
「なんというか……表現しにくいんですが、妙な違和感を感じるんです。親和性があるような、でも近づいてはいけないような……美人局みたいな危険な香りがします」
「なんだそりゃ」
「一見魅力的だけど実はとげがある、みたいな?」
要領を得ない答えにコルクスは首をひねった。さらに解析が必要になり、コルクス班とカドレック班は協力して魔導具の中身を取り出していった。
ルイも興味を引かれて箱の中身を触った。一つのパイプは簡単に取り外すことができた。ルイはひんやり冷たい銅製のパイプを観察した。
「これはなにに使うんだろ? ……ああ、そっちのガラス瓶とつながってるのか」
ルイは箱の中にある透明の丸い瓶を指さした。瓶の中には薄紫の謎の物質がたまっていて、瓶の口から細い管を通ってパイプにつながっている。一人の隊員がその瓶に手を伸ばした。
「おい、気をつけろ!」
カドレックが警告した。隊員が瓶に触れると、瓶はぐにゃりと曲がって内側にへこんだ。押された勢いで、中に入っていた薄紫の物体が管を通ってルイの持っているパイプの先から吹き出した。
「うわっ」
吹き出したものはパイプをのぞきこんでいたルイの顔にかかった。ルイはとっさにパイプを投げ捨てた。
「ルイ!」
隊員たちはびっくりしてルイを取り囲んだ。ルイの顔についた薄紫色の液体はすぐに空中に溶けて消えていった。
「へっくしょ」
ルイは鼻がむずむずしてくしゃみをした。一人の隊員は慌ててハンカチを取り出してルイの顔をごしごしとこすった。
「ルイ、大丈夫か!?」
「ああ、別になんともないよ」
「本当か!? あれをもろに浴びたんだぞ!」
「本当になんともないんだ」
隊員たちは真っ青になって慌てているが、ルイ本人はいたって冷静だった。顔についたものもすぐに取れたし、体に異常も見られない。
「大丈夫だから、みんな落ち着いて。体に触れても問題ないやつだよ」
ルイはそう言ったが、周囲は動揺してわあわあと騒いでいる。瓶を押してしまった隊員は別の隊員に関節技を決められて悲鳴をあげていた。
「とにかくお前は医務室に行ってこい」
カドレックが言った。
「万が一なにかあったら困るからな」
「……わかりました」
ルイは魔導具の解析に同席したかったが、班長の指示には逆らえない。結局、ファスマーと一緒に騎馬師団本部内にある医務室まで行くことになった。
「本当に変わったところはないんだな?」
本部の廊下を歩きながらファスマーが聞いた。
「全然。みんな騒ぎすぎだよ。調子が悪くなったら医務室くらい一人で行くって」
「いやいや……お前あれだけいろいろな目に遭ってるのに、なんでそんな脳天気でいられるんだよ」
「逆だよ。さんざんひどい目を見てきたから、だいたいのことじゃ驚かなくなったんだ。なにが起きても今なら冷静に対処できうわっ」
その言葉が乾かないうちに、ルイははがれかけた床板につまずいてつんのめった。ファスマーはさっと腕を伸ばしてルイの体を支えた。
「おい、冷静な対処がなんだって?」
「うるさい」
「そんなんじゃいつまでたって……も……」
ファスマーは話の途中で急に黙ってしまった。
「ファスマー?」
不思議に思ったルイが声をかけても反応がない。転びかけたルイの腕をつかんだまま、ファスマーはじっとルイを見つめている。
「おい、どうした? ファス――」
ルイは突然背中に衝撃を感じて息を詰まらせた。ファスマーに廊下の壁にたたきつけられたのだ。ファスマーはルイの両肩を爪が食いこむほどつかみ、全身の力をこめてルイを壁に押しつけた。
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