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33.謁見の間って本当にあるんだね

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「皇帝陛下、皇后陛下、並びに皇女殿下の無事のご帰還をお祝い申し上げます」

 踵を鳴らしてきちっと挨拶される。が、この騎士団の人達、少し前まで私のこと笑ってた。嫌な意味じゃなくて……あの「ぶつかるぅ」の叫び声が聞こえてたみたい。恥ずかしい。顔を上げられないんだけど。

 結論を言えば、ぶつかることはなかったの。急降下して近づくお城の塔は、最上部が平らだった。現在の私の身長くらいの縁があるだけ。そこへ向かったアゼスは、最後に身を起こしてばさっと翼を広げた。エアブレーキっていうの? あんな感じの原理で、ふわりと降りる。

 リディがしっかり抱いててくれなかったら、私は落ちてたと思う。叫ぶことになったのも、怖い思いをしたのも、全部アゼスが悪い。事前に言ってくれたら良かったのよ。ぷんと頬を膨らませて怒れば、皇帝アゼスはおろおろと困惑した様子だった。巨大な熊みたいな人なのに、なんだか可愛いかも。

「あら、可愛いのはサラちゃんよ」

 マイペースなリディに褒められながら、顔は整ってるのに眉間に皺が刻まれたアゼスへ手渡された。むすっと機嫌の悪い私を抱いて、アゼスが肩を落とす。へにょりと倒れる犬耳の幻覚が見えた。実際はついてないけど、尻尾も垂れてそう。

「尻尾と耳があれば許してくれるのか?」

「やめて、前もそう言って変な動物を食べてお腹壊したじゃない」

 夫婦の会話から、どうやら以前も何かやらかしたのだと知る。アゼスは意外にも尽くすタイプみたい。

「アゼス」

「パパと呼んでくれ」

「無理」

 即答したら泣きそうになった。ちなみにこの会話の最中も、彼の足は前に進んでいる。肩で風切って歩く皇帝陛下が、しょぼしょぼ歩くので注目されていた。これは私のせいね。大股で歩く彼の後ろを、平然と付いてくるリディが凄い。ヒールの高い靴で、柔らかな絨毯を踏み締め……てなかった?

 よく見たら歩いてるフリで浮いてるじゃん。絨毯に靴跡がない。心の中で指摘したら、リディが「しぃ」と指を唇に寄せた。色っぽい、アランもそうだけどリディも色気垂れ流しだ。これは聖獣の宿命? でもエルは子供っぽいし、アゼスは強面系だから違うか。

 くつくつと肩を震わせて笑うアゼスの振動が伝わってくる。心の中が丸聞こえってのも問題だから、早めに魔法を覚えよう。

「機嫌は直ったか? 我が娘よ」

「半分くらい」

 恥ずかしかったのと怒りが分散して、なんとなく拗ねてるだけ。今の感情は半分くらい回復だった。

「それは良かった」

 大きな手がぐりぐりと頭を撫でて、扉が開く。帰還した皇帝陛下が最初にどこへ向かうのか。よくファンタジーで聞く、天井の高い謁見の間だ。前に立つ鎧姿の人が押した扉は観音開きで、廊下へ明るい日差しが飛び込んできた。

 天井はガラス張り、それもステンドグラス風に飾られている。きらきらした部屋の中に、ずらりと人が並んでいた。両側にいるけど、真ん中の絨毯は誰もいない。そこを当然のようにアゼスが歩き出し、リディが続いた。皇帝陛下の到着を告げる言葉がだらだらと続く中、彼はさっさと正面の壇上に上がり立派な椅子に腰掛ける。

「皇帝陛下の御世に幸いあれ」

 その声で、集まっていた全員が深くお辞儀した。きょろきょろする私を抱いたアゼスが座る椅子は、長椅子と呼ばれるソファに似ている。アゼスの隣に残る隙間へ、細身のリディがするりと滑り込んだ。二人で座るように作られたのか。

「今日からサラちゃんが増えるから、椅子を作り直させないといけないわね」

 いえいえ、しばらくお膝に乗る予定なのでお気になさらず。
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