復讐なんて意味がない? そんなのやってみないと分からないよね

ももがぶ

文字の大きさ
15 / 20
第1章 始まり

第15話 夜は長いぞ

しおりを挟む
 優太は坂井誠に注意しながら、上空を飛び続け現場と思われるオークの集落を見付ける。

「時間的にまだ、この辺にいそうなんだけど……あ、いた!」

 優太は時期的に諦めて帰るのなら、今日か明日だろうなと目処を付けていたが思った通りにオークの集落を見渡せる小高い丘の上に坂井誠が身を潜めているのを見付けた。

「あ~もう、諦めたのならさっさと帰ればいいものを……まさか、帰らないってことはないよね。そうなると僕まで……って、僕はさっさと帰ればいいだけか」

 まだ、執拗にオークの集落を観察していた坂井誠だったが、やがて今の自分には無理だとやっと諦め帰途に着いたのは日が暮れ始めた時だった。

「やっと、諦めたか……もう、暗くなるじゃんよ。でも、暗くなる方が僕には都合がいいかな」

 坂井誠が目に見えなくなる距離まで離れたのを確認したが、オークの悲鳴がもし聞こえたら戻って来るかもしれないと考えた優太は日が暮れて、辺りが静かになり始めたころに始めようと考えていた。

 そして、日が落ち始めた頃に五,六体のオークの集団が今日の得物らしき若い男女数人を引き摺りながら集落に戻って来た。

「うわぁ、イヤなもの見ちゃったなぁ……あ! まだ生きているっぽい。どうする? まだ、アイツは安全距離まで離れていない……でも、このままだと、あの人達は……よし!」

 世界地図ワールドマップで坂井誠と自分の位置関係を確かめた優太はまだ安心出来るほど離れていないことを確認していたが、今助けないと捕まっている人達を助けられなくなると考えた優太は、決断する。

「先ずは集落全体に防音結界を……うん、大丈夫。出来たね。じゃあ、次は……」

 優太はオークの集落全体に防音結界を張り、間違っても坂井誠に感付かれないようにすると、今度はその結界内から光りを奪い、完全な暗闇にすると世界地図ワールドマップでオークを赤色で表示、ソレ以外を白色で表示させると、それぞれの数と場所を確認する。

『……』
「まあ、騒ぎたくもなるよね。でも、見えない方が僕にとって色々都合がいいからね」

 優太が光りを奪った防音結界の中では急に暗くなり何も見えない状態になったため、オークもだけど、まだ生きている男女も騒いでいた。

「さてと……じゃあ、そろそろ済ませますか」

 優太は腰の刀を抜き隠密スキルを実行すると、ゆっくりと忍び足で防音結界の中へと入っていく。

「ふふふ、暗視スキルに隠密スキル、それに気配遮断に殺気も大分、コントロール出来る様になったから、そこいらの雑魚オークじゃ無理だよねっと。はい、先ずは一体、次に二体……」

 優太は光りが一切ない暗闇の世界で暗視スキルに気配察知スキルを使い、自由に歩きながら、目に付いたオークを一体、二体と次々と首を斬ってはインベントリに収納していく。

「さて、捕まった人達は……」

 優太は捕まった男女の安否を確認しようと途中で出会ったオークを片付けながら、近付くが捕まった人達は両手を縛られた状態で転がされていた。そんな状態でもなんとか助かりたいと思う一心からかなんとか立ち上がり出口を目指して歩こうにも、この暗闇ではその出口すら分からない。

「助かりたいのならジッとしていればいいのに」と思ったが、優太自身も何も分からない状態でいきなり真っ暗になれば無理もないかと無闇にウロつこうとする人達に近付き口を抑えてから「助けに来ました。大声を出せば、それを目指してオークがやって来ます。なので静かにして下さい。分かったら頷いて下さい」と一人ずつ声を掛け、全員を一箇所に集めると彼らの周囲に障壁を張り、オークが手を出せないようにすると「すぐに終わりますから」とだけ声を掛ければ強制睡眠スリープで全員を眠らせて残りのオークの殲滅作業に掛かる。

「ふぅ~もう、随分狩った気がするけど……うわっ!」
『グルァァァ!』
『プギィ~』

 優太は突然、背後からの気配を察知すると間一髪のところで、そのオークキングからの襲撃を避けることが出来た。

「あっぶな……でも、なんで? 気配も遮断しているし、殺気も抑えているハズなのに……あ!」

 優太はなんで自分の居場所がオークキングとオーククイーンに察知されたのかを考え、一つの答に辿り着いた。

「臭いか! でも、そんな臭くはないと思うんだけど……って、もう危ないなぁ!」
『ゴァァァァァ!』
『プゲェ!』

 優太は絶えず襲ってくるオークキングとオーククイーンの攻撃を避けながら、冗談言っている場合じゃないのは分かっているけど臭いはどうしようも出来ない。優太は相手は自分の臭いだけで自分の姿が見えている訳ではないだろうが、自分は暗視スキル等を使いほぼ昼間と変わらない状態で戦える。

