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第10話 登校初日と彼女と再会

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俺は今とても難しい選択を迫られていた。

こんなのどう考えても迷うに決まっている。

俺はそう考えながらも必死に脳を回転させて思考する。

選択肢は二つに一つだ。

安全を取って男を捨てるか――
安全を捨てて男を取るか――

「……」


「……」


「……」


――俺はもちろん男を取った。理由は言わなくてもわかると思うので省略させてもらう。

ところで、俺が今何に迷っていたかを伝えようと思う。
きっと皆もそれを知れば俺と同じ選択をするだろう。

……するよね??

ななななんと!そう!それはまさかの男性専用の車両の存在である!
なんとこの世界には男性専用の車両があるのだ!
理由はもちろん痴漢の防止である。

そして、ここまで言えばおそらく俺が何に迷っていたのかが伝わったと思う。
そう!それはもちろん男子専用の車両に乗るか否かである!
そして俺は否だ!

一応ここで言い訳というか説明というかそんなものをしておくが、女性が男性専用の車両に乗るのが法律的にダメなのであって、逆に男の俺が女性のいる車両に乗るのはもちろん法律的に問題ないのである。
何てったって、男が乗るのは「男性の専用車両」であって女性は「一般車両」なのだから。

しかしこの世界では、「一般車両」は前世でいう女性の専用車両と何ら変わりはない。
なぜならこの世界の男はおそらく全員――俺以外――自ら乗ろうと考えるバカはいないからだ。
そしてそれはニュースを見ていれば尚更だろう。
俺の記憶にある限りではあるが、この世界に転生してからみたニュースは女性が男性に犯罪やレイプまがいのことをしたことが9割5分くらい占めていた。

「どんだけ男に飢えてるんだよ……」

そう思うのは俺だけではない。
――むしろこの世界の男のほうが地獄に感じているだろう。

――皆も考えてほしい。なぜこの世界の男の大半が女性嫌いで冷たいのかを。

――俺はそれを一種の自己防衛だと考えている。

だって考えても見てほしい。
彼らからすれば、毎日毎日毎日同胞が襲われているのである。

そして不運なことにこの世界では男は高校三年間義務である。 
――つまりいくら家族や護衛官がいたとしても、少なくとも三年間は女性からの嘗め回すような視線を受けるのである。そして女性はその視線を向けながら、家族や護衛官が少しでも隙を見せるのをうかがっているのである。
その証拠に女性による性的被害は、ほぼ100%彼ら男子高校生というデータがある。


そんな環境に身を置いて、果たして男はどうやって女性に優しくしろというのだ。
――至極当然無理な話である。

これは前世で考えるとよりその異常さが分かりやすいだろう。

まず前提として女性は男性の30分の1である。
  ……いや、あえて男性は女性の30倍といったほうが面白いか。
そして次に女子高生は三年間義務なので男性に視姦されながら高校に通う必要がある。
  ……ふう。
そして最後に男性による性的被害はほぼ100%彼女ら女子高生なのである。
  ……どこのエロゲだよ!!

とういうわけで、皆もこの世界の異常さを理解できたと思う。
――そして冒頭に戻るが、それでもなお俺は女性がいる一般車両に乗りたいのである!

俺は自分で言っておいてなんだが、ここまで来ると清々しいな!とツッコミたくなった。
だが実は、それには空よりも高く海よりも深い理由があるのだ。

……そう。それは前世でいうところの「女性専用の車両に乗りたい」という思いである。
そしてそれはきっと俺だけではないと断言できる。……だよね?
――というよりむしろ、そう思ったことのない人がいるならば、尊敬する。まじで。
しかし、そんな聖人であろう君たちは一つ忘れていることがある。
――それは、この世界の女性は前世よりも数段も美しいということだ。
もしそれを知ってもなお乗りたいと思わない人がいるのなら、何も言うまい。
俺はあまり前世の美しい人物を知らないが、がんばってその美しさを伝えるとするならば、
全員が「浜〇美波」や「広〇すず」かそれ以上の顔であると言えると思ったのだが。


――まあ!とにかくそういう訳なので俺は「一般車両」に乗ってみることにした!


「……」


「……」


「……」


「ってあれ?」

――車両内に入ったのはいいが、反応なしである。

「……あれ。既視感が…。……そういえばつい最近こんな反応されたな……。」

俺はこれまであった女性たちの反応を思い出しながら周囲をうかがう。
――するとやはりというか、彼女たちは痴漢どころか呆然として俺を見つめていた。

この光景はいい加減見慣れてきたが、イケメンだと言外に滲ませているようなものなので案外嬉しかったりする。

「じゃあ俺から話しかけるか。」

俺はそんな彼女たちの反応に嬉しくなったので自ら話しかけることにした。

「おはようございます!」

そう近くにいた――と言ってもみんな俺から離れているが――女性に声をかける。

[………ひゃい!お、おはようございます!!]

