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先代勇者シズク編
159.先代勇者シズク
日記が閉じるのと、同時に感じる気配。
開いたドアから聞こえてくる、キッチンで何かをしている音。
3人の姿が消えている状況で、それを行う人物に心当たりは無い。
それに、何時の間にかベッドの上に横たわっていた死体が消えていた。
意を決して部屋から出ると、そこには。1人の女性が何かをしていた。
黒髪のポニーテールに、エプロンを着けた大人の女性。少なくとも俺の記憶にはない人物だ。
「あれ、読み終わった?もう少しでお湯が沸くから、座って待ってて」
「⋯⋯あの、どちら様ですか?」
「んー、それよりも。紅茶とコーヒーどっちが好き?」
⋯⋯会話をする気が無いのか?分からん。いや待て。もしかして、この人がこの家の持ち主か?それはつまり⋯⋯。
「そのとおり。私が勇者シズクよ。それで、紅茶とコーヒーどっちがいい?」
女性は手元から目線を上げ、俺の目を見ながらそう言った。紅茶とコーヒーどちらが好きか⋯⋯、どちらかといえば紅茶か?
「紅茶ね、砂糖とミルクはいる?」
⋯⋯砂糖だけで。
「オッケー」
⋯⋯⋯⋯ヤバい。心の中読まれてる。
どうしよう、今こうして考えてる事も筒抜けか。
俺は大人しく、椅子に座って待つことにした。無心。無心だ、何も考えない⋯⋯。
出来るだけ何も考えないようにしていると。勇者シズクが、ティーポットとティーカップが2つ乗ったお盆を持ちながら、テーブルへ近付くと、向かいの席に腰掛けた。
コップに注がれた紅茶からは湯気が立ち上り、良い香りが漂って来た。
「はいどうぞ、砂糖はコレね」
そう言って、ティーカップと砂糖の入った容器が俺の目の前に置かれる。
「ありがとうございます⋯⋯」
「いえいえ。それじゃあ、自己紹介から始める?」
「そうですね⋯⋯。えっと、宮野空といいます。4か月前?くらいに、この世界に来ました」
俺は簡単な自己紹介をした。正確な日にちは覚えていないが、多分それくらいだろう。
「私は水野雫。私の日記を読んでくれたみたいだし、細かい事は省いていいわよね?」
「ええ、はい。えっと、先代勇者で同じ日本出身って事でいいんですよね?」
「その通りね。貴方は⋯⋯何年位から来たの?私は2009年から来たのだけど」
「2009年⋯⋯。俺は2024年から来ました。あれ?でも貴方が居たのは100年前じゃ」
そうだ、先代勇者が居たのは今から100年位前の事だ。俺との差が16年しかないなら計算が合わない。
「100年?え~、もうそんなに経ってるんだね。私の中じゃそんなに経ってない感じだけど、やっぱり魂だけだとその辺の感覚があいまいになるのかな?」
そう言って、勇者シズクは紅茶を一口飲み。続けた。
「一応説明しておくとね。この世界に来る年代と、私達の居た世界の年代はイコールじゃないの」
「えーっと、それはつまり⋯⋯、え、すいません、どういうことですか?」
「フフフ。簡単に言うと、この世界に飛ばされる人間は、未来過去どの時間軸からでもいいの、呼び出した人間の願いを最も叶えられる可能性のある人間が呼ばれるのよ」
なるほど、つまり。俺がこの世界に呼ばれたのは、何かを叶える可能性が一番高いから転移させられたのか。
「その通り。私の時は、あの魔王を倒す存在だったからね。魔王⋯⋯というか、その周りに居た魔物を倒せるのは、私じゃないと無理だったと思うよ?常に有効な魔法を作り続けてやっと倒せたんだし」
「そうなんですね⋯⋯」
「そうなんです。あっそうそう、王族のゴミ共はまだ偉そうにしてた?」
王族?何で王族の話が出てくるんだろうか。⋯⋯っと、頭の中で考えても読まれるんだった。
「⋯⋯あれ?王族に会って無いの?」
「ええ、そもそも。俺が転移してきたのは、この家の側にある草原ですから」
俺がそう言うと。勇者シズクは、手に持ったティーカップを強めにテーブルへと置いた。
「それだと話が変わるね。ちょっと失礼。〈鑑定魔法〉」
そう言って、何かの呪文を唱え。片目にモノクルの様な魔法陣が浮かび上がった。
「⋯⋯ふ~ん。なるほどなるほど。そういう⋯⋯、うわっ。マジ?君ヤバいね」
