復讐なんて意味がない? そんなのやってみないと分からないよね

ももがぶ

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第1章 始まり

第4話 なんでだろうね

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「ねえ、優太君。一緒に行こうよ」
「いや、悪いけど僕は理恵かんとは一緒に行けないよ」
「なんで? だって、私達は幼馴染みじゃない」
「ああ、そうだよ。でも、それは謙君もだけどね」
「チッ」

 少年の名前を聞いた後に生徒達は個々人でバラバラに活動しても直ぐに死んじゃうかなと皆で相談した結果、異世界に慣れるまでは集団で行動する方がいいだろうと委員長を中心としたいわゆる優等生中心の勤勉なグループ、ジョーを中心としたイケイケなグループ、「異世界ヒャッハァ~するでござる!」なオタクなグループの三つに分かれたところで、優太と幼馴染みの佐々木理恵が優太に一緒に行こうと誘ってくるが、優太はそれを断る。すると、その様子を見ていたジョーがチッと舌打ちしたのが優太の耳に入る。

 理恵は確かに優太の幼馴染みで同じ社宅で暮らしていた。そして理恵の父親は優太の父親の後輩にあたり同じ職場に勤めている。だが、最近は理恵の父親が次の異動で昇格することが決まるだろうと言われ、そうなれば「負け犬小屋」と呼ばれている今の社宅から出るんだと父親が意気込んでいた。だから、それまでの辛抱だと優太と仲のよいフリをしていたが、それももう少しで終わるハズだった。だけど、今さっき優太を誘って断られて「ダメかぁ~」とジョーの元に近付きその腕に抱かれる。

「お前がちゃんと芝居しないからだろ! これで計画がパァだよ」
「そんなこと言われても私のせいじゃないでしょ。だって、ゆ……ジョーが睨むからじゃないの。お芝居なんだから、少しくらい優太とじゃれたってガマンしてくれてもいいじゃない。ちょっと、心が狭いんじゃないの?」
「ば、バカ言ってんじゃねぇ! まあ、失敗したならいいさ。だがな、優太。覚えておけよ。お前をるのは、この俺だからな。それまでせいぜい頑張って生きててくれよ。じゃあな、ふん!」
「じゃあね、優太バイバイ!」

 ジョーと理恵達七人が転移門を潜るのを見送ると、今度はオタクグループが次は自分達の番だとばかりに少し小走りに転移門の前へとやって来たのだが、ホンのちょっと運動? しただけなのにゼェ~ハァ~と呼吸が荒くなっている。優太は小太り三人のオタクグループを見て、悪いことしちゃったかなと思っていたけど、やがて息を整えたオタクグループ全員が優太の手を握り「「「感謝します! 優太殿!」」」と涙を流して感謝する。

「え、えっ……どういうこと? だって、僕は君達を巻き添えにしたんだよ。恨まれることはあっても感謝される筋合いはないとおもうんだけど……どうして?」
「分かりませんか?」
「うん、ちっとも。ゴメンね」
「いいえ。謝らないでいただきたい。我々はあれだけ望んでいた異世界への入り口に立っているのですから。もう、優太殿には感謝してもしたりません! 本当にありがとうございます!」
「「ありがとうございます!」」
「い、いえ。こちらこそ、すみません」
「ははは、さっきも言いましたが気にされることはございませんぞ。ですが、もし我々の望みを聞いて頂けるのならお願いしたいことがあります」
「「お願いします!」」
「え……ぼ、僕に出来ることなら、いいけど」
「では、我々とは不戦協定を結んでいただきたい!」
「「いただきたい!」」
「え、いいけど。ホントにそんなことでいいの?」

 優太は巻き添えにしてゴメンとオタクグループに頭を下げて謝るが、オタクグループの小田正人おだまさとは優太の手をギュッと握りしめ「ありがとう」と言い優太の思いとは真逆の反応を示すものだから、優太は戸惑ってしまう。だが、小田達三人はあれだけ夢見ていた異世界へ行けるのだからいくら感謝しても足りないと言う。小田は信号待ちをする度に「今、トラックに撥ねられたら異世界に行けるかも」という思いが頭をよぎっては「ダメだ。必ず異世界へ行けるという確証がない」と断念するしかなかったそんな異世界への扉が今、自分達の目の前にあるのだから優太には感謝しかないと涙を流している。

 優太はそんな三人と不戦協定を結んだ。三人は転移門を潜る前に「異世界を堪能しまくるぞぉ!」「「おぉ!」」と声に出し優太に手を振りながら転移門の向こうへと消えていった。