「同時に二体は厳しいな。じゃあ、最初は……お前だ!」
『プギィ!』
『ガァァァァァ!』

 優太は二体のオークキング、オーククイーンの内、オーククイーンに狙いを定めると右肘から先を切断する。

 オーククイーンはいきなり襲ってきた痛覚と右肘から先が無くなった感覚に怯え悲鳴を上げるが、オークキングには今の状態を確認することは出来ない。だが、連れであるオーククイーンの悲鳴を聞き、雄叫びを上げる。

「もう、うるさいな。大人しく狩られてよ。ほいっ!」
『プァァァ!』
『グァァァ!』

 優太は右腕を斬ったオーククイーンの攻撃力を取り上げることが出来たと考えたが、ただでさえオークの膂力は成人男性の三~五倍と言われているのだから、安心することは出来ない。だから、優太はサクッとオーククイーンの首を切断する。

 オークキングはオーククイーンの首の切断面から勢いよく噴き出す鮮血を浴び、オーククイーンがどうなったのか分かったのだろう。自分の方に倒れ込んできた頭のないオーククイーンの亡骸を抱きかかえながら咆哮する。

「なんか可愛そうだけど、ゴメンね……」
『ガァ!』

 オーククイーンの切断面から噴出する鮮血の勢いがなくなり、やがて滴に変わった頃にオークキングはオーククイーンのその亡骸をそっと地面に下ろすと優太の方を見据える。

「うん、ちゃんと認識されちゃったね。こりゃ臭いだけって訳じゃなさそうだ……」
『グォォォ!』

 オークキングは右手に持つ棍棒に似た形状の武器を乱暴に振り回しながら優太の方へと向かって来る。優太はそれに刀を合わせることなく、なんとか躱しながら反撃のチャンスを窺っていた。

「出鱈目に振っているんだろうけど、こんな扇風機みたいに乱暴に振り回されると……もし、万が一あれが当たったら……」

 優太はオークキングの出鱈目な攻撃を躱し続ける自信はあるが万が一、アレが当たったらと思うとゾッとする。

「とはいえ、このままじゃ埒が明かないし……なんとか潜り込まないと……あ!」

 オークキングの攻撃を躱しながらなんとか、その間合いに潜り込めないかと考えていた優太はふと思い付き、オークキングの足下を狙い『掘削ディグ』を発動させれば、オークキングはその足下に出来た窪みに足を取られバランスを崩す。優太はチャンスとばかりに斬りかかろうとするが、オークキングは持っていた棍棒を持ち替え、優太を迎え撃つ。

「いきなり首を狙うのは難しいか。なら……」
『……ゴァァァ!』

 窪みから脱出したオークキングは、二度三度と窪みにハマった足の様子を確認してから雄叫びを上げ、優太への攻撃を再開する。

「窪みに嵌めただけじゃダメなら、斬るしかないだろ!」
『ガァ!』

 優太はオークキングの足下にまた、窪みを作り右足がハマると同時に左足のアキレス腱を切断すればオークキングは短い悲鳴を上げる。

「これで好きには動けなくなるだろうけど、念の為に右足も斬るか」
『グフッ』

 オークキングはアキレス腱を切られた左足の痛みをガマンしながらも右足を窪みから引き上げ両足で立とうと試みるが痛みに耐えられないのか、バランスを崩し左膝を着く。

「もしかしたら痛みに関係なく立ち上がり襲ってくるかと思ったけど、それはなさそう」
『……』

 優太はオークキングの様子を黙って観察していたが、いつまで経ってもオークキングが襲ってくる様子はない。

 優太はもしかして観念したのかなと、そっと近付こうとすれば、そんな優太の方をオークキングの双眸がギンと捉える。

「まだ、目は死んでいない。反撃のチャンスを狙っているみたいだね。ふぅ……じゃあ、行きますか」
『……』

 優太はオークキングの様子から一撃に賭けているのだろうと考え、優太自身も軽く深呼吸をしてから気持ちを落ち着かせると「よし!」と気合いを入れ直し次を最後と決める。

「たかがオークだと侮っていたけど、まさか武人の様に感じるとはね。昔の侍もこんな感じだったのかと思えるよ。でも、悪いけど……これで終わりにさせてもらうよ」
『……』