「……これからお仕事ですか?」

俺はいちいち反応しては会話が進まないと考えスルーした。

「は、はい!仕事です!」

「そうなんですね!俺はまだ高校生なのであれですが、頑張ってください!」

そう俺が言うと、彼女は余程仕事がつらいからなのか悲しそうな顔をした。
しかしまたすぐにうれしそうな顔に変化した。

「はっ、はい!ありがとうございます!……ありがとうございました!」

――そういって彼女は今着いた駅に降りて行った。



「次はどうしようかな……」

彼女が去った後、俺はそう考えながら周囲を見渡す。
――しかし誰も俺に視線を合わせる事無く顔を赤くして俯いていた。

――多分恥ずかしがってるんだろうな。と思った。
実際にアイドルなどに会うときによくあるだろう。直前まで話す気満々だったのに、いざその時が来ると何を言えばいいか分からなくなったり、口が開かなくなるあれだ。良くあるよね。

そう俺が考えていると、いつの間にか秀英学園の最寄りの駅に到着した。
俺は、俯いている彼女たちに悪いことしたかな。と思い急いで降りた。
――もちろん手を振って。

俺は自分のそんな行動に「ビッチかよ!」と思ってしまった。

――どうやらこいつは学習しないらしい。
俺はそんな声が何処からか聞こえてきた気がしたのだった。

――ちなみにその後電車内では誰一人言葉を発さなかったという。







######################


「おはよう!」

自分のクラス――1年A組――に着いた俺は、教室の皆にそう挨拶をした。

「あっ!きたよきたよ!」「ほ、ほんとだ!」「お、おはよう!倉部君!」
「あー!私も!お、おはよう倉部君!」 「おっ……おは……ようございます……モゴモゴ」

するとクラスの皆が少し緊張しながらも元気よく挨拶を返してくれた。
――約一名恥ずかしがっているせいかよく聞こえなかったが。

「優成でいいよ!これからよろしくね!」

俺がそういった瞬間教室には歓声が響き渡った。
――俺はそれを傍目に見ながら、先ほどモゴモゴ言っていた人物へ向かう。

「やっぱり君だったんだね。同じクラスになれて嬉しいよ!」

俺はそう目の前に座っている彼女――受験の日に迷子になっていた――に言う。

「っ!!ほ、ほんとですか……?!私も気づいた時は嬉しかったです!!」

彼女はそういって笑顔を向けてくる。――彼女も嬉しかったのか。……良かった。
……それにしても……うん。やっぱり思った通りこの子はとても可愛い。タイプだ。
俺は彼女を見て改めてそう感じていた。

「あっ!そういえば名前教えてもらっていいかな?」

「あ……!!そうですね。私は南(みなみ)杏優(あゆ)といいます。」

「南さんか!よろしくね!えっと、俺の名前は――」

「く、倉部優成さん……ですよね?」

「うん。まあ新入生代表だったし知ってるか。」

「もちろんですよ……逆に知らない人はこの学校にはいませんよ?」

確かにそれもそうか。新入生代表に加えてこの学園初の男子生徒だしな。

「そ、それで、倉部さんは――」

「南さんも優成でいいよ!みんなからもそう呼んでもらうし。」

俺は南さんが照れないように配慮したつもりだが、それでも南さんは恥ずかしそうにしていた。

「わかりました。ゆ、優成君。私!のことも杏優と呼んでください!」

「うん!よろしくね。杏優ちゃん!」

そう言って俺たちは、照れながらも名前で呼ぶことになった。

その後、俺はクラスメイトたちを交えて入試や学園のことなどについて話をしていると、
話題が入試の成績に移った。

「そういえば、今年の入試の最高得点が学校のホームページに書かれてたんだけどね――」

そう言って彼女――山咲(やまざき)莉子(りこ)――は俺たちにホームページを見せてくる。
――そしてそこには、290点と書かれていた。――もちろん俺の点数である。

「に!290点?!」

そう言って驚いた声を上げたのは、川口(かわぐち)美玖(みく)である。

「今までの最高記録大幅に更新してるじゃん!すごいね!誰だろう!?このクラスにいるのかな?!」

そう言って美玖はクラスの中を見渡し始める。――あの。ここです。ここ。
俺は心の中で彼女にそう伝えた。――もちろん伝わらなかったが。

「えっと、何て言うか、それ俺なんだよね。実は。」

俺は若干恥ずかしがりながらもそう答える。
……するとそれを聞いた美玖は大声でそのことを叫びだした。

――もちろんそのせいでこの事が学校中に広まったのは言うまでもない。

「そうだったの?!てっきり男子だから新入生代表だったんだと思ってたよ。」
莉子はそう言って申し訳なさそうにする。

「別に気にしてないよ。男子はあんまり勉強とかしないみたいだしね。俺は勉強得意だけど。」
俺がそういうと、莉子は「優成君凄すぎて……女としてのプライドが……」などを言っていた。
――それを聞いて、その言葉は女が使うのか。と違和感を感じた俺だった。

