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第十一章 懇ろな図りこと
預けさせられる下駄
しおりを挟む「一応、奴を呼んできます。でも休憩時間に入ったばかりだし、すぐには来ないんじゃね?とか思いますがねぇ。奴はそういうとこ融通利かないんで」
「透君は俺様キャラだもんね。仕方ない、うんうん。さっき私が言った通り伝えてくれればいいから。ねっ。ねっ」
安川さんは思いきりのつくり笑顔で頼んだ。
(本当にそのイケメン君にゾッコンなのね)
少女の様にウキウキしている様子は、テキパキと伝票の束を捌く会社での彼女とは真逆に位置してるようで。 そんな姿を見る事が出来て、今夜は本当に嬉しい。
以前、打ち上げ行ったカラオケ店の料理の不味さを話題にしている時、飲み物が運ばれて来た。
「安川さん、いらっしゃいませ」
先程のウェーターとは違う声がして、横に立つ男の子に視線を上げた。
(綺麗な人……ミケラン=ジェロの彫刻みたい。それに……)
すぐにこの子が安川さんの推している『イケメン君』と判ったのは、その端正な顔付きでも均整のとれた姿態のせいでも無く、涼しげな瞳がさも語らう様に熱く向けられるから。
その瞳は私から離れず、私も目を背ける事が出来ない。
「アラッ、いきなり恋に落ちてるのぉ?」
そう安川さんに言われ、ハッとして視線を外す。
思いもしていなかった自分のこの反応に、顔から火を吹きそう。
「会ったばかりの人に恋だなんて。いい大人が有り得ないでしょ。揶揄わないでください」
「えぇー。ここで即座に全面否定?まだ会って数分だよ?まぁ第一印象ってあるにはあるよね……うーん。でもでも、お母さんは残念だなぁー。彩っちのお眼鏡に叶わなかったかぁー」
「いえ、そういう意味ではなく、ですね?その……私みたくの恋バナに引き合いに出されること。彼には迷惑でしょう。だと思いませんか?」
目の前に居る彼女達がニタニタ笑っている。
「何です……か。私、何か可笑しいですか?」
「耳まで真っ赤にして可愛い。恥ずかしさに身動き取れなくてジタバタしてる彩っちをイジるのも、これまた一興じゃのぉ」
「もぉ!止めてください。本当に怒りますよ?」
これ以上は顔を上げていられなくなってる私を覗き込み、今度は吉冨さんがケタケタ笑い始めた。
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