 オークキングも力を温存しているのか、ただ視線だけで優太の動きを追っていた。優太もそれを感じ取ったのか、下手なことは出来ないと全てのスキルを解除し、オークキングと対峙する。

「なんだかね。僕は別に侍でも騎士でもないけど、あんたの振る舞いを見ていたら、自分が使っているスキルがなんとなく恥ずかしく思えてね。だから、暗闇も解除するよ」
『グァ……』

 優太は隠密スキルや暗闇を解除すると同時に周囲を少しだけ明るく照らす。オークキングは少し眩しそうにしながらも優太の姿を認めると口角の端を上げ、少しだけ笑った様に見える。

「そう。あんたも楽しいんだね。じゃあ、行くよ」
『グァァァ!!!』

 オークキングは左膝を着いた片膝立ちの状態で棍棒を水平に構えると優太の攻撃をじっと待つ。

 優太もオークキングの覚悟にも似た態度に「行くよ」と声を掛け一気に距離を縮める。

 オークキングは向かって来る優太に合わせて棍棒を振るが、優太はそれを屈んで躱せばオークキングは返す刀で縦に振ってくる。優太はそれを寸前で躱せば、そのままオークキングの懐へと入り込み首を撥ねようと刀を水平に振るが、切断は出来なかった。

「一撃で終わらせようと思ったのが甘かったか……ギルマスが言った通りだね。悔しいけど、魔物相手じゃ勝手が違うか」
『……』

 オークキングの首を跳ね飛ばしたと手応えを感じた優太だったが、足下にはオークキングの左手首から先が転がっていた。

「まさか、左腕を犠牲に防ぐとはね。でも、もう防ぐことは出来ないよ」
『ガァ!』

 優太はオークキングの乱撃を縫って懐に入り込むと「今度は躱させない!」と心臓に刀を突き立てた後にすぐに刀を引き抜けばオークキングは左手から先がないのに必死に出血を抑えようとするが、やがて前のめりにズズンと音を立て倒れ落ちる。

「やっと終わった……」

 優太はオーク達から浴びた鮮血をクリーンでキレイにした後に、オークキングとオーククイーンの亡骸をインベントリへと収納する。そして、眠らせていた人達の他に誰もいないことを確認すると、集落のほぼ中央に掘削ディグで深さ五メートル、直径三十メートルほどの大穴を開けると、そこに集落に建てられていた小屋を全て叩き込んでから火魔法で燃やし尽くす。

 優太は後始末を終えると、まだ眠っている助けた人達の側に行き、冒険者ギルドの訓練場へと一緒に転移する。

 訓練場へと転移した優太はまだ灯りが漏れている冒険者ギルドに駆け込むと、作業していたリタにかくかくしかじかと諸事情を説明し助けた人達の救護をお願いし帰ろうとしたところで背後から肩を掴まれ「どこへ行くのかな?」と声を掛けられた。既に誰かは分かっているが、一応念の為にと首だけで振り返り確認すれば、そこにはギルマスが引き攣った笑顔で立っていた。

 優太は肩が外れるんじゃないか思える痛みに耐えながらと「痛いんですけど……」とギルマスに訴えるがギルマスは「夜は長いからな」と笑い自分の執務室へと優太を引き摺っていく。

「あの……労働法に触れると思うんですけど……」
「そんなもん、有るわけないだろ! いいから、全部話せ。な、夜はまだまだ長いぞ。ん?」
「はぁ……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。

棚から現ナマ
ファンタジー
スーはペットとして飼われているレベル2のスライムだ。この世界のスライムはレベル2までしか存在しない。それなのにスーは偶然にもワイバーンを食べてレベルアップをしてしまう。スーはこの世界で唯一のレベル2を超えた存在となり、スライムではあり得ない能力を身に付けてしまう。体力や攻撃力は勿論、知能も高くなった。だから自我やプライドも出てきたのだが、自分がペットだということを嫌がるどころか誇りとしている。なんならご主人様LOVEが加速してしまった。そんなスーを飼っているティナは、ひょんなことから王立魔法学園に入学することになってしまう。『違いますっ。私は学園に入学するために来たんじゃありません。下働きとして働くために来たんです!』『はぁ? 俺が従魔だってぇ、馬鹿にするなっ! 俺はご主人様に愛されているペットなんだっ。そこいらの野良と一緒にするんじゃねぇ!』最高レベルのテイマーだと勘違いされてしまうティナと、自分の持てる全ての能力をもって、大好きなご主人様のために頑張る最強スライムスーの物語。他サイトにも投稿しています。

聖女召喚

胸の轟
ファンタジー
召喚は不幸しか生まないので止めましょう。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

処理中です...