「なんだか拍子抜けしちゃうな」と三人を見送った優太は最後に残った優等生グループの片桐に「じゃあ、福島君は一人になるけどいいの?」と声を掛けられる。

「うん、ごめんね。委員長達まで巻き込んで」
「いや、僕こそさっきは済まなかった。それに確かに僕もアイツらを止められなかったんだから同罪だよ。それに男の子ならこういうのに憧れるものでしょ。小田達程じゃないけどさ」
「ははは、確かにね。じゃあ、頑張って!」
「ああ、お互いにね。じゃまた」
「うん、また」

 最後のグループの片桐達を見送ると何もない白い空間には優太と少年だけになる。

『さて、優太君はどんなところがいい? なるべくリクエストには応えるよ。だから、分かっているよね?』
「楽しませろってことでしょ」
『そう、やっぱり分かっているね。君は……これで君に特別なスキルが割り当てられるよう頑張った甲斐があるってもんだよ。いやぁホント、苦労したんだから』
「それはウソだよね」
『もう、そこは愛想良く付き合うのがお約束ってもんじゃないの。でもまあ、優太君には言葉通り特別なスキルを用意したんだから、僕をちゃんと楽しませてよ。絶対だからね、いい? 分かってるよね』
「はいはい、ルシファーの言う通りにするって」
『ふふふ、そう言えば優太君は僕の名前を聞いても驚かなかったね』
「だって、君は最初に言ったじゃん。神様でも天使でも悪魔でもないって」
『そりゃ、確かにそう言ったけどさ……物わかり良すぎじゃないかな』
「まあ、いいじゃん」

 少年は片桐からの最後の質問として名前を聞かれ、『僕の名前はルシファーだよ』と言えば、その名前が何を表すか理解した者は怯え、崇めた。

 そして特段変わった様子を見せなかった優太に対しルシファーは当てが外れたとでも言いたげに不満を述べるが優太はそれを笑い「だって、天使か悪魔なんてその人の立ち位置で変わるものだよね。僕には君は天使にしか見えないから」と言えばルシファーはへへっと鼻を擦りながら『それで、優太君はちゃんと有効にそのスキルを使えたの?』と優太に尋ねる。

「うん、バッチリさ」
『じゃあ、もう行くのかい?』
「うん。だから行き先は他の生徒達とは交わらない大きめの島でお願いね」
『それだと、生徒だけじゃなく他の人にも会えない可能性があるけど、淋しくはないの?』
「いいのいいの。暫くは修行の段階だからさ。その場を拠点にして強くなってからだね。異世界を探検して回るのはさ」
『君がそれでいいなら、僕は何も言わないけど……』
「じゃ、もう行くね。あっ……ねえ、君に会いたい時はどうすればいいの?」
『それは……』
「それは?」
『最後の一人になるまでは無理だね』
「そうか。やっぱりそうなんだ。なんとなくそんな予感はしていたけどね。現地の神様って訳でもないだろうなって君の名前を聞いて思ったしね」
『なんか、ゴメンね』
「ううん。じゃ、行くね」
『うん、気を付けてね。君に幸多からんことを願う』
「ありがと。じゃあね、また」
『うん、また……』

 ルシファーは手を振りながら転移門を潜る優太の背中を見詰める。

『あ~あ、行っちゃったかぁ~でも、すぐに会えるよね。きっとまた君に会えると信じているからね。優太君』

 ◇◇◇

 転移門を潜り抜けた太田由梨と山本とクズ担任の三人は「来ちゃったね」「みたいだね」と話した後に「じゃ、ろっか」「そだね」と掴んでいたクズ担任を地面へと放り出せば「うぐっ」とくぐもった声がクズ担任から漏れる。

「ここって大丈夫だよね」
「ん~多分、大丈夫じゃない。ほら、ここって森の中みたいだしさ」
「それもそっか。じゃあ、モノは……っと、あったあった。順子も持っているでしょ。これ」
「え? ちょっと待ってね。え~っと、あったよ、由梨。ってか、いつの間にか名前で呼んでいるし、私もだけどね」
「ま、待て! なあ、待てよ! 待ってくれよ! どうしたんだよ、お前達……なあ、俺の話を聞けよ!」
「「……」」

 転移門を潜り抜けた三人は森の中と思われる場所で二人の女子生徒は蹲るクズ担任を足で抑えながら、肩掛け鞄から出した解体用のナイフを弄びながら誰がどこを刺すか相談していた。それをクズ担任は話を聞いてくれと二人に懇願しているが、二人はグッと更に足に力を込めれば「ぐぇ」と足下から声がする。