「やっぱり!ゆ、優成君はすごいんだね!私は薄々そうなんじゃないかって思ってたよ……!」
そう言って杏優は俺を持ち上げてくれた。――しかしまだ名前呼びに慣れてないようである。

「ありがとう。」

俺がそう返すと杏優は照れながら嬉しそうに頷いた。



――それからホームルームが始まるまでの間、俺たちは楽しくお喋りをして過ごした。








####################


「で、では!これからホームルームを始めたいと思います!」

教室に入って早々そのような発言をするの彼女は、このクラスの担任になる先生だろう。
――あれ?この人って受験の時の受付にいた……。

俺は彼女を見て既視感を覚えた。

「さて!皆さん!まずは、自己紹介から始めたいと思います!そして担任である私から始めます!」

そう有無を言わせない勢いで先生は自己紹介を始めた。……俺に視線を送りつつ。

「先生の名前は、新本(しんもと)真奈美(まなみ)と言います!そして皆さんとは既に受験の時の受付で会っています!もちろん覚えているとは思いますが!」

そう言って先生はクラスを見渡す。そして直ぐに先生は悲しそうな顔をする。
どうやら誰も覚えていなかったらしい。

「そうですか。いいです。気にしてません。いつものことですから……。」

――暫く先生は一人で自分を慰めていたのだった。



「あっ、あの?先生?

「……はっ! す、すみません!なんでもないです!!」

クラスの女子に声をかけられたことで、先生は今の状況を思い出したようだ。

「……えっとですね!担当教科は――」

そう何事もなかったかのように自己紹介を再開する。



「――――以上で先生の自己紹介を終わります!……あっ、あと! ……ど、独身です!」


――その言葉に誰もが優しいまなざしを向けてしまった。

「……じゃ、じゃあ!次はみんなに自己紹介をしてもらおうかな!」

そのことに気づいているのかいないのかわからないが、先生は早口でそう言った。

「誰か初めに自己紹介したい人いる?」


「はいはいはい!!私やります!」

その先生の言葉に真っ先に反応をしたのは美玖である。

「えっと!川口美玖と言います!」

「私はあんまり勉強は得意ではないですが、運動は得意なので運動部に入ろうと思っています!」

「これからよろしくお願いします!」

そう言って美玖は元気に自己紹介をした。
――勉強は得意じゃないって言っているが、この学園には入れたのだから十分できる。
つまりそれよりも運動が好きということなのだろう。


「じゃあ、次は私がやります!」

美玖の後にそう反応したのは莉子であった。


「山吹莉子と言います!」

「私は、早くみんなと仲良くなってお出かけに行ったりしたいです!」

「これからよろしくお願いします!」

そう言って莉子は笑顔で自己紹介をした。
それを見て俺が思ったことは「コミュ力高すぎ」である。
これはクラスの人気者とかになりそうだな……と思った。


――二人の発表の後は、みんなが続々と自己紹介をし始めた。
そしてその度に俺に視線を送ってくる。やはり意識されているのだろう。
俺も彼女たちに見られて嫌なわけがないので……いや、むしろ嬉しかった。
そんなことを考えていると、いつの間にか残りは俺と杏優だけになっていた。
俺は別にいいとして、杏優は恥ずかしいのか未だ踏ん切りがついていなかったようだ。
しかし、俺の視線に気づいたのか意を決した様子を見せた。

「わ、私は南杏優と言います!」

「私は、この通り人前で話したりするのは苦手です。」

「ですが、がんばって克服したいし、みんなと仲良くなりたいです。」

「なので、皆さんよろしくお願いします!」

そう言って杏優は緊張をしながらもきちんと自己紹介をした。
俺はクラスメイトを見るが、誰もそんな杏優を馬鹿にしたりしていなかった。
――どうやら皆いい人のようだ。これなら杏優も安心できそうだと思った。

「じゃあ、最後は……優成君!よろしくお願いします!」

先生がそういうと、皆は真剣な表情をし始めた。もちろん先生も……。

「……えっと、俺の名前は倉部優成です!」

「俺はこの学園では、勉強や運動も頑張りたいと思っています!」

「もちろん皆さんと仲良くしたいとも思っています!」

――クラスの皆は色めき立った。

「なので、男だからと遠慮せずに話しかけてください!これからよろしくお願いします!」

最後にそう言って俺は自己紹介を終えた。

「はい!ありがとうございました!じゃあ、次は優成君への質問タイムー!!」

―――先生がそう言うと、「待ってました!」と言わんばかりに皆が騒ぎ出した。

「あんまり多くても優成君が大変なので、ほどほどにしましょう!」

「はい!」「もちろんです!」「わかっています!」

そう言って彼女たちは集まって相談し始めた。
一方で俺はそんな光景を十数分見せられていた。


――結局その後たくさん質問があったせいで授業が長引いたのはご愛敬……。




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