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しおりを挟む婚約が決まって初めての顔合わせは、お城で行われた。相手はまだ10にも満たない、王子様。3つ上のいとこという関係柄、顔を合わせる機会は多々あった。周りには他に子供や大人がいて、同じ空間にただいる、といった表現の方が正しいかもしれない。ただでさえリュートは寡黙で、アイリスとも言葉を交わすことはなかった。
けれどアイリスはリュートについて、それなりに知っている。
前世で婚約はもっと遅かったけれど、昔の婚約者殿なのだから。
リュートは子供にしては冷静すぎる顔で、「よろしく」と手を差し出した。小さいな、と思う。手も、背も、すべてが。自分だってリュートよりもっと小さいのを棚に上げて。
じ、と、そのまだ脂肪がふくふくと乗った柔らかい手の平を見つめる。
アイリスはこれまで子供らしく振舞う真似はあまりしなかった。面倒だからだ。
まだ二歳か三歳だったころから、アイリスは年相応の子供ではなかった。口が小さくうまく回ってくれなくとも、父が飼っている番犬が吠えてきたときは、しっかりと躾もしてやった。前世では流石に恐ろしい犬に泣くことしかできながったが、今は違うのだ。
『おまえたちのあるじをだれだとおもっているの、このばかいぬ。いいこと、つぎほえれば、どうなるか。ばかいぬは、このうぇるばーとんけにひつようないのよ』
ひとりで歩いていたアイリスを迎えにきてくれた母は、自分よりはるかに大きく凶暴な犬をやりこめているアイリスを見て、あなたお父様に似て賢いのね、とむしろ喜んでいた。
家では、取り繕う必要はない。
でも、王子の前だとどうすればいいのかアイリスは思案する。
とりあえず差し出された手を握り、にっこりと微笑んだ。まあ、いい。アイリスはこの人生、好きにやると決めているもの。
「リュート様。こちらこそ、これからずっと、よろしくお願い致しますわ」
せっかく回るようになった口の方が惜しい。今更退化してたまるものか。
大人のような口調をするアイリスに、リュートは顔色一つ変えず、青い目でじっとアイリスのことを見ていた。
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