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77.幸せなだけの日があっても良い
しおりを挟む静かな足音だが、逃がさないと言わんばかりの圧力。
ジョルジオがデュノの襟首を捕まえるのにそう時間は掛からなかった。ラナヴァがしらっと視線を逸らしたのを見て思わず笑ったセイランにレイヴンもまた笑いながら「懐かしいな」とジョルジオを見た。
「やっぱりジョルジオとデュノは似てる?」
「いや、よくサボっていたのは俺の方だった」
「レイヴン、貴方が?」
「ああ。ジョルジオは意外と真面目でな、剣の授業だけは」
「おい、」
やんちゃなレイヴンもきっと可愛いだろうと顔を緩めるセイランとジョルジオの子供の頃の話を嬉しそうに、キラキラした目で聞いているエリス。
「もっと聞きたいくらいですね」
「ああ、晩餐の時にでも話そう」
ジョルジオは照れ臭そうに「やめてくれ」とレイヴンに言うものの、嫌そうな顔はせずデュノを連れてしぶしぶと剣の授業へと行った。
「ねぇ、わたしはだれに似てる?」
「ラナヴァ、ふふふ!お父様にもお母様にも似てるわ」
「ほんと?お母様みたいに美人になれる?」
「ええ」
「エリスみたいには……?」
「エリス?」
微笑ましく見ていたエリスは突然自分に話題が向いて少し驚きながらもラナヴァに視線を合わせた。
「ラナヴァ殿下なら、私より遥かに美しくなりますよ」
「ほんと?」
「ええ、ほんとです」
「……デュノと並んでも恥ずかしくないくらい?」
「「「!!」」」
レイヴンとセイラン、エリスは顔を見合わせて微笑み合った。
「ラナヴァ、あなた恋してるのね」
「恋?」
「デュノが好きか?」
「お父さま!うん、デュノがすきよ?」
「まぁ!ラナヴァ殿下……」
驚く大人三人など全く気にした様子も無いラナヴァは幸せそうに笑ってエリスの足元に抱きつくと「ジョルジオを落とせたなら、わたしにも協力してちょうだい」と大人びた我儘でエリスを困らせるのだった。
「積極的なところは私に似たのね」
「確かにな」
「ふふ、私でお役に立てるなら喜んで」
その夜の晩餐は賑やかだった。
ラナヴァがレイヴンにあまりにも似た表情で、大人ぶって「家族にかんぱいね」なんて言うものだから皆で声をあげて笑った。
ジョルジオが脈略もなく「幸せだね」なんて言うものだからレイヴンは怪訝な顔をしたが皆きっと同じことを考えていただろう。
こんなに、平和で幸せなだけの日があってもいいかなと。
「何考えてるんだ?レイヴン」
「いや、昔のことをな……」
食事がすんで部屋で談笑するエリスとセイラン、そして近くで遊ぶ子供たちを穏やかな目でちらりとみてからバルコニーから夜空を見上げた。
首都では田舎ほど星はよく見えないが、それでも綺麗だと思えた。
「昔?」
「お前に負けるのが嫌で、剣の授業をサボっていた話だ」
「え?なに、そんな風に思ってたの」
「ああ……悔しくてな、あまりに人並み外れたお前をみてるとすぐに諦めがついたよ」
「そんな事気にしてたら俺は、座学を全部サボることになってた」
「くくっ……確かに。それはそれで面白いな」
「笑えないよ、あの時は必死で追いついたんだぞ」
「ほんとか?よく居眠ってたが」
「……眠くなるんだよ」
ひとしきり笑って、レイヴンは空を見上げながらジョルジオに呟くように話しかける。
「なぁ」
「ん?」
「ラナヴァは賢い」
「そうだね」
「俺の次はラナヴァだ。次が男でもそうなる」
「みたいだね」
「いいのか?」
ジョルジオが継承権を放棄してまで守ったというのに、もしかしたらまたデュノを巻き込むことになるかもしれない。
そう言う意味だった。
「ただ、好きな人のそばに居るだけだろ」
「……これから危険にも合う筈だ」
「デュノは俺とエリスの子だよ、強い子だ」
「なら、反対はしないんだな」
「デュノも、ラナヴァも、俺達で守ろう」
「……ジョルジオ」
「それに、誰に似たのか毎日口説いてるしねウチの息子が」
「ふ、お前だろ」
何があっても大丈夫、家族がいるから。
そう思えるような優しくて、温かい日だった。
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幸せすぎる~
子供たちのお話まで読めるとは思ってなかったのでうれしいです(*^^*)
エリスを姉として慕ってるってことはセイランは年下だったんですね!
自分都合で人を殺しておいて惚れた相手に騙されたことを嘆くのかと呆れてしまう。
どこまでも自己中な人は生かしても殺しても罰ではなく悲劇のヒロインで空しくなりますね。