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第1章 始まり
第15話 夜は長いぞ
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優太は坂井誠に注意しながら、上空を飛び続け現場と思われるオークの集落を見付ける。
「時間的にまだ、この辺にいそうなんだけど……あ、いた!」
優太は時期的に諦めて帰るのなら、今日か明日だろうなと目処を付けていたが思った通りにオークの集落を見渡せる小高い丘の上に坂井誠が身を潜めているのを見付けた。
「あ~もう、諦めたのならさっさと帰ればいいものを……まさか、帰らないってことはないよね。そうなると僕まで……って、僕はさっさと帰ればいいだけか」
まだ、執拗にオークの集落を観察していた坂井誠だったが、やがて今の自分には無理だとやっと諦め帰途に着いたのは日が暮れ始めた時だった。
「やっと、諦めたか……もう、暗くなるじゃんよ。でも、暗くなる方が僕には都合がいいかな」
坂井誠が目に見えなくなる距離まで離れたのを確認したが、オークの悲鳴がもし聞こえたら戻って来るかもしれないと考えた優太は日が暮れて、辺りが静かになり始めたころに始めようと考えていた。
そして、日が落ち始めた頃に五,六体のオークの集団が今日の得物らしき若い男女数人を引き摺りながら集落に戻って来た。
「うわぁ、イヤなもの見ちゃったなぁ……あ! まだ生きているっぽい。どうする? まだ、アイツは安全距離まで離れていない……でも、このままだと、あの人達は……よし!」
世界地図で坂井誠と自分の位置関係を確かめた優太はまだ安心出来るほど離れていないことを確認していたが、今助けないと捕まっている人達を助けられなくなると考えた優太は、決断する。
「先ずは集落全体に防音結界を……うん、大丈夫。出来たね。じゃあ、次は……」
優太はオークの集落全体に防音結界を張り、間違っても坂井誠に感付かれないようにすると、今度はその結界内から光りを奪い、完全な暗闇にすると世界地図でオークを赤色で表示、ソレ以外を白色で表示させると、それぞれの数と場所を確認する。
『……』
「まあ、騒ぎたくもなるよね。でも、見えない方が僕にとって色々都合がいいからね」
優太が光りを奪った防音結界の中では急に暗くなり何も見えない状態になったため、オークもだけど、まだ生きている男女も騒いでいた。
「さてと……じゃあ、そろそろ済ませますか」
優太は腰の刀を抜き隠密スキルを実行すると、ゆっくりと忍び足で防音結界の中へと入っていく。
「ふふふ、暗視スキルに隠密スキル、それに気配遮断に殺気も大分、コントロール出来る様になったから、そこいらの雑魚オークじゃ無理だよねっと。はい、先ずは一体、次に二体……」
優太は光りが一切ない暗闇の世界で暗視スキルに気配察知スキルを使い、自由に歩きながら、目に付いたオークを一体、二体と次々と首を斬ってはインベントリに収納していく。
「さて、捕まった人達は……」
優太は捕まった男女の安否を確認しようと途中で出会ったオークを片付けながら、近付くが捕まった人達は両手を縛られた状態で転がされていた。そんな状態でもなんとか助かりたいと思う一心からかなんとか立ち上がり出口を目指して歩こうにも、この暗闇ではその出口すら分からない。
「助かりたいのならジッとしていればいいのに」と思ったが、優太自身も何も分からない状態でいきなり真っ暗になれば無理もないかと無闇にウロつこうとする人達に近付き口を抑えてから「助けに来ました。大声を出せば、それを目指してオークがやって来ます。なので静かにして下さい。分かったら頷いて下さい」と一人ずつ声を掛け、全員を一箇所に集めると彼らの周囲に障壁を張り、オークが手を出せないようにすると「すぐに終わりますから」とだけ声を掛ければ強制睡眠で全員を眠らせて残りのオークの殲滅作業に掛かる。
