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23.漆黒の世界
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「これが、クレア……なのか」
エストは呆然としてしまう。久しぶりに目にしたルーネストではない彼女の姿は服の布がない部分、見える部位の皮膚から黒く、禍々しい蛇のようにうねった呪印が浮き上がり、部屋に充満するほどの瘴気が漂っていた。心なしか部屋の温度が低い気すらする。
きっと魔力の弱い人間なら近づくだけで気分を悪くしてしまい、身体に悪影響が出てしまうだろう。それほどに強いものだった。
エストは事前に聞いていた情報を思い出す。『呼吸をしていることすら奇跡的な状態』。直接見て、改めて理解させられた。まさにその通りだった。
エストがかけられた瞬間に死を意識したほどの呪いだ。それを代わりに受けたにも関わらず、クレアはケントとマルタの魔法というサポートを受けながらではあるが、ギリギリの状態で生きている。誰もが不思議に思った事だった。
「では決めた作戦通りに。お二人共、準備は――」
ケントがエストとクリストファーに問いかける。実行役に選ばれたのはエストとクリストファーの二人だった。二人が一番彼女に近い存在故に、作戦の成功率が上がると判断されたからだ。
「大丈夫さ」
「ああ。とっくに出来ている」
これから行くのは、クレアの精神世界。エストが最初に取ろうとした方法よりは遥かに安全ではあるが、下手をすれば、帰ってこられない可能性もある。
しかし、迷いなどなかった。
***
あの日、ケントとクリストファーが提案してきたのは、クレアの魂ひいては精神に直接干渉し、内部から呪いを破壊するというものだった。
そしてそれに必要なのがクリストファーの特異魔法。クレアとクリストファーは公爵家の中でも特に能力が高く、二人共特異魔法を授かって産まれた。クレアの特異魔法も珍しいものではあるが、クリストファーは更に希少な能力である『夢渡り』というものを持っている。
この能力はその名の通り他人の夢の中を自由に行き来することが出来る精神干渉系の強力な能力であり、レンドーレ公爵家の嫡子に極稀に引き継がれるというものだった。それ故にレンドーレ公爵家は昔から国で秘密裏に国内外の情報収集を任されることも多い力のある家なのである。そのため、王家との関りは深い。
魂と精神は直結している。精神即ち魂が穢されているのであれば、そこで根本的なものを解決すれば良い。今回はその能力を魔法で増幅し、クレアの中にある呪いの核を直接破壊しに行くという作戦なのだ。
ルーネスト、即ちクレアについて調べていく道中でケントはクリストファーの事を知ったらしく、今回クレアが呪いによって倒れたと知った直後にクリストファーにアプローチを掛けたらしい。流石と言える素早い判断だった。
全員の協力によって今、この作戦をとることが出来る。
エストはクレアに近づき、ケント、マルタ、クリストファーの3人によって、クレアの身体の上に組み立てられた術式に手を翳した。
******
全身が一条の光も差さない漆黒の空間に包まれる。暗くて、寒くて、冷たかった。
クリストファーに事前に貰っていた情報を思い出す。精神世界では現実世界と流れる時間や使える魔法の種類が違う。時間は現実世界よりも遅く流れ、魔法は各個人の想像力の強さによって威力が変化するのだ。
「エスト様」
「……クリストファーか?」
「はい。無事、クレアの魂の内部に入れたようですね」
ここは他人の魂の中と言えど、精神だけで入り込んだ精神のみの世界である。魔法を使わなくても、相手がいると分かれば、自ずとその相手の姿も視認することが出来るようになる。
「ああ、時間も限られている。さっさとクレアの呪いを解きに行こう」
そうして、二人は一歩先すらも見えない暗闇へと歩みを進めた――。
エストは呆然としてしまう。久しぶりに目にしたルーネストではない彼女の姿は服の布がない部分、見える部位の皮膚から黒く、禍々しい蛇のようにうねった呪印が浮き上がり、部屋に充満するほどの瘴気が漂っていた。心なしか部屋の温度が低い気すらする。
きっと魔力の弱い人間なら近づくだけで気分を悪くしてしまい、身体に悪影響が出てしまうだろう。それほどに強いものだった。
エストは事前に聞いていた情報を思い出す。『呼吸をしていることすら奇跡的な状態』。直接見て、改めて理解させられた。まさにその通りだった。
エストがかけられた瞬間に死を意識したほどの呪いだ。それを代わりに受けたにも関わらず、クレアはケントとマルタの魔法というサポートを受けながらではあるが、ギリギリの状態で生きている。誰もが不思議に思った事だった。
「では決めた作戦通りに。お二人共、準備は――」
ケントがエストとクリストファーに問いかける。実行役に選ばれたのはエストとクリストファーの二人だった。二人が一番彼女に近い存在故に、作戦の成功率が上がると判断されたからだ。
「大丈夫さ」
「ああ。とっくに出来ている」
これから行くのは、クレアの精神世界。エストが最初に取ろうとした方法よりは遥かに安全ではあるが、下手をすれば、帰ってこられない可能性もある。
しかし、迷いなどなかった。
***
あの日、ケントとクリストファーが提案してきたのは、クレアの魂ひいては精神に直接干渉し、内部から呪いを破壊するというものだった。
そしてそれに必要なのがクリストファーの特異魔法。クレアとクリストファーは公爵家の中でも特に能力が高く、二人共特異魔法を授かって産まれた。クレアの特異魔法も珍しいものではあるが、クリストファーは更に希少な能力である『夢渡り』というものを持っている。
この能力はその名の通り他人の夢の中を自由に行き来することが出来る精神干渉系の強力な能力であり、レンドーレ公爵家の嫡子に極稀に引き継がれるというものだった。それ故にレンドーレ公爵家は昔から国で秘密裏に国内外の情報収集を任されることも多い力のある家なのである。そのため、王家との関りは深い。
魂と精神は直結している。精神即ち魂が穢されているのであれば、そこで根本的なものを解決すれば良い。今回はその能力を魔法で増幅し、クレアの中にある呪いの核を直接破壊しに行くという作戦なのだ。
ルーネスト、即ちクレアについて調べていく道中でケントはクリストファーの事を知ったらしく、今回クレアが呪いによって倒れたと知った直後にクリストファーにアプローチを掛けたらしい。流石と言える素早い判断だった。
全員の協力によって今、この作戦をとることが出来る。
エストはクレアに近づき、ケント、マルタ、クリストファーの3人によって、クレアの身体の上に組み立てられた術式に手を翳した。
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全身が一条の光も差さない漆黒の空間に包まれる。暗くて、寒くて、冷たかった。
クリストファーに事前に貰っていた情報を思い出す。精神世界では現実世界と流れる時間や使える魔法の種類が違う。時間は現実世界よりも遅く流れ、魔法は各個人の想像力の強さによって威力が変化するのだ。
「エスト様」
「……クリストファーか?」
「はい。無事、クレアの魂の内部に入れたようですね」
ここは他人の魂の中と言えど、精神だけで入り込んだ精神のみの世界である。魔法を使わなくても、相手がいると分かれば、自ずとその相手の姿も視認することが出来るようになる。
「ああ、時間も限られている。さっさとクレアの呪いを解きに行こう」
そうして、二人は一歩先すらも見えない暗闇へと歩みを進めた――。
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