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6.まるで王族の食事風景

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この小さな目立たない店は俺のお気に入りの隠れ家で女の子を連れてきたことは此処には無い。


けれどまぁ、エリスには此処がいいかもしれないと柄にも無くテリトリーに彼女を引き入れるとそうだとは知らない彼女は他の令嬢のように大袈裟に店の内装や出てきた料理に「きゃ~っ」とわざとらしい声を上げる事もないが、


軽く目を見開いて、マスターに「素敵なお店ですね」と柔らかい声で伝えると出てきた料理にも「とても美味しい」と上品に、けれど嬉しそうに言った。

に、しても……

まるで王宮でも通用しそうな食事マナーはこちらが負担に思わないほどさりげなくごく自然だ。


綺麗に手入れされた手は、時々剣を握った形跡があってクロフォードの令嬢なのだと実感する。


可愛げがないほどお世辞ひとつ言わない彼女との食事は思いのほか安らいだ時間で此処にして良かったと思えた。



綻んだ口元が、エリスもまた満足してくれているのだと思うと嬉しいのと、あまりにもその所作が美しいので目が離せない。


「何か、付いていますか?」

「可愛い唇が付いてるよ」

「……」

「揶揄ってないよ」

「そう言う所が期待させてしまうんですよ」

「え……」


言葉の内容よりもエリスが自分のことを認知していた事実に驚いた。


(ちょっと、嬉しいかもしれない)


口元が思わず緩んで、表情では分からない筈なのにエリスが引いているのが分かって咳払いで誤魔化す。



「今度、お礼に何処か行かないかな?」


「今日のお礼でしたらたった今頂いております」

(何故やけに構うのかしら)


「君と行きたい所があるんだ」

(何も考えてないのに言ってしまった……)


「気を遣って頂かなくても、充分今日は楽しかったですよ」

「そ、そうか」

(これは、やんわり断られたのか?)


「ありがとうございます」

(遊ぶ女性が途切れていて寂しいのかしら)



エリスはセイランからの頼みとは言え、急に接近してきたジョルジオを警戒していたが、彼はエリスに無意識に好感を持っていた。

けれども彼は、中身は勿論だが外見の好みの偏った人物なのだ。


頭の中ではエリスへの好感を否定していたし王太子夫妻のお墨付きだ、勘違いをさせて外堀から埋められるような事があっては怖いなんて考えながらもどこかで「エリスは大丈夫か」なんて楽観的に思う部分もあった。


それほど会話を交わした訳ではないのに、彼女との無言の時間は居心地が良くて、城に戻るまでの道程がやけに短く思えた。



城に帰ってからのエリスの仕事ぶりは流石で、それはもう速かった。


「そんなに俺と居るのが苦しかったり……?」


あまりの仕事の速さに、思わずそう聞いてしまう程だった。



「へ……?」

「いや、あまりにも仕事が早いから早く帰りたいのかと」



今までの女性秘書官が、ジョルジオと一緒にいる為にわざと仕事をゆっくりしていたのを差し引いても、現在の有能な男性秘書官達を遥かに上回る要領の良さと的確さは思わず秘書官として単純に欲しいと思う。



「いえ……これが普通ですが」

「え、すごく有能」

「……っ、ありがとうございます」


(照れてる?地味なのになんか可愛い……)


「って俺は何を考えているんだ」

「??」

「あ、いや何でもない」

「もう、終わりますが」

「えっ!?ちょっと待って、送るよ」

「良かったらそちらもお手伝いしましょうか?」

「すまない……」

(エリスが気になって集中できなかったとは言えない)


「いえ、そろそろ家が恋しいので」

「……早く帰りたいんだね」

「……」



暫くしてもう全て終わったと、ジョルジオが背凭れに身を沈めたのを見てエリスがお茶のカップを二人分片付け、新しいお茶を一つ淹れた。


「これは疲れを癒す香りのものです、良ければどうぞ」

「え……、ありがとう」

照れたような、困ったような顔ではにかむジョルジオに何とも言えない気持ちになって視線を逸らしたエリスは規則正しいけれど静かな足音が聞こえて「あ」と声を漏らした。



「良かったら、エリスも一緒に……それから送るよ」

「いいえ、その必要はないようですジョルジオ様」



部屋の扉がノックされ、「失礼致します団長、ケールです」と良く通る声が聞こえて何故か少しだけがっかりする。


「入れ」

「妹が失礼していると……」

「お兄様」

「エリス、大丈夫だったか」

「ケールは失礼だな」

「団地は尊敬していますが、妹はやれません」

「お兄様ったら、ただの仕事よ。ジョルジオ様は理想が高いと有名でしょう、私なんて……ね?」


「だが、」


「いや、エリスは素晴らしい女性だよ!」


自信なさげに「私なんて」と言ったエリスに思わず勢いよく否定したジョルジオに警戒するような鋭い視線を向けるケールに更に慌てるジョルジオ。


「ケールっ、それはないよ!」

「ね?」

「いや!違うんだエリス、無い事もない……っ」

「団長、まさか……」

「お兄様、あり得ないわ。ごめんなさいジョルジオ様」

「あ……いや」




「失礼致します、今日はご馳走様でした」と丁寧な仕草で礼をして部屋を出たエリスの所作につい見惚れていると牽制するようなケールの、


「団長、失礼致します」が聞こえて引き攣った笑みで「誤解するなよ」と手を振った。


(な、何やってんだろ俺)

「あーでも、仕事は終わったなぁ本当に有能だ」


(気が利くし、何か仕事したのに落ち着く安らかな時間だったな……)






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