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はじまり 2
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静流との初対面はあっという間に時間が過ぎて行った。
他愛もない話をして笑い合い、何故かゲーム自慢でムキになってしまい、どちらの持っているキャラクターが強いかを真剣に言い合った。
そんな俺たちの様子に静流の父は面白そうにしていたけれど、うちの父親は不満そうな顔をしていたのを鮮明に覚えている。そう言えば帰りの車で〈もっと婚約者として選ばれそうな会話をしろ〉と説教されたんだった。
それでも飾る事なく等身大の自分を見せたのが良かったのか、何故か〈婚約者候補〉として選ばれたようで1年間、静流と過ごしてみないかと打診された。
その時に聞かされた事情。
静流の2つ年下の弟である光流は今現在Ωだと確定したわけではないけれど、総合的に見てΩで間違いない事。
早い段階で〈婚約者〉を決めて不必要な諍いが起こらない様にしたい事。
そして、俺には告げられなかった事柄。
とは言っても小学生である。
もしもこの先〈婚約者〉と過ごしていたとしても、年を重ねて〈想う相手〉ができた場合には速やかに婚約解消ができる事。
俺としても〈婚約者〉と言う立ち位置に異論はなかったのだけれども実際に俺の元に話がきたのは決定してからで、1年間という期間限定で月に数度静流と過ごして欲しいとの事だった。
全ては俺の知らない間に決められた事で、重要な事柄は伏せられていたのだ。
平日でも週末でも良いので、とお互いの都合のいい日を調整して長い時は1日、短い時は半日ほど一緒に過ごすのだけれど、とても楽しかった。
静流は話題が豊富で言葉を投げ掛ければ受け止めもするけれど、時々予想のつかない方向に打ち返されてそれを必死で受け止めて、そしてまた打ち返す。
要は知らないうちにディスカッションをしていたのだが、きっとそれは静流が意図してやっていたのだろう。
俺が光流に相応しいかどうか、光流を任せるに値するかどうか。
その頃には学年も上がり、静流と会うのは別邸ではなく離れになっていた。自宅の敷地内に建てられた離れは別邸に比べこじんまりとしており、客室もなく、リビングというよりもプレイルームと呼んだ方がいいような部屋を中心に勉強部屋と寝室、簡易キッチンがあり十分そこで生活できる様になっていた。実際、夏休みなどの長期休みには泊まり込むこともあり、俺以外にも離れを利用して遊ぶ相手がいるとも聞いた。
「学校の友達も来るけどさ、護と同じで〈婚約者候補〉として会わされたヤツもいるよ」
隠し事の嫌いな静流はそんな事も隠さずに教えてくれる。教えてくれるどころか一緒に遊ぶ事もあった。
〈婚約者候補〉として会ったものの、性格的に光流とは合わないと判断した中で〈友達〉として付き合いたいと思う相手とは理由をちゃんと伝えた上で付き合いを続けているそうだ。
静流の〈友達〉と言われた彼らはきっと事情を知っていたのだろう。
〈婚約者〉とは形だけと言うわけではないけれど、割と不安定な立場であることを。
俺だけが親から「何としても〈候補〉ではなく〈婚約者〉になれ」とプレッシャーをかけられ重く考えていたのだ。
親の立場から考えれば責める事はできない。俺の父親は一応〈議員〉とか〈先生〉と呼ばれる立場であったため、とにかく後ろ盾が欲しかったのだ。
俺が光流の婚約者となり〈辻崎〉がバックにつくとなればその立場は安泰だ。それだけの力が辻崎にはある。
全てが〈今思うと〉なのだけど、小学生の俺にはそんな事想像することができるわけもなく、ただただ親に言われるままに静流と過ごしていた。
そんな風に月に何度か静流と過ごす内に時折〈本宅〉に案内されるようになった。静流が光流を俺に会わせても良いと判断したからこその処遇だったのだが、何がそうさせたのかは聞くことができなかった。ただ、父親からのプレッシャーが少し弱まるのではないかと思っただけだ。
本宅に通された時は静流の部屋で過ごすのだけど、何度か本宅で過ごす内に家政婦の向井さんがおやつを持ってきてくれる時に光流がついてくるようになった。
「こんにちは」と声をかけると恥ずかしそうに小声で返事を返してくれる可愛い子。紹介されなくてもそれが〈婚約者〉なのだとすぐにわかった。
髪の色も瞳の色も漆黒と言いたくなる様は、艶やかな黒とその肌の白さの中にある可愛らしい唇の赤が扇状的だった。
「弟の光流。2つ年下の4年生だよ」
初めて来た時に静流が紹介してくれた。紹介されなくても〈そう〉なんだろうな、とはすぐに気付いた。
「はじめまして、光流くん?僕は護、君のお兄さんの友達だよ」
怖がらせないように、なるべく優しく言うと光流は困ったように、それでも可愛らしい笑顔を見せてくれた。
小学生といっても6年生だ。色々な事に興味を持つ時期である。
本心を言えばΩと言っても男の子だしな、という気持ちが消しきれてなかった。同じクラスの女の子達が少しずつ〈女性〉に近づいていく様を目にしているのだ。当然意識してしまう。
〈婚約者〉に選ばれなければ父親に何を言われるか分からないけれどΩと言えど男の子だもんな、と若干拗ねていたのに目を奪われてしまった。
