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第一章

私の秘密

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    ところで。突然ですが、私ヒロインなんです。

    ん?    頭の具合は大丈夫かって?    ええ、至って健康、至って正常ですよ。……まぁ、こんな事現実リアルで呟けば即刻医者を呼ばれるだろうから黙っているけど。

    私には前世の記憶がある。……と言ってもそれも完全じゃない。
    取り敢えず、前世で成人済みの日本人の女だった事は覚えているけど、詳しい生い立ちや家族の記憶はない。
    が、日本人としての一般教養や常識の類いは覚えている。

    そして、私が今生きているこの世界が乙女ゲームの世界である事も。
    私がそのゲームのヒロインとして生まれてきたらしい事も。
    だって、「精霊姫」なんて乙女ゲームのヒロインにありがちな二つ名だと思わない?

    ……ええ。私がこの世界が乙女ゲームの世界であると確信したのはそれがきっかけ。
    妙な記憶がある自覚は物心付いて早々に気付いていたけど、流石にゲームの世界とは。

    てか、乙女ゲームのヒロイン転生なんて時代遅れよね?    今ブームは悪役令嬢……も最近ではちょっとマンネリで、モブとか兄弟とか色々あるのに!

    まぁ、お陰で攻略対象の王族や有力貴族の子息の名前と数年後の顔(今は私と同じくまだ子供のはずだし)はしっかり覚えていた。
    ……にもかかわらず、私はノアなんて名前は知らない。顔は――覚えのある顔の面影は無くもないが、一応血縁はあるはずだしあんまり当てにはならない。

    私はヒロインだけど、拒否したい。攻略対象は大人しく悪役令嬢と幸せになれば良い。今の平穏な田舎暮らしを満喫しているので、面倒な貴族学校なんて行きたくないし、恋のカケヒキとやらに興味も無い。
    どうせ学校に行くなら農業とか漁業とか土木とか役に立つ事を勉強したい。

    ……のに。

    ノア、か。
    こんな子供の内からこんなど田舎に匿われる王子なんて面倒な予感しかしない。何よりゲーム開始時点で存在しなかった王子だ。
    けど、悪い子じゃないんだよね。仮にも王族を邪険には出来ないし……。

    こんな時だけは相談相手として頼りになる大人が居ればと思ってしまう。
    日常生活の中での相談事は執事にすれば良いし、勉強の質問は先生にすれば良いけど、伯爵令嬢としての悩みを打ち明けられる相手が居ない。

    普通なら母親や父親に相談すれば良いんだろうけど居ないからね。手紙を書いたところで無視されるのは既に実証済みだし。
    ……こんな時でなければ、社交界大好きな母親や見栄っ張りな父親なんて居ない方が楽なんだけど。

    ああ。やっぱりヒロインなんて面倒だわ。
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