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第一章 さようなら日本、こんにちは異世界

第28話 葬儀の前に

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 池内直樹だった少年が異世界でナキと名乗っていた頃、日本ではその少年の通夜の時間が迫っていた。その時に不意に美千代のスマホが着信を知らせるので、誰だろうかと美千代がスマホの画面を見れば、そこには知らない番号が表示されていた。

「誰かしら?」
「知らない人?」
「そう、番号だけしか表示されていないから、電話帳には入れてない人だと思う」

 守と美千代が鳴り続けるスマホを不思議そうに見ていると橋口が出ないのですかと美千代に聞けば、美千代は「少し気味が悪くて」と橋口に答える。

 すると橋口は美千代に断り、スマホを預かると画面をスワイプしてから電話に出た途端に『あ、やっと繋がった。もしもし、池内君のお母様のスマホでしょうか?』と聞こえてきたので、橋口はスピーカーに切り替えて美千代達にも聞こえるようにしてから『もしも~し』と言い続けるスマホに向かって話しかける。

「もしもし、失礼ですがどちらさまでしょうか?」
『あれ? 男の人だ。もしかして、池内君のお父様でしょうか?』
「先ずはお名前をお聞かせ下さい」
『あ、そうでした。あのぉ私は池内君の担任で川村と申します』
「そうですか。私は池内様の代理を務めさせて頂いております弁護士の橋口と申します。今後は私が池内家の窓口となりますので以後、ご了承願います」
『え~じゃあ、池内さんとは直接お話出来ないと言うことですか』
「はい。そうなります。ところで、ご用件はなんでしょうか?」
『……』

 橋口が電話の向こうにいる川村に代理人であることを伝えると川村は黙り込む。

「え~弁護士が出て来るってどういうことなのよ。親に責任撮って貰おうと思っていたのに!」
 そんなことを川村が考えていると、電話の向こうから『もしもし』と繰り返されるので、川村も少し態度を改めてスマホを持ち直し電話に出る。

『もしもし?』
「あ、すみません。ちょっと手元が……それでご用件でしたよね」
『ええ、そうです。池内様にどのようなご用件でしょうか』
「あ、はい。そのですね。池内直樹君のお通夜に参列したいと思いご連絡いたしました。どちらへ伺えばよろしいでしょうか?」
『すみません。お通夜も告別式も家族やごく親しいお身内だけということで他の人にはご遠慮させて頂いています。特にあなた方学校関係者は特に』
「そ、それはどういう意味でしょうか?」
『それはあなた方がよくご存知のはずです。では、失礼致します』
「あ、ちょっと……切られちゃった。もう、どうするのよ!」

 川村は握りしめていたスマホをベッドへと放り投げる。

「あれ、弁護士を雇う余裕があるってことは……そういうことよね。じゃあひょっとしたらひょっとするかも。うふふ」

 川村はとても教職者が考えることではないことを思いながら、ほくそ笑む。

「私はまだまだこれからなのよ。見てなさい。私を捨てたことを後悔させてやるんだから!」

 川村との通話を終えた橋口はスマホを美千代に渡すと「知らない人からの電話は私に任せてもらえますか」と守と美千代に言うと、二人は「分かりました」と承知する。

「それにしても……」
「どうしました?」

 川村との通話を終えた橋口が何か考え込むような素振りを見せたことで、守はなにかあったのかと橋口に聞くと「いえ」と口にしてから橋口は「おかしいんですよ」と言う。

「おかしいとは?」
「あのですね。あの川村という担任はそれほど熱心な教育者ではないんですよ。出来る限り生徒との関係は持たずにいたいという風にですね」
「え? でも、学校関係者としては通夜に出るという考えは普通ですよね?」
「普通であればですね。ですが、その川村という担任の調査報告書を見る限りでは、そういう風ではないんです。ですから、そんな人物が連絡してきたというのが引っかかるんですよね。それに昨夜もご自宅にまで来たそうなので」
「え……警察署にも来なかったのに?」
「やはり、気になりますよね。部下に言ってもう少し調べてもらいます」
「お願いします」

 橋口からの話を聞き、守も妙だなと思い橋口の提案を受け入れる。

「私達は直樹君の初七日が終わってから、各人に対し訴状を送付致します。ですが、それを受け取った後にあなた方池内家に危害を加えようとする者も出て来ることでしょう。それで、雇い主の方から提案があります。お聞きになりますか」
「……その提案を受ければ、私達家族は無事に過ごせるのでしょうか?」
「はい。それについては雇い主が保証しますので、ご安心下さい」
「あの……」
「詳しいことは直樹君のご葬儀が終わってから、お話しましょう。今は、直樹君を送ることが先でしょうから」
「そうですね」

 美千代は今後のことが気になり、橋口に確認しようとしたが橋口から先ずは葬儀を済ませてからと言われ、美千代は橋口に頭を下げる。

「分かりました。では、橋口さんに全てをお任せします。私としては家族が無事に過ごせるのであれば異論はありません。なんでも言われた通りにしますとお伝え下さい」
「承知しました。では、雇い主の方へはその様にお伝えします」
「その……雇い主と言われる方にはお目にかかれるのでしょうか」
「今は難しいとだけお伝えしておきます。ですが、必ずお二人にお会いされます。今はそれだけでご了承ください」
「分かりました」
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