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『お前は素直に笑う事も出来ないのか』

当時5才だった私が実の父であるティムレット侯爵に告げられた一言。

この言葉、父上は特に考えもなくさらっと言った事だけど私にとっては今でもたまに思い出すくらい深く傷ついた思い出だ。

小さい頃から上手く自分を表現出来ない。
貴族の娘だと言うのに愛想笑いの一つも出来ない。
そんな出来損ないの私より、家族が妹を溺愛するのに理由なんてなかったと思う。


「お父様、私この間の試験で80点取れましたの!」
「お母様、私一緒にお買い物に行きたいですわ!」
「お姉様、お勉強なんてやめて一緒に遊びましょう?」


妹、フレイアは天真爛漫で人懐っこい。
いつもニコニコしていて、姉の私から見ても女の子らしくて可愛らしいと思う。

私よりテストの点数が低くても褒められて、
私より浪費癖があっても可愛がられて、
私より真面目じゃなくても誰にも咎められない。

全てはフレイアの天性とも言える性格のおかげ。

妖精フェアリー」と呼ばれ愛される妹と、
人形ドール」と呼ばれ敬遠される私。


だから、あの日王室に呼ばれ婚約破棄されたのだって全て納得のいく事だった。



*****


「婚約破棄、ですか」

朝一番に王室に呼ばれた私はポカンと口を開けてしまう。

目の前には玉座に座る国王陛下と、王太子で私の婚約者でもあるジーク=モニータ様。

「ああ、其方に報告するのが遅くなってしまったがこれは既に決定した事なのだ。気を悪くしないでくれソフィア」

玉座に座る恰幅の良い男性、モニータ国王陛下は少し眉を潜めながらそう言った。

「いえ……えっと、私……知らぬ間に、何かご無礼を致しましたでしょうか」

「其方に非はない。ただ、婚約者を其方から妹のフレイアに変更するというだけなのだ」


フレイアと……?

一緒にこの場に来たフレイアを見れば、全て知っていたらしくニッコリと満面の笑みを向けてきた。

何、どう言う事なの。

「陛下、発言の許可を頂けますか?」

「うむ」

「お姉様、お伝えする事が出来なくてごめんなさい!でも…お姉様の事を思うとどうしても言いづらくて…」

フレイアは目をうるうるさせ私の両手をぎゅっと握る。
上目遣い……相変わらずあざといわね。

「実は……兼ねてより王太子殿下、いえジーク様と私は想い合っていたの。でも婚約者であるお姉様からジーク様を奪うような事なんて出来ないって」

いや、でも実質奪ったんでしょ?

「でもね、お父様もお母様もお姉様ならきっと祝福してくださるだろうって!国王陛下も、私達のことをお許しになってくれたの!」

悪びれもなく話すフレイアに微かに違和感を持つ。

謝っているように聞こえるけど、結局は全部事後報告。

この婚約はそんな簡単に破棄して良いものじゃない。
私はジーク様の婚約者に選ばれた時から王室直属のマナー講師や教授の元で次期王妃としての教育を受けてきた。
勿論私の事は「モニータ王国の次期王妃」として国内外に既に知れ渡っている。つい先日も隣国であるグランディーノ帝国へ王太子代理として出向いたばかりだと言うのに。

それをこのタイミングでフレイアと交換するなんて……

「でもフレイア、貴女今までマナーや教養の勉強を真面目にやって来なかったでしょう?」

「うっ……これから一生懸命勉強するわ」

「それに、今まで私に時間と労力を掛けてくださった先生方に何と説明すればいいのかしら」

「大丈夫よ、これは国王陛下とジーク様がお決めになった事ですもの!」

その決定が無責任だと言うのよ。

この事を特に問題視していないフレイアを見ると頭が痛くなってくるわ。

「ソフィアいい加減にしなさい。これは国王陛下がお決めになった事だぞ!」

「……勿論分かっております」

相変わらず父上は私には厳しい。
母上だって、今にも泣きそうなフレイアの肩を優しく抱いて慰めてるし。

これじゃ私の方が悪者みたいだわ。
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