この子が欲しい。
今思えばアレが初めて感じたΩへの執着だったのだろう。
他愛もない話をして笑い合い、何故かゲーム自慢でムキになってしまい、どちらの持っているキャラクターが強いかを真剣に言い合った。
そんな俺たちの様子に静流の父は面白そうにしていたけれど、うちの父親は不満そうな顔をしていたのを鮮明に覚えている。そう言えば帰りの車で〈もっと婚約者として選ばれそうな会話をしろ〉と説教されたんだった。
それでも飾る事なく等身大の自分を見せたのが良かったのか、何故か〈婚約者候補〉として選ばれたようで1年間、静流と過ごしてみないかと打診された。
その時に聞かされた事情。
静流の2つ年下の弟である光流は今現在Ωだと確定したわけではないけれど、総合的に見てΩで間違いない事。
早い段階で〈婚約者〉を決めて不必要な諍いが起こらない様にしたい事。
そして、俺には告げられなかった事柄。
とは言っても小学生である。
もしもこの先〈婚約者〉と過ごしていたとしても、年を重ねて〈想う相手〉ができた場合には速やかに婚約解消ができる事。
俺としても〈婚約者〉と言う立ち位置に異論はなかったのだけれども実際に俺の元に話がきたのは決定してからで、1年間という期間限定で月に数度静流と過ごして欲しいとの事だった。
全ては俺の知らない間に決められた事で、重要な事柄は伏せられていたのだ。
平日でも週末でも良いので、とお互いの都合のいい日を調整して長い時は1日、短い時は半日ほど一緒に過ごすのだけれど、とても楽しかった。
静流は話題が豊富で言葉を投げ掛ければ受け止めもするけれど、時々予想のつかない方向に打ち返されてそれを必死で受け止めて、そしてまた打ち返す。
要は知らないうちにディスカッションをしていたのだが、きっとそれは静流が意図してやっていたのだろう。
俺が光流に相応しいかどうか、光流を任せるに値するかどうか。
その頃には学年も上がり、静流と会うのは別邸ではなく離れになっていた。自宅の敷地内に建てられた離れは別邸に比べこじんまりとしており、客室もなく、リビングというよりもプレイルームと呼んだ方がいいような部屋を中心に勉強部屋と寝室、簡易キッチンがあり十分そこで生活できる様になっていた。実際、夏休みなどの長期休みには泊まり込むこともあり、俺以外にも離れを利用して遊ぶ相手がいるとも聞いた。
「学校の友達も来るけどさ、護と同じで〈婚約者候補〉として会わされたヤツもいるよ」
隠し事の嫌いな静流はそんな事も隠さずに教えてくれる。教えてくれるどころか一緒に遊ぶ事もあった。
〈婚約者候補〉として会ったものの、性格的に光流とは合わないと判断した中で〈友達〉として付き合いたいと思う相手とは理由をちゃんと伝えた上で付き合いを続けているそうだ。
静流の〈友達〉と言われた彼らはきっと事情を知っていたのだろう。
〈婚約者〉とは形だけと言うわけではないけれど、割と不安定な立場であることを。
俺だけが親から「何としても〈候補〉ではなく〈婚約者〉になれ」とプレッシャーをかけられ重く考えていたのだ。
親の立場から考えれば責める事はできない。俺の父親は一応〈議員〉とか〈先生〉と呼ばれる立場であったため、とにかく後ろ盾が欲しかったのだ。
俺が光流の婚約者となり〈辻崎〉がバックにつくとなればその立場は安泰だ。それだけの力が辻崎にはある。
全てが〈今思うと〉なのだけど、小学生の俺にはそんな事想像することができるわけもなく、ただただ親に言われるままに静流と過ごしていた。
そんな風に月に何度か静流と過ごす内に時折〈本宅〉に案内されるようになった。静流が光流を俺に会わせても良いと判断したからこその処遇だったのだが、何がそうさせたのかは聞くことができなかった。ただ、父親からのプレッシャーが少し弱まるのではないかと思っただけだ。
本宅に通された時は静流の部屋で過ごすのだけど、何度か本宅で過ごす内に家政婦の向井さんがおやつを持ってきてくれる時に光流がついてくるようになった。
「こんにちは」と声をかけると恥ずかしそうに小声で返事を返してくれる可愛い子。紹介されなくてもそれが〈婚約者〉なのだとすぐにわかった。
髪の色も瞳の色も漆黒と言いたくなる様は、艶やかな黒とその肌の白さの中にある可愛らしい唇の赤が扇状的だった。
「弟の光流。2つ年下の4年生だよ」
初めて来た時に静流が紹介してくれた。紹介されなくても〈そう〉なんだろうな、とはすぐに気付いた。
「はじめまして、光流くん?僕は護、君のお兄さんの友達だよ」
怖がらせないように、なるべく優しく言うと光流は困ったように、それでも可愛らしい笑顔を見せてくれた。
小学生といっても6年生だ。色々な事に興味を持つ時期である。
本心を言えばΩと言っても男の子だしな、という気持ちが消しきれてなかった。同じクラスの女の子達が少しずつ〈女性〉に近づいていく様を目にしているのだ。当然意識してしまう。
〈婚約者〉に選ばれなければ父親に何を言われるか分からないけれどΩと言えど男の子だもんな、と若干拗ねていたのに目を奪われてしまった。
この子が欲しい。
今思えばアレが初めて感じたΩへの執着だったのだろう。
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