「ふぅ~もう、随分狩った気がするけど……うわっ!」
『グルァァァ!』
『プギィ~』
優太は突然、背後からの気配を察知すると間一髪のところで、そのオークキングからの襲撃を避けることが出来た。
「あっぶな……でも、なんで? 気配も遮断しているし、殺気も抑えているハズなのに……あ!」
優太はなんで自分の居場所がオークキングとオーククイーンに察知されたのかを考え、一つの答に辿り着いた。
「臭いか! でも、そんな臭くはないと思うんだけど……って、もう危ないなぁ!」
『ゴァァァァァ!』
『プゲェ!』
優太は絶えず襲ってくるオークキングとオーククイーンの攻撃を避けながら、冗談言っている場合じゃないのは分かっているけど臭いはどうしようも出来ない。優太は相手は自分の臭いだけで自分の姿が見えている訳ではないだろうが、自分は暗視スキル等を使いほぼ昼間と変わらない状態で戦える。
「同時に二体は厳しいな。じゃあ、最初は……お前だ!」
『プギィ!』
『ガァァァァァ!』
優太は二体のオークキング、オーククイーンの内、オーククイーンに狙いを定めると右肘から先を切断する。
オーククイーンはいきなり襲ってきた痛覚と右肘から先が無くなった感覚に怯え悲鳴を上げるが、オークキングには今の状態を確認することは出来ない。だが、連れであるオーククイーンの悲鳴を聞き、雄叫びを上げる。
「もう、うるさいな。大人しく狩られてよ。ほいっ!」
『プァァァ!』
『グァァァ!』
優太は右腕を斬ったオーククイーンの攻撃力を取り上げることが出来たと考えたが、ただでさえオークの膂力は成人男性の三~五倍と言われているのだから、安心することは出来ない。だから、優太はサクッとオーククイーンの首を切断する。
オークキングはオーククイーンの首の切断面から勢いよく噴き出す鮮血を浴び、オーククイーンがどうなったのか分かったのだろう。自分の方に倒れ込んできた頭のないオーククイーンの亡骸を抱きかかえながら咆哮する。
「なんか可愛そうだけど、ゴメンね……」
『ガァ!』
オーククイーンの切断面から噴出する鮮血の勢いがなくなり、やがて滴に変わった頃にオークキングはオーククイーンのその亡骸をそっと地面に下ろすと優太の方を見据える。
「うん、ちゃんと認識されちゃったね。こりゃ臭いだけって訳じゃなさそうだ……」
『グォォォ!』
オークキングは右手に持つ棍棒に似た形状の武器を乱暴に振り回しながら優太の方へと向かって来る。優太はそれに刀を合わせることなく、なんとか躱しながら反撃のチャンスを窺っていた。
「出鱈目に振っているんだろうけど、こんな扇風機みたいに乱暴に振り回されると……もし、万が一あれが当たったら……」
優太はオークキングの出鱈目な攻撃を躱し続ける自信はあるが万が一、アレが当たったらと思うとゾッとする。
「とはいえ、このままじゃ埒が明かないし……なんとか潜り込まないと……あ!」
オークキングの攻撃を躱しながらなんとか、その間合いに潜り込めないかと考えていた優太はふと思い付き、オークキングの足下を狙い『掘削』を発動させれば、オークキングはその足下に出来た窪みに足を取られバランスを崩す。優太はチャンスとばかりに斬りかかろうとするが、オークキングは持っていた棍棒を持ち替え、優太を迎え撃つ。
「いきなり首を狙うのは難しいか。なら……」
『……ゴァァァ!』
窪みから脱出したオークキングは、二度三度と窪みにハマった足の様子を確認してから雄叫びを上げ、優太への攻撃を再開する。
「窪みに嵌めただけじゃダメなら、斬るしかないだろ!」
『ガァ!』
優太はオークキングの足下にまた、窪みを作り右足がハマると同時に左足のアキレス腱を切断すればオークキングは短い悲鳴を上げる。
「これで好きには動けなくなるだろうけど、念の為に右足も斬るか」
『グフッ』
オークキングはアキレス腱を切られた左足の痛みをガマンしながらも右足を窪みから引き上げ両足で立とうと試みるが痛みに耐えられないのか、バランスを崩し左膝を着く。