「じゃあ、私からね」
「うん、やっちゃって由梨。でも、出来るだけ長く苦しめるのを忘れないでね」
「大丈夫。ちゃんと急所は外すから。でも、血が出過ぎちゃったらどうしよう」
「あ、それなら大丈夫。私が縫うから」
「え? 順子のスキルって治癒なの?」
「違うよ。由梨にだけ言っちゃうけど、私のスキルは家事なの」
「家事? 家事ってあの家事手伝いの家事?」
「そう。だから、その中の裁縫で縫えるみたいだから」
「へ、へぇ~そうなんだ……」
「そゆこと。だから、多少の出血なら大丈夫だから」

 山本は多少の出血なら自分の家事スキルの中の裁縫で多少の傷なら縫えるから心配することはないと言えば、足下のクズ担任が「大丈夫じゃねぇ!」と怒鳴るが太田由梨がそれを遮り右手に持ったナイフでクズ担任の足の甲を刺す。

「うるさいよ。えい! はい、次は順子の番だよ」
「うん。えい!」
「えい!」
「えい! あ、ヤバイかも。ちょっと縫うから待っててね……はい、いいよ」
「じゃ、えい!」
「えい!」
「えい!」
「えい! あ、ちょっと待って。ねえ、息してないよ」

 太田由梨と山本で交互に簡単に殺してしまわないように注意しながら、何箇所か刺した後にクズ担任が呼吸していないと山本が少し慌てれば、太田由梨がクズ担任の顔を疑って見ながら「ホントかな? じゃ……」と左手で鼻を摘まめば「グハッ……殺す気か!」とクズ担任が騒ぐので太田由梨が「死んだふりはダメよ。えい!」とまだ刺していない箇所を刺せば、その次に山本が「えい!」と刺す。

 暫くは機械作業の様に二人で交互に刺し続けているとやがてクズ担任の身体がガクガクと痙攣しだし、「カハッ!」と一呼吸した後に沈黙すると太田由梨が再度、確認する。

「もしも~し……今度はホントみたい」
「うん、そうみたいだね」
「終わったね」
「終わったね。なんだか呆気ないね。あ~あ、なんでこんなのに抱かれたんだろ」
「ふふふ、そうだよね。今考えれば、ホントなんでだろだね」
「ねえ」
「ねえ……ぷっ」
「もう、由梨ってば人が死んだんだよ。笑うところじゃないよ。でも、ぷっ笑っちゃうね」
「順子だって笑ってるじゃん。ってか、私達がったんだし」
「それもそうだね。じゃあ、コレ死体どうしよう」
「もう面倒だし、このままでいいんじゃない」
「そうだね。もい、ここは日本じゃないし、いっか。あ、でもコレは勿体ないかも」
「え、持ってくの?」
「だって、勿体ないじゃない」
「そうだけど……」

 太田由梨はクズ担任の死体から装備を一通り剥ぎ取っていく山本を不思議そうに見ていたが、確かにと考え直し山本を手伝う。

「で、どうするの?」
「収納するの」
「収納?」
「そ、こうやって『収納』……ね?」
「ね? って、え? 何? なんなの?」
「これも家事スキルの一つなの。どう、便利でしょ。あげないけど」
「取らないわよ。欲しいけど……」
「ふふふ、ホントに?」
「ホントだって。ねえ、これからどうしようか」
「ん~とりあえず町か村を目指そうよ」
「そうね。じゃ、行きますか」
「うん、行こう」

 太田由梨と山本は互いに手を握ると山本が「ちょっと待って。このままじゃダメだよ」と言えば、太田由梨はどうしてと不思議そうな顔をするので山本が「これじゃダメでしょ」と互いの服に着いているクズ担任の血痕を指差せば、太田由梨も山本が言いたいことが分かり「ああ、確かに」と納得するが、でもどうすれば川も近くになさそうだしと困ってしまう。

「大丈夫、私に任せて『洗浄クリーン』!」
「キャッ……え、うそ」

 山本が『洗浄』と唱えた瞬間に二人の身体は泡に包まれ衣服に染み付いた血痕がキレイになくなり「凄っ!」と思わず太田由梨の口から漏れる。

「最後まで人に迷惑掛けるヤツだったね」
「ホント、ふん!」
「あ、私も!」

 これで最後と山本がクズ担任の死体にケリを入れれば、太田由梨も自分もと何度も足蹴にしたところで「あ~スッキリした。さ、行こう」と森を抜け街道を目指す。
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