そう言って勇者シズクは少し引いているように見えた。な、なにが見えたんだろうか⋯⋯。
「結論から言うね」
「あ、はい」
「君をこの世界に呼んだのは、私だから」
⋯⋯⋯⋯。
「⋯⋯⋯⋯はい?」
「だから、君をこの世界に呼び寄せたのは私の願いなの、ごめんね?」
うーん。この人は何を言っているんだろうか。
「あれ~?伝わらない?私が勇者召喚の儀に細工して、君が来るように仕向けたの。君っていうか、私の願いを叶えてくれる可能性が一番高い存在なんだけどね」
「いえ、何となくでは伝わりますが⋯⋯。俺が貴方の願いを叶える?っていう所が、意味わからなくて」
「そんなに難しい事じゃないよ。それに叶えてくれるなら、前払いで破格の魔法教えてあげるし。何だったらこの体も好きにして良いよ?この家の中でしか相手出来ないけど」
「正直な話、その願い事の内容によります。それに俺にはアナが居るので」
そう、俺にはアナが居る。バレたら多分、氷漬けにされて殺される未来しか見えない⋯⋯。
「あれ?そうなの?私は君から恨まれても仕方ない事をしたと思うんだけどね。それともした事無い?」
「ど、どどど童貞ちゃうわ」
「アッハッハッハ。その反応がもう童貞だよ~。私も経験無いから人の事言えないけど」
「⋯⋯ぐぬぬ。それで!貴女の願いっていうのは一体何なんですか?俺に出来る事なんて大してありませんよ」
ひとしきり笑った後、勇者シズクは。真っ直ぐに俺の瞳を見つめ。言った。
「私を殺してほしい。魂ごと⋯⋯ね」
突然の事に、頭を鈍器で殴られた様な衝撃がした。
殺してほしい?何で?そもそも100年前に居たのなら、もうとっくに死んでいるはず⋯⋯。いや、それだと今目の前に居るのは⋯⋯。
「あー、大丈夫大丈夫。ちゃんと本人だよ?そうだな~、一から説明してあげるね」
「⋯⋯⋯⋯お願いします」
「まず、今居る私は魂だけの存在なの。原理としてはこの家に私が作った魔法を掛けててね、魂だけ閉じ込めている状態なの。そして、この家に入れるのは同じ異世界人のみ。つまり君だね。そして私と会う事が出来るトリガーは、あの日記を手に取り、読むこと。そうそう、基本的に私の魂が宿っているのは日記の方だから、そっちを消滅させてくれたら私も死ぬから、殺す時はそうしてね?」
⋯⋯いや、そうしてね?じゃなく。だからあの時シャロがドアを開ける事が出来なかったのか。あ、そういえば。
「ところで、俺の仲間は何処にやったんですか?」
「仲間?⋯⋯ああ、居るね。私の方から危害を加える気ないし。君が本に触れて読み始めた段階で、意識だけこっち側に引き込んだから。この話が終わっても、あっちの世界じゃ1秒位しか経っていないから安心してね」
相変わらず魔法は何でもありかよ⋯⋯。
「そう、なんでもありだよ。特に私はね。⋯⋯あー、日記読んだならわかると思うけど。元の世界に帰るのは不可能だから覚悟だけはしておいてね」
「⋯⋯本当に出来ないんですか?」
「断言するけど無理だね。勇者召喚の儀⋯⋯、正確な名前は分からないけど、ソレは一方通行だからさ。あっちの世界から、こっちの世界へ来る時に、肉体と魂も作り替えられちゃうから。元の世界に魔法が無い以上、逆のパターンはあり得ない」
「だから、君は私を恨んで良いんだよ?」
そう言って、勇者シズクは追加の紅茶をティーカップに注ぎ。口を付けた。
開いたドアから聞こえてくる、キッチンで何かをしている音。
3人の姿が消えている状況で、それを行う人物に心当たりは無い。
それに、何時の間にかベッドの上に横たわっていた死体が消えていた。
意を決して部屋から出ると、そこには。1人の女性が何かをしていた。
黒髪のポニーテールに、エプロンを着けた大人の女性。少なくとも俺の記憶にはない人物だ。
「あれ、読み終わった?もう少しでお湯が沸くから、座って待ってて」
「⋯⋯あの、どちら様ですか?」
「んー、それよりも。紅茶とコーヒーどっちが好き?」
⋯⋯会話をする気が無いのか?分からん。いや待て。もしかして、この人がこの家の持ち主か?それはつまり⋯⋯。
「そのとおり。私が勇者シズクよ。それで、紅茶とコーヒーどっちがいい?」
女性は手元から目線を上げ、俺の目を見ながらそう言った。紅茶とコーヒーどちらが好きか⋯⋯、どちらかといえば紅茶か?