「もしかしたら痛みに関係なく立ち上がり襲ってくるかと思ったけど、それはなさそう」
『……』
優太はオークキングの様子を黙って観察していたが、いつまで経ってもオークキングが襲ってくる様子はない。
優太はもしかして観念したのかなと、そっと近付こうとすれば、そんな優太の方をオークキングの双眸がギンと捉える。
「まだ、目は死んでいない。反撃のチャンスを狙っているみたいだね。ふぅ……じゃあ、行きますか」
『……』
優太はオークキングの様子から一撃に賭けているのだろうと考え、優太自身も軽く深呼吸をしてから気持ちを落ち着かせると「よし!」と気合いを入れ直し次を最後と決める。
「たかがオークだと侮っていたけど、まさか武人の様に感じるとはね。昔の侍もこんな感じだったのかと思えるよ。でも、悪いけど……これで終わりにさせてもらうよ」
『……』
オークキングも力を温存しているのか、ただ視線だけで優太の動きを追っていた。優太もそれを感じ取ったのか、下手なことは出来ないと全てのスキルを解除し、オークキングと対峙する。
「なんだかね。僕は別に侍でも騎士でもないけど、あんたの振る舞いを見ていたら、自分が使っているスキルがなんとなく恥ずかしく思えてね。だから、暗闇も解除するよ」
『グァ……』
優太は隠密スキルや暗闇を解除すると同時に周囲を少しだけ明るく照らす。オークキングは少し眩しそうにしながらも優太の姿を認めると口角の端を上げ、少しだけ笑った様に見える。
「そう。あんたも楽しいんだね。じゃあ、行くよ」
『グァァァ!!!』
オークキングは左膝を着いた片膝立ちの状態で棍棒を水平に構えると優太の攻撃をじっと待つ。
優太もオークキングの覚悟にも似た態度に「行くよ」と声を掛け一気に距離を縮める。
オークキングは向かって来る優太に合わせて棍棒を振るが、優太はそれを屈んで躱せばオークキングは返す刀で縦に振ってくる。優太はそれを寸前で躱せば、そのままオークキングの懐へと入り込み首を撥ねようと刀を水平に振るが、切断は出来なかった。
「一撃で終わらせようと思ったのが甘かったか……ギルマスが言った通りだね。悔しいけど、魔物相手じゃ勝手が違うか」
『……』
オークキングの首を跳ね飛ばしたと手応えを感じた優太だったが、足下にはオークキングの左手首から先が転がっていた。
「まさか、左腕を犠牲に防ぐとはね。でも、もう防ぐことは出来ないよ」
『ガァ!』
優太はオークキングの乱撃を縫って懐に入り込むと「今度は躱させない!」と心臓に刀を突き立てた後にすぐに刀を引き抜けばオークキングは左手から先がないのに必死に出血を抑えようとするが、やがて前のめりにズズンと音を立て倒れ落ちる。
「やっと終わった……」
優太はオーク達から浴びた鮮血をクリーンでキレイにした後に、オークキングとオーククイーンの亡骸をインベントリへと収納する。そして、眠らせていた人達の他に誰もいないことを確認すると、集落のほぼ中央に掘削で深さ五メートル、直径三十メートルほどの大穴を開けると、そこに集落に建てられていた小屋を全て叩き込んでから火魔法で燃やし尽くす。
優太は後始末を終えると、まだ眠っている助けた人達の側に行き、冒険者ギルドの訓練場へと一緒に転移する。
訓練場へと転移した優太はまだ灯りが漏れている冒険者ギルドに駆け込むと、作業していたリタにかくかくしかじかと諸事情を説明し助けた人達の救護をお願いし帰ろうとしたところで背後から肩を掴まれ「どこへ行くのかな?」と声を掛けられた。既に誰かは分かっているが、一応念の為にと首だけで振り返り確認すれば、そこにはギルマスが引き攣った笑顔で立っていた。
優太は肩が外れるんじゃないか思える痛みに耐えながらと「痛いんですけど……」とギルマスに訴えるがギルマスは「夜は長いからな」と笑い自分の執務室へと優太を引き摺っていく。
「あの……労働法に触れると思うんですけど……」
