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藍という本名を使い花街にある大手の売春宿「春雷荘」の用心棒として、花街に潜り込んだ紅花。そしてその名前を使って、「旬食」で食事をし、累と出会った。
累は当初、客としてしか彼を見ていなかったが、徐々に二人は惹かれ会っていった。恋人だと紹介できる人にはしているし、それに累も悪い気はしていないようだった。
なんてことを練に言えるだろうか。母のように接していた練に、そして恋人として接していた彩に、そんなことが言えるほど残酷だろうか。
「少し調べればわかることだった。彩はきっと累を信じているみたいだし、きっと浮気をしているなんて想像もしていないだろうね。」
「……たかだか道具が浮気をするなど思ってもいないだろうしな。」
「失礼だな。僕も一応ヒューマノイドで、道具なんだろうけど、本人の前でいわないでよ。僕は累と違って案外傷つくんだから。」
「わかっている。」
「で?それがわかってどうするの?累を処分する?」
すると彼はふっと笑い、背の低い真の頭をなでた。
「全ては、練様の判断だ。ただ累を処分することはないと私でも思う。」
「どうして?」
「まだ処分して欲しいモノが残っている。この国のガンだ。」
その言葉に真は唇をかんだ。
どうして累ばかりに……。
最後のお客様が帰り、累は店のカーテンを閉めた。そして皿を洗うために流しにお湯を溜め始める。そのとき店のドアが開いた。
「すいません。今日はもう終わりました。」
よく見るとそれは、銘だった。
「銘。」
「帯が来たわね。」
「えぇ。久しぶりに見ました。」
「どうして帯が来たのかしら。」
「さぁ。どうしてでしょう。お店を見に来たとは言い難いように見えますが。」
そう言って彼女はその皿を洗い出した。その様子にいらついたように銘がカウンターの席に座る。
「あたしが練様に言ったから。」
「練様に?何を言ったのですか?」
「あなたたちのこと。」
その言葉に累は手を止めた。そして銘をみる。
「藍のことを言ったのですか。」
「えぇ。」
「言ったところで何も変わりませんよ。彼はただの用心棒。」
「でも彩にばれるかもしれないわね。」
手を洗い、彼女は体を銘の方に向けた。
「……ちょうど良かったです。」
「どうして?」
「最近辛くなってきていたので。」
「辛い?」
「彼の相手が辛い。目を閉じて、藍を重ねるけれどやはり彩は彩です。愛かなければ、そのような行為が辛いただの作業になりますから。」
「贅沢。」
「あなたにとってはそうでしょうね。」
「でも藍が、あなたが鼠だと言うこと、ヒューマノイドだと言うことは知らない。もし知ったら、彼はあなたを切るのではないの?」
「彼になら殺されてもいい。」
イヤな女。どうしてそんなことをぬけぬけといえるのだろう。彩にもそんなことを言っているのだろうか。そんな風に変えたのは藍だろうか。
「沢山の人の命を奪いました。私はきっと幸せな死に方などしません。それが彼の手で死ぬのだったら、それでかまわない。」
「……もっと愛して欲しいとは思わないの?」
「だから何も知らないウチに、彼に抱かれます。せめていい思い出にになるように。」
「……。」
「銘。」
「何?」
「そのときは、彩を、守ってあげてください。あなたが彩を愛しているなら。」
「そうするつもりよ。」
「良かった。」
彼女はそう言って、また洗い物に手を伸ばした。
その日の夜。累は桜の木の下で、男を待っていた。長い髪を下ろして、風が桜吹雪とともに舞う。
やがて一人の男が彼女の元へやってきた。背が高くがっちりした体型をしていた男。それは藍だった。
「藍。」
藍は彼女を見つけると、すぐに駆け寄った。そして彼女を抱きしめる。
「一日が長い。時間が合わないからな。」
「藍……。」
彼女はそう言って、彼の背中に手を伸ばした。しかしその瞬間、彼女は焼けるような痛みを背中に感じた。
「お前が緑称を殺したとはな。」
「お前があの人を殺した。」
「人殺し。」
「死ね。ヒューマノイド。」
汗をかいて目を覚ました。体を起こすと汗にまみれている。
「累?」
横で眠っていたのは、彩だった。いつの間にかやってきて眠っていたらしい。
「……どうしたの?」
「夢を見ました。」
「夢?君が夢を見るなんて珍しいね。」
人間と基本的な作りは一緒であるから、夢を見ることはあるのだがこんなに悪夢にうなされることはほとんどない。
「累。来て。抱きしめてあげるから。」
彼はそう言って彼女を抱きしめた。
だが安心することはない。鼠であることを藍は何も知らないのだ。それなのに自分を愛してくれている。もしも彼が知ったら、本当に彼女を殺すかもしれないのだ。それが一番怖い。