「紅茶ね、砂糖とミルクはいる?」
⋯⋯砂糖だけで。
「オッケー」
⋯⋯⋯⋯ヤバい。心の中読まれてる。
どうしよう、今こうして考えてる事も筒抜けか。
俺は大人しく、椅子に座って待つことにした。無心。無心だ、何も考えない⋯⋯。
出来るだけ何も考えないようにしていると。勇者シズクが、ティーポットとティーカップが2つ乗ったお盆を持ちながら、テーブルへ近付くと、向かいの席に腰掛けた。
コップに注がれた紅茶からは湯気が立ち上り、良い香りが漂って来た。
「はいどうぞ、砂糖はコレね」
そう言って、ティーカップと砂糖の入った容器が俺の目の前に置かれる。
「ありがとうございます⋯⋯」
「いえいえ。それじゃあ、自己紹介から始める?」
「そうですね⋯⋯。えっと、宮野空といいます。4か月前?くらいに、この世界に来ました」
俺は簡単な自己紹介をした。正確な日にちは覚えていないが、多分それくらいだろう。
「私は水野雫。私の日記を読んでくれたみたいだし、細かい事は省いていいわよね?」
「ええ、はい。えっと、先代勇者で同じ日本出身って事でいいんですよね?」
「その通りね。貴方は⋯⋯何年位から来たの?私は2009年から来たのだけど」
「2009年⋯⋯。俺は2024年から来ました。あれ?でも貴方が居たのは100年前じゃ」
そうだ、先代勇者が居たのは今から100年位前の事だ。俺との差が16年しかないなら計算が合わない。
「100年?え~、もうそんなに経ってるんだね。私の中じゃそんなに経ってない感じだけど、やっぱり魂だけだとその辺の感覚があいまいになるのかな?」
そう言って、勇者シズクは紅茶を一口飲み。続けた。
「一応説明しておくとね。この世界に来る年代と、私達の居た世界の年代はイコールじゃないの」
「えーっと、それはつまり⋯⋯、え、すいません、どういうことですか?」
「フフフ。簡単に言うと、この世界に飛ばされる人間は、未来過去どの時間軸からでもいいの、呼び出した人間の願いを最も叶えられる可能性のある人間が呼ばれるのよ」
なるほど、つまり。俺がこの世界に呼ばれたのは、何かを叶える可能性が一番高いから転移させられたのか。
「その通り。私の時は、あの魔王を倒す存在だったからね。魔王⋯⋯というか、その周りに居た魔物を倒せるのは、私じゃないと無理だったと思うよ?常に有効な魔法を作り続けてやっと倒せたんだし」
「そうなんですね⋯⋯」
「そうなんです。あっそうそう、王族のゴミ共はまだ偉そうにしてた?」
王族?何で王族の話が出てくるんだろうか。⋯⋯っと、頭の中で考えても読まれるんだった。
「⋯⋯あれ?王族に会って無いの?」
「ええ、そもそも。俺が転移してきたのは、この家の側にある草原ですから」
俺がそう言うと。勇者シズクは、手に持ったティーカップを強めにテーブルへと置いた。
「それだと話が変わるね。ちょっと失礼。〈鑑定魔法〉」
そう言って、何かの呪文を唱え。片目にモノクルの様な魔法陣が浮かび上がった。
「⋯⋯ふ~ん。なるほどなるほど。そういう⋯⋯、うわっ。マジ?君ヤバいね」
そう言って勇者シズクは少し引いているように見えた。な、なにが見えたんだろうか⋯⋯。
「結論から言うね」
「あ、はい」