「そんなもん、有るわけないだろ! いいから、全部話せ。な、夜はまだまだ長いぞ。ん?」
「はぁ……」
「時間的にまだ、この辺にいそうなんだけど……あ、いた!」
優太は時期的に諦めて帰るのなら、今日か明日だろうなと目処を付けていたが思った通りにオークの集落を見渡せる小高い丘の上に坂井誠が身を潜めているのを見付けた。
「あ~もう、諦めたのならさっさと帰ればいいものを……まさか、帰らないってことはないよね。そうなると僕まで……って、僕はさっさと帰ればいいだけか」
まだ、執拗にオークの集落を観察していた坂井誠だったが、やがて今の自分には無理だとやっと諦め帰途に着いたのは日が暮れ始めた時だった。
「やっと、諦めたか……もう、暗くなるじゃんよ。でも、暗くなる方が僕には都合がいいかな」
坂井誠が目に見えなくなる距離まで離れたのを確認したが、オークの悲鳴がもし聞こえたら戻って来るかもしれないと考えた優太は日が暮れて、辺りが静かになり始めたころに始めようと考えていた。
そして、日が落ち始めた頃に五,六体のオークの集団が今日の得物らしき若い男女数人を引き摺りながら集落に戻って来た。
「うわぁ、イヤなもの見ちゃったなぁ……あ! まだ生きているっぽい。どうする? まだ、アイツは安全距離まで離れていない……でも、このままだと、あの人達は……よし!」
世界地図で坂井誠と自分の位置関係を確かめた優太はまだ安心出来るほど離れていないことを確認していたが、今助けないと捕まっている人達を助けられなくなると考えた優太は、決断する。
「先ずは集落全体に防音結界を……うん、大丈夫。出来たね。じゃあ、次は……」
優太はオークの集落全体に防音結界を張り、間違っても坂井誠に感付かれないようにすると、今度はその結界内から光りを奪い、完全な暗闇にすると世界地図でオークを赤色で表示、ソレ以外を白色で表示させると、それぞれの数と場所を確認する。
『……』
「まあ、騒ぎたくもなるよね。でも、見えない方が僕にとって色々都合がいいからね」
優太が光りを奪った防音結界の中では急に暗くなり何も見えない状態になったため、オークもだけど、まだ生きている男女も騒いでいた。
「さてと……じゃあ、そろそろ済ませますか」
優太は腰の刀を抜き隠密スキルを実行すると、ゆっくりと忍び足で防音結界の中へと入っていく。
「ふふふ、暗視スキルに隠密スキル、それに気配遮断に殺気も大分、コントロール出来る様になったから、そこいらの雑魚オークじゃ無理だよねっと。はい、先ずは一体、次に二体……」
優太は光りが一切ない暗闇の世界で暗視スキルに気配察知スキルを使い、自由に歩きながら、目に付いたオークを一体、二体と次々と首を斬ってはインベントリに収納していく。
「さて、捕まった人達は……」
優太は捕まった男女の安否を確認しようと途中で出会ったオークを片付けながら、近付くが捕まった人達は両手を縛られた状態で転がされていた。そんな状態でもなんとか助かりたいと思う一心からかなんとか立ち上がり出口を目指して歩こうにも、この暗闇ではその出口すら分からない。
「助かりたいのならジッとしていればいいのに」と思ったが、優太自身も何も分からない状態でいきなり真っ暗になれば無理もないかと無闇にウロつこうとする人達に近付き口を抑えてから「助けに来ました。大声を出せば、それを目指してオークがやって来ます。なので静かにして下さい。分かったら頷いて下さい」と一人ずつ声を掛け、全員を一箇所に集めると彼らの周囲に障壁を張り、オークが手を出せないようにすると「すぐに終わりますから」とだけ声を掛ければ強制睡眠で全員を眠らせて残りのオークの殲滅作業に掛かる。
「ふぅ~もう、随分狩った気がするけど……うわっ!」
『グルァァァ!』
『プギィ~』
優太は突然、背後からの気配を察知すると間一髪のところで、そのオークキングからの襲撃を避けることが出来た。
