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ポッコチーヌ様のお世話係

さよならの準備②

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 廊下に出たゲルダは更衣室に向かう。少しずつ私物を整理するためである。
 ドアを開け、こじんまりとした部屋に足を踏み入れた。小さな窓と小型のクローゼットしかない殺風景な、しかし見慣れた部屋である。白騎士団において唯一の女騎士であるゲルダのために設えられたこの更衣室は、元は幾つかある仮眠室のひとつだった。
 俺たちが用意したんだぜ、と恩着せがましく胸を張る先輩騎士を思い出し、ゲルダは一人笑う。
 クローゼットを開け、支給された冬用のコートとブーツを取り出した。
 上等な毛皮の襟が付いた厚手の白いコート。貰った時は興奮した。袖を通さずに終わるのは残念だが、仕方ない。

 冬が来る前にゲルダはこの国を出る。
 白騎士ではなくなるのだ。

 ここに居たのはほんの数カ月なのに、随分馴染んだものだなと思う。粗野だが素直で温かい騎士が揃った白騎士団は居心地がよく、楽しかった。
 何より……
 ゲルダは思考を振り切るようにクローゼットを両手で締める。そして、コートを腕に掛けてブーツを掴むと部屋を出た。
 宿舎へ戻るため、出口へ向かって大股で歩く。他の支給品と纏めておき、申請が下りれば直ぐに返却するつもりだった。
 脇目も振らずまっすぐ歩くゲルダの後ろから、誰かが駆けてくる足音がする。

「ゲルダ……!」

 聞き慣れた声に、心臓が跳ねた。
 立ち止まり、ゆっくりと振り向けば、窓から射し込む光を後光のように背負って、麗しい人がこちらへ向かってくる。

「だんちょ……」
「ゲルダ!」

 息を切らしたマクシミリアンは、ゲルダに飛びついた。

「会いたかったぞ。何日ぶりだろうか、お前の姿を見るのは」
「ほ、ほんの十日ぶりですよ」
「一人で寝るのは寂しかった」
「そうだ!夢は、怖い夢は見ませんでしたか?」

 ゲルダの肩に頬をつけ、ぴったりとくっつきながらマクシミリアンは答える。

「怖い夢は見なかったが、ゲルダの事を考えて中々寝付けなかった。ポッコチーヌが煩くて参った」
「ポ、ポッコチーヌ様が……」
「うん、ちゃんとひとりで出来たぞ。お前の乳を揉んで吸うところを想像してな……」

 ゲルダは仰け反り、辺りを見回した。幸いにも人影はない。

「いつでもまぐわえるぞ。直ぐにでも」
「だっ、団長、捜査の方は」
「一旦帰ることを許された。夕方には戻らなくてはならないが」
「そ、それではお休みになられた方が」

 マクシミリアンの身体を剥がしにかかるゲルダだったが、更に抱き込まれ、離れることが叶わない。

「休むならゲルダと寝たい」

 冗談じゃない。ここでヤッちまったら不味い事になる。それこそヤリ逃げになってしまうじゃないか。

「騎士達にはお会いになられましたか?皆心配しておりましたので、顔を見せておあげになった方がよろしいですよ」
「さっき、戦略の受講中だというから顔を出したが、大半が寝ていたぞ。?を入れてきた」
「そ、そうでしたか……」
「部屋へ行こうゲルダ。口付けをしたい」

 ストレートに迫ってくる美形を回避する術が見つからず、ゲルダは焦る。

「話したいこともたくさんあるのだ。……あ、ポッコチーヌがまた……久しぶりに触れたから」
「ひぃ」

 マクシミリアンの固くなった股間を太腿に感じ、ゲルダは更に慌てた。
 廊下の真ん中で陰茎を固くする騎士団長など、誰かに見られる訳には行かない。

「はっ、早く行きましょう!」

 結局、ゲルダはマクシミリアンの手を引いて、廊下を戻る羽目になったのである。
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