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第17話 隣室での会話 前編  side妹

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「……ここだよね、お母さん?」

「……ええ、そうだと思うわ。」

そう話す私とお母さんの前には、結構大きめで綺麗そうな部屋がありました。

「……それにしても、本当にこの学園って設備が良いね。」

「……そうね。これは大学レベルよ。さすが最難関私立だわ。」

この部屋に着くまでに見た様々な設備を思い出し、感嘆のため息が漏れてしまいました。
この部屋までの道順は、お母さんがお兄ちゃんに地図をもらったので迷わず来ることが出来ましたが、もし仮に地図が無ければ、迷っていたでしょう。


「じゃあ、入るわよ。」

「うん。いいよ。」

心の準備が出来たのでそう返事をしました。

「コンコン 優ちゃんー?」

「お兄ちゃん――?」

そしてお母さんのノックに合わせてお兄ちゃんを呼びました。

「いるよ!入って良いよ。」

――直ぐにお兄ちゃんの声が返ってきました。
そして許可を得たので、お母さんと一緒に部屋に入ります。
するとそこには、いつ見ても格好いい私のお兄ちゃんと、不安そうにこちらを見つめる二人の女性がいました。

――ふーん。顔はなかなか……。――まあ、お兄ちゃんにふさわしいかと言われたら全然足りてないけど。
私は部屋を見回すふりをしつつ2人を観察しました。
そしてしばらくして観察を終えお母さんを見ると、丁度お母さんも私同様に部屋を見回し終えたところでした。

そしてお母さんの視線は二人に固定されました。

「あなたたちは、優ちゃんが言ってた同好会の?」
そうお母さんが二人に問いかけます。

「は、はい!わ、私は!優成君と一緒に音楽活動をさせて頂く事になりました!山吹莉子と言います!」

「は、はい……!!同じく南杏優と言います……!!」

すると二人はお母さんを怖がりつつもしっかり挨拶を返しました。
……なるほど。私とお母さんが来るとわかっても逃げなかっただけのことはありますね。
その光景を見て、私は彼女たちをほんの少しだけ好ましく思いました。

「そう。貴方たちなのね。……うん。なるほどね……」

お母さんはそう言ってさらに二人を見つめました。
そして――

「――じゃあ、色々聞きたいこともあるから、少し隣の部屋で話しましょうか。」

――と言いました。
私はそれを聞いてお母さんに頷きましたが、彼女たちは覚悟を決めた顔をしていました。
恐らくこれから自分たちが何をされるのか想像したのでしょう。

「それじゃあ行きましょ。――優ちゃんはここで待っててね!」

お母さんのその有無を言わせない雰囲気に、お兄ちゃんは止めることを早々に諦め、心配そうに二人を見ていました。――お兄ちゃんに心配して貰えるなんて……。
――私はその光景に軽く嫉妬をしました。


――そして、お兄ちゃん以外の全員で隣の部屋へ移動しました。




################



「じゃあ早速だけど、質問して良いかしら?」

隣の部屋に移動し、全員が椅子に座ったのを確認したお母さんは、そう言って二人を見ました。

「「は、はい……!」」

それに対して二人は緊張をしながら返事をしました。

「まずは、優ちゃんと同好会をすることになった理由を聞いても良いかしら?」

お母さんは初めにそう質問をしました。
確かにお兄ちゃんからは、同好会を始めることは聞きましたがその過程は聞いていませんでした。

「まさか優ちゃんに近づくために……とかじゃないわよね?」

「い、いえ……!」「 ち、違います……!」

お母さんのその言葉に二人は否定した。
――お兄ちゃんが真剣に音楽活動をすることをお母さんはわかっているから、不純な動機で関わって欲しくないのでしょう。もちろん私もそう思います。そしてお母さんは、それを今見極めようとしている。

「じゃあ、杏優さん?でしたね。理由を聞いても良いかしら?」

「は、はい!私は――――」

それから杏優さんは、同好会活動の動機を話しました。


「――――なるほど。杏優さんが入ろうとした美術部が、貴方の考えてた活動と違った。そして部活を悩んでたら優ちゃんがその事を知って同好会に勧誘してくれた。そして、活動内容を聞いたら楽しそうだったから入った、ということね。」

「は、はい!優成君には感謝しています!」

そう言って杏優さんは笑顔になる。

「わかったわ。話してくれてありがとう。――じゃあ莉子さんは?」

「は、はい!私は――――」

そう言って莉子さんも動機について話してくれた。

「なるほど。莉子さんは吹奏楽部に入ろうとしたけど、想像していた活動と違った。そしてどうしようか悩んでた。そうしたら莉子さんがやりたいことを知った優ちゃんが同好会に勧誘してくれて、杏優さんと同様に楽しそうだったから入ったという事ね。」

「は、はい!私も優成君には感謝しています!」

そう言って莉子さんも笑顔になった。


――二人の笑顔には、お母さんの言っていたような動機を感じることは出来ませんでした。


「なるほどね……。うん……貴方たちを信じるわ。……疑ってごめんなさいね。」
お母さんも私と同じ事を感じたのか、そう言って二人に謝りました。

「い、いえ、大丈夫です!親が子供――それも男性――の心配をするのは当たり前です!」

「は、はい。わ、私もそう思います。気にしてません。」

お母さんの謝罪を聞いた二人は、そう言ってお母さんを肯定しました。

――なるほど。ポイント稼ぎのつもりですね……。しかし、そうやってお母さんからの印象を良くしようとしても無駄です!何故なら、この私が貴方たちの化けの皮を剥いでやるからです!


では、一体どうやって彼女たちの化けの皮を剥ぐか。
そう深く考えた私は、ある妙案を思いつきました。
それは、題して――

「彼女たちの無能さをお母さんに知ってもらおう作戦」

――です。
どういうことかというと、今さっき彼女たちは、お兄ちゃんに対する不純な動機が理由で同好会に入ったわけではないと言いました。つまり音楽活動をしたくて入ったわけです。――才能豊かなお兄ちゃんが居る同好会に。

しかし、それにも関わらず、音楽・絵の才能が無いと判明すれば、お兄ちゃんの足を引っ張る事になります。
そしてもし仮にそうなれば、お兄ちゃんの活動を応援しているお母さんにとっては邪魔者でしかありません。
きっとお母さんの、彼女たちへの印象は最悪になり、彼女たちは信頼を失うでしょう。
そしてそれは、連鎖的にお兄ちゃんからの信頼も失うことになります。
――失っていなければ、私が流言飛語を…………。
とにかく!お兄ちゃんからの信頼を失わせます!

――そしてそうなれば、後はどうとでもなります。
男性――それもお兄ちゃんのように格好よくて優しい男性――と仲良くなり、男性の近くにいることへの喜びを一度でも知ってしまった女性は、失えばどんな手を使ってでも元の状態へと戻そうとします。――犯罪を犯してでも。

つまり、彼女たちをその状態にすれば、必然的にボロが出るのです!出せるのです!
――そして私は、その証拠を確保してお兄ちゃん渡します。
――これにてthe・endです。

ひょっとして私って……天才ですか?
私は作戦の脳内シミュレーションを終えると、自分の作戦の完璧さに自画自賛してしまいました。


「完璧です!これなら、彼女たちの化けの皮を絶対に剥ぐことができるでしょう!!」


――この時、盛大にフラグを立ててしまった事に私は気付きませんでした。

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