「あっぶな……でも、なんで? 気配も遮断しているし、殺気も抑えているハズなのに……あ!」
優太はなんで自分の居場所がオークキングとオーククイーンに察知されたのかを考え、一つの答に辿り着いた。
「臭いか! でも、そんな臭くはないと思うんだけど……って、もう危ないなぁ!」
『ゴァァァァァ!』
『プゲェ!』
優太は絶えず襲ってくるオークキングとオーククイーンの攻撃を避けながら、冗談言っている場合じゃないのは分かっているけど臭いはどうしようも出来ない。優太は相手は自分の臭いだけで自分の姿が見えている訳ではないだろうが、自分は暗視スキル等を使いほぼ昼間と変わらない状態で戦える。
「同時に二体は厳しいな。じゃあ、最初は……お前だ!」
『プギィ!』
『ガァァァァァ!』
優太は二体のオークキング、オーククイーンの内、オーククイーンに狙いを定めると右肘から先を切断する。
オーククイーンはいきなり襲ってきた痛覚と右肘から先が無くなった感覚に怯え悲鳴を上げるが、オークキングには今の状態を確認することは出来ない。だが、連れであるオーククイーンの悲鳴を聞き、雄叫びを上げる。
「もう、うるさいな。大人しく狩られてよ。ほいっ!」
『プァァァ!』
『グァァァ!』
優太は右腕を斬ったオーククイーンの攻撃力を取り上げることが出来たと考えたが、ただでさえオークの膂力は成人男性の三~五倍と言われているのだから、安心することは出来ない。だから、優太はサクッとオーククイーンの首を切断する。
オークキングはオーククイーンの首の切断面から勢いよく噴き出す鮮血を浴び、オーククイーンがどうなったのか分かったのだろう。自分の方に倒れ込んできた頭のないオーククイーンの亡骸を抱きかかえながら咆哮する。
「なんか可愛そうだけど、ゴメンね……」
『ガァ!』
オーククイーンの切断面から噴出する鮮血の勢いがなくなり、やがて滴に変わった頃にオークキングはオーククイーンのその亡骸をそっと地面に下ろすと優太の方を見据える。
「うん、ちゃんと認識されちゃったね。こりゃ臭いだけって訳じゃなさそうだ……」
『グォォォ!』
オークキングは右手に持つ棍棒に似た形状の武器を乱暴に振り回しながら優太の方へと向かって来る。優太はそれに刀を合わせることなく、なんとか躱しながら反撃のチャンスを窺っていた。
「出鱈目に振っているんだろうけど、こんな扇風機みたいに乱暴に振り回されると……もし、万が一あれが当たったら……」
優太はオークキングの出鱈目な攻撃を躱し続ける自信はあるが万が一、アレが当たったらと思うとゾッとする。
「とはいえ、このままじゃ埒が明かないし……なんとか潜り込まないと……あ!」
オークキングの攻撃を躱しながらなんとか、その間合いに潜り込めないかと考えていた優太はふと思い付き、オークキングの足下を狙い『掘削』を発動させれば、オークキングはその足下に出来た窪みに足を取られバランスを崩す。優太はチャンスとばかりに斬りかかろうとするが、オークキングは持っていた棍棒を持ち替え、優太を迎え撃つ。
「いきなり首を狙うのは難しいか。なら……」
『……ゴァァァ!』
窪みから脱出したオークキングは、二度三度と窪みにハマった足の様子を確認してから雄叫びを上げ、優太への攻撃を再開する。
「窪みに嵌めただけじゃダメなら、斬るしかないだろ!」
『ガァ!』
優太はオークキングの足下にまた、窪みを作り右足がハマると同時に左足のアキレス腱を切断すればオークキングは短い悲鳴を上げる。
「これで好きには動けなくなるだろうけど、念の為に右足も斬るか」
『グフッ』
オークキングはアキレス腱を切られた左足の痛みをガマンしながらも右足を窪みから引き上げ両足で立とうと試みるが痛みに耐えられないのか、バランスを崩し左膝を着く。
「もしかしたら痛みに関係なく立ち上がり襲ってくるかと思ったけど、それはなさそう」
『……』
優太はオークキングの様子を黙って観察していたが、いつまで経ってもオークキングが襲ってくる様子はない。