「君をこの世界に呼んだのは、私だから」
⋯⋯⋯⋯。
「⋯⋯⋯⋯はい?」
「だから、君をこの世界に呼び寄せたのは私の願いなの、ごめんね?」
うーん。この人は何を言っているんだろうか。
「あれ~?伝わらない?私が勇者召喚の儀に細工して、君が来るように仕向けたの。君っていうか、私の願いを叶えてくれる可能性が一番高い存在なんだけどね」
「いえ、何となくでは伝わりますが⋯⋯。俺が貴方の願いを叶える?っていう所が、意味わからなくて」
「そんなに難しい事じゃないよ。それに叶えてくれるなら、前払いで破格の魔法教えてあげるし。何だったらこの体も好きにして良いよ?この家の中でしか相手出来ないけど」
「正直な話、その願い事の内容によります。それに俺にはアナが居るので」
そう、俺にはアナが居る。バレたら多分、氷漬けにされて殺される未来しか見えない⋯⋯。
「あれ?そうなの?私は君から恨まれても仕方ない事をしたと思うんだけどね。それともした事無い?」
「ど、どどど童貞ちゃうわ」
「アッハッハッハ。その反応がもう童貞だよ~。私も経験無いから人の事言えないけど」
「⋯⋯ぐぬぬ。それで!貴女の願いっていうのは一体何なんですか?俺に出来る事なんて大してありませんよ」
ひとしきり笑った後、勇者シズクは。真っ直ぐに俺の瞳を見つめ。言った。
「私を殺してほしい。魂ごと⋯⋯ね」
突然の事に、頭を鈍器で殴られた様な衝撃がした。
殺してほしい?何で?そもそも100年前に居たのなら、もうとっくに死んでいるはず⋯⋯。いや、それだと今目の前に居るのは⋯⋯。
「あー、大丈夫大丈夫。ちゃんと本人だよ?そうだな~、一から説明してあげるね」
「⋯⋯⋯⋯お願いします」
「まず、今居る私は魂だけの存在なの。原理としてはこの家に私が作った魔法を掛けててね、魂だけ閉じ込めている状態なの。そして、この家に入れるのは同じ異世界人のみ。つまり君だね。そして私と会う事が出来るトリガーは、あの日記を手に取り、読むこと。そうそう、基本的に私の魂が宿っているのは日記の方だから、そっちを消滅させてくれたら私も死ぬから、殺す時はそうしてね?」
⋯⋯いや、そうしてね?じゃなく。だからあの時シャロがドアを開ける事が出来なかったのか。あ、そういえば。
「ところで、俺の仲間は何処にやったんですか?」
「仲間?⋯⋯ああ、居るね。私の方から危害を加える気ないし。君が本に触れて読み始めた段階で、意識だけこっち側に引き込んだから。この話が終わっても、あっちの世界じゃ1秒位しか経っていないから安心してね」
相変わらず魔法は何でもありかよ⋯⋯。
「そう、なんでもありだよ。特に私はね。⋯⋯あー、日記読んだならわかると思うけど。元の世界に帰るのは不可能だから覚悟だけはしておいてね」
「⋯⋯本当に出来ないんですか?」
「断言するけど無理だね。勇者召喚の儀⋯⋯、正確な名前は分からないけど、ソレは一方通行だからさ。あっちの世界から、こっちの世界へ来る時に、肉体と魂も作り替えられちゃうから。元の世界に魔法が無い以上、逆のパターンはあり得ない」
「だから、君は私を恨んで良いんだよ?」
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