累は当初、客としてしか彼を見ていなかったが、徐々に二人は惹かれ会っていった。恋人だと紹介できる人にはしているし、それに累も悪い気はしていないようだった。
なんてことを練に言えるだろうか。母のように接していた練に、そして恋人として接していた彩に、そんなことが言えるほど残酷だろうか。
「少し調べればわかることだった。彩はきっと累を信じているみたいだし、きっと浮気をしているなんて想像もしていないだろうね。」
「……たかだか道具が浮気をするなど思ってもいないだろうしな。」
「失礼だな。僕も一応ヒューマノイドで、道具なんだろうけど、本人の前でいわないでよ。僕は累と違って案外傷つくんだから。」
「わかっている。」
「で?それがわかってどうするの?累を処分する?」
すると彼はふっと笑い、背の低い真の頭をなでた。
「全ては、練様の判断だ。ただ累を処分することはないと私でも思う。」
「どうして?」
「まだ処分して欲しいモノが残っている。この国のガンだ。」
その言葉に真は唇をかんだ。
どうして累ばかりに……。
最後のお客様が帰り、累は店のカーテンを閉めた。そして皿を洗うために流しにお湯を溜め始める。そのとき店のドアが開いた。
「すいません。今日はもう終わりました。」
よく見るとそれは、銘だった。
「銘。」
「帯が来たわね。」
「えぇ。久しぶりに見ました。」
「どうして帯が来たのかしら。」
「さぁ。どうしてでしょう。お店を見に来たとは言い難いように見えますが。」
そう言って彼女はその皿を洗い出した。その様子にいらついたように銘がカウンターの席に座る。
「あたしが練様に言ったから。」
「練様に?何を言ったのですか?」
「あなたたちのこと。」
その言葉に累は手を止めた。そして銘をみる。
「藍のことを言ったのですか。」
「えぇ。」
「言ったところで何も変わりませんよ。彼はただの用心棒。」
「でも彩にばれるかもしれないわね。」
手を洗い、彼女は体を銘の方に向けた。
「……ちょうど良かったです。」
「どうして?」
「最近辛くなってきていたので。」
「辛い?」
「彼の相手が辛い。目を閉じて、藍を重ねるけれどやはり彩は彩です。愛かなければ、そのような行為が辛いただの作業になりますから。」
「贅沢。」
「あなたにとってはそうでしょうね。」
「でも藍が、あなたが鼠だと言うこと、ヒューマノイドだと言うことは知らない。もし知ったら、彼はあなたを切るのではないの?」
「彼になら殺されてもいい。」
イヤな女。どうしてそんなことをぬけぬけといえるのだろう。彩にもそんなことを言っているのだろうか。そんな風に変えたのは藍だろうか。
「沢山の人の命を奪いました。私はきっと幸せな死に方などしません。それが彼の手で死ぬのだったら、それでかまわない。」
「……もっと愛して欲しいとは思わないの?」
「だから何も知らないウチに、彼に抱かれます。せめていい思い出にになるように。」
「……。」
「銘。」
「何?」
「そのときは、彩を、守ってあげてください。あなたが彩を愛しているなら。」
「そうするつもりよ。」
「良かった。」
彼女はそう言って、また洗い物に手を伸ばした。
その日の夜。累は桜の木の下で、男を待っていた。長い髪を下ろして、風が桜吹雪とともに舞う。
やがて一人の男が彼女の元へやってきた。背が高くがっちりした体型をしていた男。それは藍だった。
「藍。」
藍は彼女を見つけると、すぐに駆け寄った。そして彼女を抱きしめる。
「一日が長い。時間が合わないからな。」
「藍……。」
彼女はそう言って、彼の背中に手を伸ばした。しかしその瞬間、彼女は焼けるような痛みを背中に感じた。
「お前が緑称を殺したとはな。」
「お前があの人を殺した。」
「人殺し。」
「死ね。ヒューマノイド。」
汗をかいて目を覚ました。体を起こすと汗にまみれている。
「累?」
横で眠っていたのは、彩だった。いつの間にかやってきて眠っていたらしい。
「……どうしたの?」
「夢を見ました。」
「夢?君が夢を見るなんて珍しいね。」
人間と基本的な作りは一緒であるから、夢を見ることはあるのだがこんなに悪夢にうなされることはほとんどない。
「累。来て。抱きしめてあげるから。」
彼はそう言って彼女を抱きしめた。
だが安心することはない。鼠であることを藍は何も知らないのだ。それなのに自分を愛してくれている。もしも彼が知ったら、本当に彼女を殺すかもしれないのだ。それが一番怖い。
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