優太はもしかして観念したのかなと、そっと近付こうとすれば、そんな優太の方をオークキングの双眸がギンと捉える。
「まだ、目は死んでいない。反撃のチャンスを狙っているみたいだね。ふぅ……じゃあ、行きますか」
『……』
優太はオークキングの様子から一撃に賭けているのだろうと考え、優太自身も軽く深呼吸をしてから気持ちを落ち着かせると「よし!」と気合いを入れ直し次を最後と決める。
「たかがオークだと侮っていたけど、まさか武人の様に感じるとはね。昔の侍もこんな感じだったのかと思えるよ。でも、悪いけど……これで終わりにさせてもらうよ」
『……』
オークキングも力を温存しているのか、ただ視線だけで優太の動きを追っていた。優太もそれを感じ取ったのか、下手なことは出来ないと全てのスキルを解除し、オークキングと対峙する。
「なんだかね。僕は別に侍でも騎士でもないけど、あんたの振る舞いを見ていたら、自分が使っているスキルがなんとなく恥ずかしく思えてね。だから、暗闇も解除するよ」
『グァ……』
優太は隠密スキルや暗闇を解除すると同時に周囲を少しだけ明るく照らす。オークキングは少し眩しそうにしながらも優太の姿を認めると口角の端を上げ、少しだけ笑った様に見える。
「そう。あんたも楽しいんだね。じゃあ、行くよ」
『グァァァ!!!』
オークキングは左膝を着いた片膝立ちの状態で棍棒を水平に構えると優太の攻撃をじっと待つ。
優太もオークキングの覚悟にも似た態度に「行くよ」と声を掛け一気に距離を縮める。
オークキングは向かって来る優太に合わせて棍棒を振るが、優太はそれを屈んで躱せばオークキングは返す刀で縦に振ってくる。優太はそれを寸前で躱せば、そのままオークキングの懐へと入り込み首を撥ねようと刀を水平に振るが、切断は出来なかった。
「一撃で終わらせようと思ったのが甘かったか……ギルマスが言った通りだね。悔しいけど、魔物相手じゃ勝手が違うか」
『……』
オークキングの首を跳ね飛ばしたと手応えを感じた優太だったが、足下にはオークキングの左手首から先が転がっていた。
「まさか、左腕を犠牲に防ぐとはね。でも、もう防ぐことは出来ないよ」
『ガァ!』
優太はオークキングの乱撃を縫って懐に入り込むと「今度は躱させない!」と心臓に刀を突き立てた後にすぐに刀を引き抜けばオークキングは左手から先がないのに必死に出血を抑えようとするが、やがて前のめりにズズンと音を立て倒れ落ちる。
「やっと終わった……」
優太はオーク達から浴びた鮮血をクリーンでキレイにした後に、オークキングとオーククイーンの亡骸をインベントリへと収納する。そして、眠らせていた人達の他に誰もいないことを確認すると、集落のほぼ中央に掘削で深さ五メートル、直径三十メートルほどの大穴を開けると、そこに集落に建てられていた小屋を全て叩き込んでから火魔法で燃やし尽くす。
優太は後始末を終えると、まだ眠っている助けた人達の側に行き、冒険者ギルドの訓練場へと一緒に転移する。
訓練場へと転移した優太はまだ灯りが漏れている冒険者ギルドに駆け込むと、作業していたリタにかくかくしかじかと諸事情を説明し助けた人達の救護をお願いし帰ろうとしたところで背後から肩を掴まれ「どこへ行くのかな?」と声を掛けられた。既に誰かは分かっているが、一応念の為にと首だけで振り返り確認すれば、そこにはギルマスが引き攣った笑顔で立っていた。
優太は肩が外れるんじゃないか思える痛みに耐えながらと「痛いんですけど……」とギルマスに訴えるがギルマスは「夜は長いからな」と笑い自分の執務室へと優太を引き摺っていく。
「あの……労働法に触れると思うんですけど……」
「そんなもん、有るわけないだろ! いいから、全部話せ。な、夜はまだまだ長いぞ。ん?」
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